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【子供の脳発達や発育】将来スポーツ選手や世界で活躍する人材を目指す教育方法とよくある間違い

子供は日々の生活や遊びの中で様々なことを覚えて学びながら心身機能を発達させていきますので「スポーツ選手になりたい」「国際社会で通用する力を身に付けたい」など期待はついつい高くなりがちです。

身体、脳機能や神経経路、精神機能の発達過程を理解していると子供の成長やパフォーマンスアップのための適切な教育指導法も見えてきますので、発達を医学的に理解して個人差を受け止めながら子供のパフォーマンスを高めるサポートをしましょう!

本格的なスポーツトレーニングは低年齢から始めた方が良い?

オリンピックなどでは常に「最年少記録」に注目が集まりますが、オリンピックに出場したり、プロスポーツ選手になったり、将来活躍するスポーツ選手になるためには、とにかく小さい頃から本格的な練習を始めることが重要だと思っている人は多いかもしれません。

もちろん低年齢から本格的なトレーニングを始めるメリットはありますが、忘れてはいけない重要な視点があります。

幼少期に特殊トレーニングを行うリスク

幼少期から本格的なトレーニングを始めると、経験をより多く積める、変なクセやこだわりがないので伸びやすいなどのメリットはたくさんありますが、子供の心身機能発達過程を尊重した上で適切なプログラムを組まないと逆効果になる可能性があります。

プロを目指すレベルのスポーツの場合は特に、日常生活とはかけ離れた特殊な身体の使い方をします。

それぞれスポーツ特有の特殊な動きがあり、それを身につけて競い合うレベルまで高めるには、身体が出来上がった大人の選手でさえも、常に心身を壊してしまうリスクと常に隣り合わせという過酷な世界です。

心身がまだ未発達の子供の場合は、あまり特殊すぎる動きばかりを幼少期に練習させてしまうと、正常な発達を阻害してしまうリスクもあります。

10歳までは特に注意

特に子供の身体は発展途上で、これまでに経験したことのない動きや身体の使い方を日々の活動の中で覚えていきます。

一般的に【10歳頃までがゴールデンエイジ】と言われていて、この時期までにいろんな動きを経験して覚えておくことで将来の活動の幅が大きく変わってきます。

様々な経験を楽しみながら行う過程で、本人がものすごく興味を示したり、得意と思われる分野が見つかってから、専門的なトレーニングに移行していく方法が実は最も結果がでるというデータがあります。

もちろん、すでに決まった分野があるのであれば、幼少期から発達過程に合わせてトレーニングを始めること自体は効果的ですが、10歳頃まではできるだけたくさんの種類のスポーツにしかも親子で楽しみにながら触れ、人間としての成長の中でバランスの取れた機能を育てて行くという視点だけは忘れないようにしておくことを強くお勧めいたします。

適性を見極めバランスをとる視点が重要

【適性を見極めバランスをとる視点】は、企業や学校などでの一般的な指導や教育にも通じています。

相手の可能性と能力をきちんと評価して、個性を理解して、時間をかけて育てていくことは、どんな場面でも結果を効率よく出すためのキーポントになります。

成長には必ず個性があって、特に幼少期は他人と比較することにメリットはほとんどありません。

他と比べてなぜできないのか!と焦る必要はまったくなく、その人のペースや個性に合わせての成長曲線が必ずあるので、そこにフォーカスして必要な指導やフォローをしていくことが何より重要です。

理想のパフォーマンスに至るためにはそれ相応のプロセスを踏む必要があり、根性論や理想論だけでは決してたどり着けるものではありません。

早すぎる段階で周りと比較したり、過度に狭い視点で無理を強いることは長い目でみるとマイナスの結果しか生みません。

よかれと思って相手の可能性を奪い、結果自分自身も苦しくならないようにしましょう。

親の「頑張り」が子供の成長を妨げる?

長年裁判所で、児童の裁判に関わっている方がとても「裁判沙汰になる子供に100%共通すること」があると、とても興味深いをことをおっしゃっていました。

100%、つまり全く例外がないということで、誇張でもなんでもなく、100%だと断言していました。

裁判沙汰になる子供に100%共通する親のある行動

「裁判沙汰になる子供に100%共通すること」とは、「親が口を出しすぎる」だそうです。

ちょっと驚きますが、そのあとの解説を聞いていくと納得できます。

「親が口を出しすぎる」とは、具体的に「子供が何か意見を言おうとしても、親がいつも横から先に言ってしまう。」「子供が自分の意志で何かしようと思っても親が予定を組み、その通りにやらせようとする。」などで、子供が自分で何かを表現する機会を親が奪ってしまうことによって、子供の心(脳)はものすごく大きなストレスにさらされます。

しかも、親は良かれと思ってやっているので、そのストレスから逃れることが困難な状態が長時間続きます。

そのうち子供は思考停止(考えることができなくなる)になって、鬱に近い状態になるか、どこかに発散の場所を求めることになります。

未熟で社会経験も十分にないため善悪の判断も上手にできませんし、行動範囲も選択肢も狭い中で、ストレスを解消するために行った行動が結果他人に迷惑をかけ、裁判沙汰となったとしても決して不思議ではありません。

