先天異常(出生前に要因あり)、出生前後の障害、および新生児(生後4週間以内)までの間に生じた障害についての概要と、疾患例として【ダウン症候群(21トリソミー)】【二分脊椎(脊柱管閉鎖不全症)】【分娩損傷】【脳性麻痺】の概要を整理してまとめています。
先天異常とは
先天異常とは、出生前に要因があり、出生時すでに存在する機能あるいは形態異常の総称で、先天性神経疾患、先天性筋疾患、血液疾患、免疫異常、先天性代謝異常、先天奇形などがあり、乳幼児期からの発達や成長に応じた総合的な対応、長期の医療と教育、生活指導を通して社会的自立を目標とする療育が必要となります。
先天異常の発生する時期
先天異常の原因別疾患
先天異常の疾患例
以下の4つの疾患について概要をまとめました。
ダウン症候群(21トリソミー)
ダウン症候群は、21トリソミーとも呼ばれる常染色体異常による先天異常で、本来1対であるべき21番染色体が1本過剰にあることが原因で、発育の遅れ、精神発達の遅れ、特異的な頭部と顔貌、低身長など特徴的な症状を呈します。
ダウン症候群の奇形
ダウン症候群の身体機能障害
ダウン症候群の乳児は、おとなしく受動的な傾向があり、めったに泣きません。
出生時の身長と体重はほぼ正常範囲で著名な筋力低下はありませんが、多くのケースで心臓と消化器の先天異常がみられ、また、筋肉の緊張が若干低下しているため、定頸・座位保持・歩行開始が遅れて歩容も稚拙になるなど成長・運動発達の遅延が見られます。
また、低身長で肥満になることが多く、幼少期からの食生活管理が重要。
ダウン症候群の知的障害
全例に軽度〜中等度の知能障(正常な小児のIQが平均100に対し、ダウン症候群の小児の平均値は約50)が認められます。
また、アルツハイマー病に似た記憶障害、さらなる知能低下、人格の変化といった認知症の症状が比較的低い年齢で現れることがあります。
ダウン症候群の検査・診断
出生前の胎児の超音波検査または母親の血液検査や出生後の乳児の外見と乳児の血液検査などから診断されます。
ダウン症候群の治療・予後
心臓の異常や易感染性など具体的な症状や異常に対する対処療法が中心で、重症例以外は成人します。
老化が普通より早く進むと考えられていて平均寿命は55歳ですが、7〜80代まで生きる人もいます。
二分脊椎(脊柱管閉鎖不全症)
二分脊椎は、先天的に脊椎骨が形成不全となって起きる神経管閉鎖障害(母胎内で胎児が脊椎骨を形成する時に何らかの理由で起こる形成不全)で、胎生期における神経管の発生異常により、椎弓欠損部から神経組織が腫瘤として膨張・突出している病態。
二分脊椎の原因
二分脊椎(神経管閉鎖不全)の原因としてビタミンの一種である葉酸が妊娠中に欠乏することが大きく、また、遺伝的な要因、妊娠中の特定の薬剤(バルプロ酸など)の使用など多数の要因が絡みます。
二分脊椎の症状
顕在性二分脊椎(症状の重い開放性)と潜在性の二分脊椎症(症状の軽く気付かないもの)が存在します。
脳や脊髄が損傷を受けたことにより以下のような症状を呈します。
二分脊椎の治療・予後
二分脊椎(神経管閉鎖不全)は神経管閉鎖不全の多くは、出生前スクリーニング検査によって出生前に発見することが可能で、通常は外科的手術で閉鎖し、特定の欠損(脊髄髄膜瘤など)は通常出生後すぐに修復されます。
また、必要に応じて、膀胱の症状や整形外科的問題などに対する治療を行います。
適切な対処を行えば良好に経過しますが、腎機能の低下や水頭症など合併症が原因で死に至るケースもあります。
分娩損傷
分娩損傷は、分娩の過程で通常は産道を通る際に物理的な圧力が生じる結果として新生児が受ける損傷のことで、多くの新生児が出生の際に軽い怪我(ほとんどが自然治癒する程度)をしますが、胎児の大きさや胎児の向き、母体の状況や出産方法によって、神経損傷や骨折を含む障害が起こると障害や麻痺が生じます。
