脳と神経

人体の司令塔!【中枢神経(脳と脊髄)】基本構造と役割分担(機能局在:高次脳機能)

「脳」と「脊髄」は私たちの心身をコントロールする神経の中でも中枢(高次の統合や発動)機能を持つ中枢神経に分類されます。

人体の司令塔となる高次機能が集結している【中枢神経(脳と脊髄)】の基本構造と役割について整理してまとめました。

中枢神経(脳と脊髄)とは?

「中枢神経」とは、神経系の進化により神経が集まって中核機能(高次の統合機能)を担うもので、人間を含む脊椎動物では「脳」と「脊髄」のことです。

「脳」と「脊髄」は、全神経の統合や支配など中枢的役割を果たしている部分であり、身体各部が受けた刺激を末梢神経系を介して中枢神経に届けられることで感覚が生じ、必要に応じて発声・運動・反射などの運動を末梢神経に発令します。

脳は大きく「大脳」「小脳」「脳幹」に分類され、「大脳」はさらに細かい機能分類(機能局在)があります。

名称特徴と役割
大脳「大脳皮質」「間脳(視床と視床下部)」「大脳基底核」「大脳辺縁系」に大きく分類
さらに細かい機能局在あり
小脳運動機能の調節、記憶の保存、高次脳機能など
大脳機能を補助・調整する役割がある
脳幹大脳と脊髄とつなぐ
主に生命維持における需要な機能を担う
脊髄脳と末梢神経をつなぐ
反射など危険回避構造なども制御する

「大脳」役割と機能局在

「大脳」は中枢神経系の中でも最も高次の統合機能を持つ部位で、「大脳皮質」「間脳(視床と視床下部)」「大脳基底核」「大脳辺縁系」に大きく分類できます。

部位役割
大脳皮質機能発動コントロール
間脳(視床と視床下部)視床:嗅覚を除くすべての知覚情報の中継地点
視床下部:自律神経機能の最高中枢
大脳基底核目的や状況に応じた運動を促進し不必要な運動を抑制する
運動の開始や筋緊張の調整
大脳辺縁系本能と情動と記憶を司る脳

「大脳皮質」構造と役割

「大脳皮質」は神経細胞の情報を持っている部分「細胞体」の集まりである灰白質で構成され、大脳の働きを管理している場所で、「知覚情報の収集と分析」と「運動機能の発動」が主な役割になります。

「大脳皮質」に集まる神経細胞は、役割(支配する部位)ごとに神経細胞がある程度まとまって配置されていて、この機能配置のことを「大脳皮質の機能極在(役割分担)」といいます。

名称特徴と役割
前頭葉遂行機能
運動機能
眼球の随意的共同運動
言語中枢
精神活動(感情・判断力・創造など)
頭頂葉知覚および思考の認識や統合(優位側半球の機能)
身体位置の空間的認識(非優位半球の機能)
側頭葉聴覚認識(聞こえてきた音を言葉として認識したり何の音であるかを識別するなど)
記銘力(新しい記憶)
後頭葉視覚
眼球運動

「間脳(視床と視床下部領域)」構造と役割

「間脳」は、大脳内部の第3脳室両脇に位置していて脳幹の一部としてまとめられることもありますが、特徴的な機能をもつ部位として脳幹とは分けて説明していきますが、特に特に注目すべき部位が「視床」と「視床下部」です。

知覚情報の中継地点となる「視床」と自律神経系の制御に関わっている「視床下部」の領域が「間脳」にあり、「大脳皮質」「大脳基底核」「大脳辺縁系」とも密接に関与していますので神経回路を考える上でとても重要な部位です。

部位役割
視床嗅覚を除くすべての知覚情報の中継地点
錐体外路と関連する
視床下部自律神経機能の最高中枢
生体の恒常性を促進と抑制の両面から調整

「視床」は、嗅覚を除くすべての知覚情報の中継地点となる部位で、「身体内あるいは外界からのあらゆる知覚刺激を分析・認識して、知覚の機能局在に従ってそれぞれの知覚領域に伝達する」「錐体外路と関連して共同運動に関与する」「脳皮質全体の活性化」などの役割があります。