医学的に考えてみても、長い時間の回避困難なストレスが与えられると脳内でのストレス反応では制御しきれなくなり、一部の脳内物質が過剰に反応した状態が起こり、キレたり何らかの問題行動や異常行動が起こりえることは十分に説明ができます。

表現力が未熟な子供であればあるほど、何かしらの行動で表現される部分が大きくなります。

もちろん親がうるさいからと言って100%子供が裁判沙汰になる訳ではありませんが、裁判沙汰になる子供の100%にこのような家庭の事情があるという事実は、医学的な観点からも興味深く、注目すべきことだと思います。

野村克也さんも実践!教えないコーチは名コーチ

野球のメジャーリーグでは「教えないコーチは名コーチ」という格言があります。

「野村再生工場」と言われた野村克也さんもこの教えない教え方で選手やチームを成功に導いてきたといいます。

プロ野球では、バッティング・ピッチング・守備・走塁・バッテリーなど分野ごとにコーチがいて、それぞれが専門的に技術的な指導を行っていますが、あまり手取り足取り教えてしまうと選手が自分で考えなくなってしまうので、コーチたちに「なるべく教えるな(選手が自ら質問するように対応しろ)」と伝えてきたそうです。

「なぜそうなったのか?」「何のためにその練習をするのか?」「どんな練習をすれば課題を克服できるのか?」など、本番を想定して自分で考えて実践するのと、ただ言われた通りに形だけ練習するのでは、マニュアルのない本番では特に結果に大きな差が出ます。

野村さんも教えるのではなく、まず質問して考えさせることを意識し、もし何か意見をいう場合でも「自分はこう思うがどう思う?」と必ず本人に結論を出させるようにしていたとのことです。

考えるとは脳を鍛えること。

脳を鍛えればどんな場面でも最適なアクションを起こせるようになります。

脳のネットワーク:思考経路の種類と仕組み

100年に一度と言われる「コロナウィルス」の蔓延は年単位の戦いになり、世界中で働き方を始めとする生き方そのものを大きく変える必要性に迫られていますし、また近い将来に同じような感染症や戦争などで突然これまで積み上げてきたものやこれまで信じてきた日常が失われる可能性もあります。

人生100年時代を健康で豊かに過ごすためには、物理的に健康な身体を維持するだけではなく、時代の変化に柔軟に対応していく思考(考え方)も不可欠です。

生きている限り休まず働く脳のネットワークの特徴を理解して身体のと同じように鍛える意識を持てば、変化や不安の多い時代でも心を強く持って賢い選択や決断をして豊かに生きられるようになります。

脳のネットワークは切り替わる

人間の脳には「ON/OFF」切り替えスイッチはなく(完全にOFFになるのは死んだときだけ)常にどこかの脳内ネットワークが活性化しています。

思考に関する脳のネットワークは3種類あり、これらの切り替えがスムースなほど、賢明な決断や革新的な考え方ができると言われています。

3種類ある思考経路〜脳のネットワーク

3種類ある思考経路〜脳のネットワーク〜には、それぞれ以下のような特徴があります。

ネットワーク名特徴優位
DMN(直観)
(デフォルトモードネットワーク)
アイデアが生まれる時に活性化するネットワーク
ボーっとしている時や眠っている時のモードで情報や記憶の整理が行われている
右脳優位の思考
SN(大局観)
(セイリエンスネットワーク)
アイデアの絞り込みの時など抽象と具象やミクロとマクロを行き来する思考右脳と左脳を往復する思考
CEN(決断力)
(セントラルエグゼクティブネットワーク)
検討した結果決断する時の論理的思考
左脳優位の思考

AI世代藤井聡太さんとの対決でも注目を浴びている将棋界のスターである羽生善治さんが、『直感力』『大局観』『決断力』についてそれぞれ本を書いていますが、プロ騎士は局面ごとに100パターンくらいの手がパッと思い浮かぶそうでが、これが『直感力(DMN)』です。

パッと思い浮かんだ100パターンから『大局観(SN)』を経て3つくらいに絞り込んで、最終的に論理的考えて一番勝てる手に決める『決断力(CEN)』なので、将棋の勝負では、この3つの思考パターンの繰り返しなのだそうです。

賢く勝てる人の思考の特徴

2018年ハーバード大学で行われた「普通の人」と「イノベーティブ(革新的)な人」で3つの脳内ネットワークの使い方がどう違うのかを調べた研究によると、「イノベーティブ(革新的)な人」は「普通の人」に比べて3つのネットワークの切り替えがうまく、「普通の人」は特定のモードに偏りがちな傾向があるという結果が出たそうです。

つまり将棋界の革命児ともいえる藤井聡太さんや勝ち続ける羽生善治さんは、この3つの思考の切り替えにとても優れているのは間違いないようです。

思考経路を切り替えるスイッチ

3つの思考の切り替えが苦手な普通の人は、まず3つの思考の違いを意識することが必要で、3つの思考モードにはそれぞれ特徴があるため、意識的に環境を変えることで切り替えコントロールがしやすくなります。