脳性麻痺
脳性麻痺とは、ひとつの病気ではなく、出生前の脳の発育過程で生じた脳の奇形、出生前、分娩中、または出生直後に起きた酸素欠乏や感染によって生じる脳損傷が原因で、運動困難と筋肉のこわばり(けい縮)を特徴とする症候群で、2歳以降に受けた脳損傷により筋肉がうまく機能しなくなった場合は、脳性麻痺とはみなされません。
「受胎から新生児(生後4週間以内)までの間に生じた脳の進行性病変に基づく、永続的なしかし変化しうる運動および姿勢の異常その症状は満2歳までに出現する。
進行性疾患や一過性運動障害、または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅滞は除かれる。」
脳性麻痺の原因
脳性麻痺の原因には様々なものがあります。
脳性麻痺は、乳児1000人のうち1~2人、未熟児ではその割合が100人のうち15人、極低出生体重児で多くみられる傾向があります。
脳性麻痺の症状
脳性麻痺の運動困難は、ぎこちなさが認められる程度のものから重度のけい縮で動作が大きく制限され、装具、松葉づえ、車いすなどの補助具が必要になるものまで多様です。
脳性麻痺の合併症にも幅があり、運動野以外の脳の部位も損傷を受けている場合は、知的障害、行動障害、視覚障害(視線がずれるなど)、難聴、けいれん性疾患がみられ、発展途上に発生する学習不足などの二次障害も含めてフォローが必要になります。
脳性麻痺の4つの型
痙直型
痙直型脳性麻痺は全体の70%以上を占め、症状のある腕や脚の発育が悪く筋力が低下し、筋肉が硬くこわばって関節の動きが制限され、片脚がもう一方の脚にぶつかるように交差して歩くハサミ足歩行や、つま先立歩歩行など特徴的な歩様を呈したり、関節拘縮があったりして四肢を全く動かせないケースもあります。
アテトーゼ型
アテトーゼ型脳性麻痺は全体の20%ほどを占め、アテトーゼと呼ばれる不随意運動(自分の意識とは関係なく起こる運動)がみられるなど以下のような特徴・経過を呈します。
運動失調型
運動失調型は全体の5%ほどを占め、体の動きがうまく協調せず、筋力が低下し、振戦のような動きもみられます。
混合型
上記のうちのいくつかが混じっているもので「アテトーゼ型」+「痙直型」が多く、重い知的障害がみられることもあります。
脳性麻痺の検査・診断
脳性麻痺は、重症児を除いては早期発見は困難で、生後6ヵ月以降で歩行などの運動能力の発達が遅れている小児や、筋肉のこわばりや筋力低下がある小児で疑われます。
仮死分娩、重症黄疸、早産児、低体重児、未熟児、筋緊張異常、発達遅延、原始反射の異常残存および経過、新生児指標(ブラゼルトンの新生児行動評価・小西らの自動運動の評価による新生児脳障害判定)、新生児から乳児期の指標(ボイタの7種の姿勢反応を用いた評価法・ミラーニの運動発達評価法)、乳児期からの諸行動を含めた運動発達段階評価(乳幼児行動発達表(厚生省心身障害研究班・遠城寺式乳幼児分析的発達検査表)などが経過を観察して診断します。
また、頭蓋内出血、脳室周囲白質軟化症(PVL)などを確認する画像診断(超音波、CT、MRI)や血液診断、神経と筋肉の電気生理学的検査(それぞれ神経伝導検査と筋電図検査)や遺伝子検査など行われますが、2歳になるまでは、脳性麻痺の型が特定できないこともよくあります。
脳性麻痺の治療・予後
脳性麻痺の小児のほとんどは、死亡することなく成人になりますが、脳性麻痺に対する根治的な治療法はなく、障害は一生続きます。
小児の可能性を最大限に生かすために、整形学的治療、薬物対処療法、発達神経学的治療法(ボバース、ボイタ法)など早期から総合的な療育が必要です。
歩行可能か否かの予後は座位獲得時期が目安のひとつになります。