「視床下部」は、「交感神経(Th1~L2 より出て全身、および心臓・消化器系・末梢血管・汗腺なども支配)」および「副交感神経(単独の神経路ではなく、動眼、顔面、舌咽、迷走神経などの脳神経や第2~4仙髄に神経核を持ち、それぞれの支配臓器に達し作用する)」を支配していて、自律神経機能の最高中枢として生体の恒常性(体液・体温・食欲・性機能を促進と抑制の両面から調整するしています。

「大脳基底核」」構造と役割

「大脳基底核」は大脳半球の中央部(白質内)にある灰白質核群の総称で、目的や状況に応じた運動を促進し不必要な運動を抑制する役割(随意運動の発現と制御)があり、運動の開始や筋緊張の調整に関与してます。

線条体尾状核
被殻
淡蒼球外節
内節
黒質緻密部
網様部
視床下核

「大脳基底核」は、錐体外路の中継点にあり、大脳皮質から出た運動の命令が末梢方向に伝わって筋肉を動かす時に、視床・小脳・視覚・聴覚などの感覚器からの情報を取り入れて運動が円滑に誤りなく実行されるように間接路と直接路の2つの回路を構成します。

部位
入力部大脳皮質の広い領域から運動に直接関与する情報だけでなく、感覚、情動、認知機能などあらゆる情報運動の発現に関与するあらゆる情報が入力され、大脳基底核全体で統合処理
出力部最終的に処理された内容が運動内容を決定する信号としてここから視床へ伝えられる
視床から最終的には前頭葉の運動野→脊髄へ出力されることによって運動が起こる
介在部直接路(入力部→出力部)とは別の回路
間接路(入力部→介在部→出力部)を構成する部位
修飾部直接路と間接路を形成する線条体の細胞
GABAを有する抑制性にドーパミンを供給する部位

直接路と間接路を形成する線条体の細胞はGABAを有する抑制性であり、大脳基底核の修飾部である黒質緻密部からドーパミン入力を受け、直接路を形成する細胞にはD1受容体を介してドーパミン入力が興奮性に作用し、間接路を形成する細胞にはD2受容体を介してドーパミン入力が抑制性に作用します。(直接路と間接路で相反する働きをします。)

淡蒼球内節と黒質網様部もGABAを有する抑制性の細胞で構成されており常に活発に活動しているため視床の神経活動を持続的に抑制しています。

前頭葉からの入力により線条体の細胞が興奮すると直接路を介して淡蒼球内節や黒質網様部の神経活動が抑制され、一時的に視床に対する抑制が取り除かれるいわゆる「脱抑制」という現象が起こり、これにより視床および前頭葉の活動性が亢進し、結果的に必要な運動が惹起されます。

間接路(視床下核から淡蒼球への連絡)と直接路(線条体から淡蒼球への連絡)を細胞レベルで比較すると間接路が淡蒼球の比較的広い領域をカバーするのに対し、直接路は狭い領域に限局することが知られています。

つまり、直接路が狭い領域への脱抑制効果で特定の運動の発現に関与するのに対し、間接路はその周辺領域への抑制効果によりそれ以外の不必要な運動の抑止に貢献していると考えられています。

直接路は必要な運動を促進する回路で、間接路は不必要な運動を抑制する回路ということになり、両方の回路が正常に働いていることによって私たちの正常な運動が可能になっていて、姿勢を保ったり運動を行う為に筋緊張のバランスを無意識のうちに調節して、手足や体幹のスムースで自然な人間らしい動きにするために重要な働きをしている部位です。

「大脳基底核」機能が正常に働かないとパーキンソン病に代表されるように、スムースな運動ができなくなります。

「大脳辺縁系」構造と役割

「大脳辺縁系」は、大脳正中矢状断、脳梁と第3脳室を取り囲むように位置する部位で、「帯状回・海馬傍回・海馬鉤・扁桃体(嗅覚・視床下部などとも連携)」により構成される複合体です。

「大脳辺縁系」は本能と情動と記憶を司る脳と呼ばれ、生きて子孫を残すために生まれながらにして備わっている、食欲・排泄・性行動・探索・帰巣・好奇心など「本能的な情動や行動」のコントロールしています。