直感力(DMN)の特徴と切り替えスイッチ

「アイデアは一生懸命考えている時よりもお風呂やトイレに入っている時にいきなり浮かぶ」「アイデアが突然降ってくる」などとよく言われますが、DMN(デフォルトモードネットワーク)はひとりでボーッとしている時に優位になる思考モード(脳ネットワーク)です。

この仕組みは昔から変わらないようで、北宋時代の中国の詩人で文学者の欧陽脩は、「三上」:「馬上(乗り物に乗っているとき)」「枕上(布団で寝ているとき)」「厠上(トイレにいるとき)」の時にアイデアが生まれやすいと残しています。

つまり直感力を意識的に優位にしたい場合のスイッチは「ひとりでボーッとすること」と言えます。

決断力(CEN)の特徴と切り替えスイッチ

論理的な思考で決断するための「CEN(セントラルエグゼクティブネットワーク)」はみんなと議論している時に自然とスイッチが入る思考モードと言われています。

この観点で面白いのが「何かを決めるためではなく新しいアイデアを出すために行うブレスト(ブレインストーミング)」では、みんなの前でアイデアを発言したり周りの意見を聞くことでアイデアを精査して決断する思考モードに入っているため、新しいアイデアが生まれることはほとんどないそうです。

確かにチーム全体でみればいろんな意見が集まるので自分ひとりでは出なかったアイデアを共有できる機会にはなりますが、個々人で見るとアイデアを生み出す思考モードではなく、決断する思考モードになっています。

大局観(SN)の特徴と切り替えスイッチ

「大局観(SN)」は直観と論理(決断)の間を行き来するモードですが、多くの人の思考は直感か論理に偏っているため、苦手とする人がほとんどです。

森体を見る俯瞰(ミクロ)視点と森の中の植物ひとつひとつに目を向けるマクロ視点を高速で往復して大局(全体像)を把握するのが「大局観(SN)」なので、現場も経営もどっちもいけるプレイングマネージャーのように忙しい思考回路で疲れますが、具体と抽象を行き来して偏りや漏れがなく全体を把握できるためより精度の高い状況判断や決断ができます。

つまり、不安や変化の多い人生100年時代をより豊かに生きるには、「大局観(SN)」を意識的に鍛える必要がありそうです。

日常の思考パターンを整理する

では、私たちの日常生活の中のどんな時にどんな思考パターンが優位になっているのでしょうか?

何か目的に向かったアウトプット(結果)が求められている状態(仕事中 / ON)とそこにいるだけで良いとされている状態(プライベート / Off)を横軸、ひとりの状態とみんなの状態を縦軸にして生活場面を4つに区切ってみましょう。

ひとりひとり
仕事(ON)知的生産
(企画・勉強・読書・資料作成など)
ボーッとする時間
(お風呂・トイレ・散歩・マインドフルネスなど)
プライベート(OFF)
仕事(ON)普段の仕事や雑務
(会議・プレゼン・商談など)
遊びや趣味
(雑談・飲み会・スポーツ・旅行など)
プライベート(OFF)
みんなみんな

大局観(SN)を鍛える時間とは

人はみんなで目的を共有している時ほど論理的になり、ひとりでボーッとしている時ほど直感的な思考になる傾向があり、じっくりと考える仕事や複雑な課題はひとりの方が捗りますが、単純な事務作業はみんながいる場所の方が捗ると言われています。

4分類のうち右上にいくほど直感力(DMN)優位になり、左下にいくほど決断力(CEN)優位になるので、「大局観(SN)」を鍛えられるのは、「みんなでただ時間を共有している時」か「一人で作業に打ち込んでいる時」です。

「大局観(SN)」を鍛えると、見ているものは同じでも視点が抽象と具象の行き来で大きく変わるため今まで見えていなかったものが見えてくるようになり、他人には見えないようなアイデアや戦略にたどり着く機会も増えて行きますが、効率が求められ簡単に欲しい情報が手に入る現代では、「大局観(SN)」を育む時間が減っていると言われています。

没頭できる趣味の時間や大切な人とのたわいもない会話こそこれからの時代を賢く生きるために脳トレ時間として見直す必要があるかもしれません。

人体の取説を理解すれば子供の可能性を高められる

脳は人間の生命維持だけでなく、運動もこころの動きもあらゆる可能性をコントロールする人間の総司令官であり、子供の柔軟な脳は、水を吸い込むスポンジのように多くを学び吸収していきます。

子供たちの可能性を引き出すことも殺すこともできてしまう教育のあり方を考えるときに、脳の仕組みを知っていることは大きなアドバンテージになりますし、脳について学ぶことで子供の教育だけでなく、社員教育や社員のパフォーマンスの向上、認知症の予防などにも絶大な効果を発揮します。

身体機能や運動パフォーマンスの向上にも脳と神経機能が関与しますし、脳トレーニングとは人生のトレーニングといっても過言でありません。

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