「大脳辺縁系」および関連する「視床下部」では情動反応を制御に関与しているので、障害されると攻撃性や性行動などに異常がでます。

また、「大脳辺縁系」は、人生をより豊かにする為に重要な「記憶機能(特に、身の周りの出来事や体験情報を正しく保持する能力)」を担っていて、長期記憶および短期記憶に関与します。

「小脳」構造と役割

「小脳」は大脳の下に位置し、大脳より「小さな脳」ですが、多様な役割を持つ『小さな巨人』です。

名称特徴と役割
運動機能調整滑らかで自然な人間らしい動きに調整する
記憶の保存記憶を保存するメモリーのようや役割
高次脳機能(認知機能)様々な認知機能や精神行動に関与する

脳血管障害などで小脳機能に障害が生じると、筋肉運動すべての協調性が乱れるため、「巧緻性低下:細かい動作ができない」「随意性低下:思った通りに体が動かせない」「協調性低下:ぎこちない動きになる」「構音障害:言葉を思い通りに発したり、声量の調整が難しく、話す言葉が聞き取りにくくなる」「起立動作や歩行が困難」「運動開始までに時間がかかったり、思ったタイミングで止まれないなど意図的な運動がコントロールできない」「振戦:手足が勝手に震える」「眼球運動障害によるめまいや眼振」「高次脳機能障害」「記憶障害」などが生じます。

運動機能調節

「小脳」には様々な役割がありますが、一番わかりやすいのが運動調整機能です。

「小脳」の運動調整機能は、「マイケルジャクソンのムーンウォーク」と「ロボットダンス」の違いでわかりやすく説明できます。

マイケル・ジャクソンによるパフォーマンスで有名なムーンウォークは、足を交互に滑らし、前に歩いているように見せながら後ろに滑る技法で、とてもしなやかで滑らかな動きが魅力ですが、このムーンウォークという美しいパフォーマンスにするには「小脳」の働きが不可欠です。

小脳機能がない状態でムーンウォークをさせようとすると、手足がガクガクしたぎこちないロボットのような動きになります。

つまり、ロボットダンスとムーンウォークの大きな違いは「運動の滑らかさ」で、人間と同じように関節を作っても、ロボットにムーンウォークのような滑らかな動きができないのは、「小脳」による筋肉の協調運動などの調整機能がないからです。

「小脳」が、大脳皮質、筋・腱・関節などの深部感覚、内耳からの平衡感覚などを統合し、運動の強さやバランスなどを調節することで、滑らかな動きができ、「手足の筋肉の動きを協調させて意図的な動きを滑らかにする」「喋る時の喉や口内の筋肉の動きを協調させて発生する言葉を滑らかにする」「筋肉の緊張を維持し姿勢を保持する」「運動を適切かつ意図したタイミングで開始する」「体位が変化しても目や頭の動きを独立させた状態で維持し平衡感覚を保つ」などが可能になります。

記憶の保存

「小脳」には、大脳の記憶をコピーして保存するメモリーのような役割があります。

一度習得した動作、例えば「自転車に乗る」などの行為が意識しなくてもいつでもできるのは、「小脳」に記憶が保存されていて、すぐに引き出せるようになっているからです。

高次脳機能(認知機能)

「小脳」には、短期記憶や注意力、情動の制御、感情、高度な認識力、計画を立案する、など高次脳機能を制御する機能もあり、統合失調症(分裂病)や自閉症といった精神疾患と関係している可能性も報告されていています。

「脳幹」構造と役割

「脳幹」は解剖学構造上は「大脳」の一部ですが、大脳と脊髄をつなぐ中継地点として大切な機能が集約されていますのであえて分類して説明します。

左右の大脳や小脳に挟まれる「脳幹」には、「中脳」「橋」「延髄」が含まれ、間脳から「中脳」に移行し、「橋」および「延髄」を経て脊髄と連なっていますので、「間脳(視床、視床下部)」を「脳幹」に含める場合もあります。

名称部位神経核など
中脳正中の陥凹部動眼神経
大脳脚
滑車神経
外側中央部三叉神経
外転神経
顔面神経
聴神経
延髄錐体
正中部の溝を挟んだ体軸方向の隆起
運動神経線維の通路
舌下神経
舌咽神経
迷走神経
副神経

「脳幹」には、脳神経の神経線維の中継点である第3~12の脳神経核があり、すべての求心性繊維と遠心性繊維が集合した通路でもあるので、大量の人々が行き交う渋谷のスクランブル交差点みたいに忙しい場所です。

皮質脊髄路は延髄の錐体部で繊維が交叉(錐体交叉)し、皮質延髄路は錐体は通らず脳幹にある脳神経核という中継点に入る直前で交叉するなど、複数の経路がある求心路からの情報は、脳幹を経由して視床に集まり、新しいニューロンとして大脳皮質知覚領野に伝達されます。

また、神経核と神経軸索が入り混じって網状になった組織である脳幹網様体が、脳幹中央部を尾側から中脳・橋・延髄・上部頸髄まで広がり網様体賦活系を形成し、上行路網様体賦活系は、求心性神経路の一部が脳幹網様体にも神経線維を送っていて、大脳皮質知覚領域で認識されやすくする為の指令を視床経由で大脳皮質や大脳辺縁系に送っています。

つまり、「脳幹」は、大脳での知覚情報の認識力向上意識の保持に関与しているので障害されると痛みや音などの知覚刺激が伝わりにくくなり覚醒障害が生じます。

また、下行性網様体賦活系は、錐体外路に属し姿勢の保持や平衡機能維持のための筋緊張の調整に関与していますので、障害されると中脳の障害:徐脳硬直(異常筋緊張の亢進)が生じます。

「脊髄」構造と役割

脳と同じく中枢神経に分類される「脊髄」は、延髄の延長として人体の大黒柱である「背骨」の中を通ってお尻まで伸びている直径は約1.5cmほどの神経の束で、計31個の「髄節」と呼ばれる小節に別れて末梢神経へとつながり、脳からの指令を末梢神経に伝達する経路と末梢神経からの情報を脳へ伝える際の経路を構成したり、反射の中枢として機能しています。

機能責任部位
上行する知覚情報の通路脊髄視床路など
下行する運動指令の通路錐体路
随意運動をスムースにする働き脊髄前角細胞
反射中枢中央の脊髄灰白質

「脊髄」の髄節では、腹側(前根)から遠心性神経線維と背側(後根)から求心性神経線維が1対ずつ出て合流していて、頸神経8対、胸神経12対、腰神経5対、仙骨神経5対、尾骨神経1対の計31対の神経が末梢の筋肉や感覚受容器向けて伸びています。

「脊髄」は脊柱の発達より遅れて完成し(保護する仕組みができてから作られる)、「脊髄」の全長は脊椎よりも短いため、末梢に行けばいくほど対応する髄節と脊椎骨にずれが生じます。

例えば、第1頸神経は頭蓋骨と第1頸神経の間を通り、以下それぞれの脊椎間を通って末梢へ連絡していますが、脊髄の最下端である仙髄・尾髄は第1腰椎の高さで終わっていて、第2腰椎以下の脊髄空には脊髄はなく馬尾の束(腰堆・仙髄の神経根)で対応する脊椎の出口まで走行しています。

腰堆穿刺をヤコビー線(両側の腸骨稜上線を結ぶ線)で行うのは、丁度その位置がL3~4で神経束が馬尾状にばらけていて針が脊髄を刺すことなくできるからです。

横断面で見ると、外周部は白質(縦走する神経線維)からなり前索、側索、後索に区分でき、中央部は灰白質(神経細胞)からなり、H状に広がっていて、前角、側角、後角に区分され、前角から出る繊維を前根、後角から出る繊維を後根と呼びます。

大脳とは逆に脊髄の中央部に灰白質(前角細胞などの神経細胞が集まっている場所)があり、その外側に白質(神経繊維の走行している部分)があること、皮質脊髄路内を通る神経は、外側から仙髄、腰髄、胸髄、頸髄へ行く経路順(つまり、外側から会陰部→下肢→体幹→上肢の順)に配列していることが抑えておくべき特徴です。

例えば、頸髄が外側から圧迫された場合、下肢の運動・知覚障害がまず起こり、頸髄の中心部に腫瘍が発生すると上肢の麻痺が先に生じてくるなど障害される部位で症状の出方に特徴があります。

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