脳と神経

「脳の認知機能」と「人生を豊かにする脳トレ方法」〜「脳老化」「認知症」「高次脳機能障害」違いと分類

「生理学的に誰でにも起こる脳老化」と「認知機能障害(認知症や高次脳機能障害)」を明確に区別しながら、脳の認知機能について整理し、「脳老化」を抑制する脳トレで人生100年時代を元気に楽しむための具体的な方法についてまとめました。

「認知機能」で人生の質が決まる?

世界でもトップクラスの高齢化社会にある日本。

団塊の世代が75歳の後期高齢者に到達するのが2025年には、全人口の4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会になり、全人口の4人に1人を占める後期高齢者が健康ではなければ、医療費や介護費など現役世代に負担が大きくのしかかるという2025年問題が目の前に迫ってきています。

日本国の経済を大きく圧迫している「医療費」の中でも特に大きな比重を占めるのが高齢者を対象とする介護費用を含む保険医療費で、その額は国内総生産(GDP)の1割(先進国の平均以上)を超えています。

医療技術が発達して新生児の死亡率や病気や怪我になった場合の死亡率も大幅に減り、私たちが長生きできるようになったのは大きなメリットです。

日本人の平均健康寿命は、男性70歳、女性73歳ですが、長生きしても健康で楽しく生活や社会参加できる状態でない人が多く、病院や施設の中で「長生き」している人が多いという実情もあります。

結果、医療費は増大し、若年層に負担が大きくのしかかるという構造になってしまっています。

高齢者は人生の先輩であり様々なことを私たち若年層に教えてくださる大切な存在で、健康で元気で長生きをしてくださることで、世代間の有効な交流が生まれ社会は活性化していくはずですが、そのためには健康で長生きする「健康寿命」を伸ばしていくことに焦点を当てなければいけません。

現代医療は、数字としての寿命を伸ばせても、人生の豊かさを考慮した「健康寿命」は伸ばせないので、私たち一人一人がもっと健康寿命を伸ばす努力をし、「寝たきり」「痴呆症」「介護」などの問題を大幅に削減していく必要があります。

健康とは身体的な健康だけでなく、認知機能(脳機能)も健全であることが不可欠です。

孤独感により「不機嫌な高齢者」が増えていることも度々社会問題になっていますが、これも認知機能に大きく影響しています。

「認知機能」と「年齢(老化)」

二十歳を過ぎると細胞の増加や成長が止まり「老化」が始まりますが、脳細胞も例外なく老化します。

脳は人体の司令塔として全身の機能を調整統合する役割があり、脳の役割のうち「理解、判断、論理などの知的機能」に関する機能全般を「認知機能」と呼びますが、加齢による「認知機能低下」は、一般的に60歳を過ぎると顕著にみられるようになります。

「認知機能」の中でも特に、新しいことを覚えたり、新しい環境に適応するために問題解決していく能力は、加齢により大きく低下していくことがわかっていて、脳内での情報処理スピード低下、理解力や記憶力の低下などにより、課題遂行に時間がかかったり、反応や判断が苦手になったり、反射運動の低下や平衡感覚障害が生じたりすることで、転倒や事故が多くなったり、社会生活が困難になったりしてしまいます。

加齢で強化される「認知機能」もある

ただ、加齢による「認知機能低下」には個人差が大きいことも特徴で、年齢を重ねるほどに発達していくほど発達していく「認知機能」もあります。

身体機能に加えて、「認知機能」維持向上も、年齢を重ねてからの人生の幸福度や充実度に大きく影響する因子になります。

人生100年時代を豊かに過ごすには、足腰を鍛えて姿勢を維持する身体の健康維持に意識を向けるだけでなく、加齢により低下しがちな認知機能を維持・向上させる工夫や生活習慣が不可欠です。

「認知機能」を意識して鍛えると、記憶力や判断力など円滑な社会生活に不可欠な能力の低下や「認知症」を予防できるだけでなく、不満や怒りのコントロール機能も維持向上できるので穏やかな気持ちで毎日を過ごせるようになります。

また、加齢による認知機能の変化や幸福度との関係を理解しておくと、高齢者や認知症の方への適切な接し方やコミュニケーション方法も見えてきます。

「認知機能」種類と定義

健康寿命を延ばして人生100年時代を豊かに過ごすために、「認知機能」の定義や「認知機能」の種類を整理しましょう。

「認知機能」定義

脳は人体の司令塔として全身の機能を調整統合する役割があり、脳の役割のうち「理解、判断、論理などの知的機能」に関する機能全般を「認知機能」と呼びます。

「認知」とは、五感(視覚・聴覚・触覚・臭覚・味覚)を通じて外部から入ってきた情報から「物事や自分の置かれている状況を認識する」「物事を記憶する」「言葉を自由に操作する」「計算や学習をする」「考えて問題を解決する」など日常生活や社会生活を行う上で不可欠な能力で、精神医学で定義される「知能」や心理学で定義される「知覚を中心とする判断・想像・推論・決定・記憶・言語理解などの包括概念」に類似します。

実際、「認知機能」という言葉を正常の脳機能の説明に使うことはあまりなく、一般的には「知能(知的機能)」という言葉で認識されることの方が多い脳機能です。

ただし、認知症などの認知機能障害の症状である記憶・判断・計算・理解・学習・思考・言語などを含む高次の脳機能障害に関して説明する時は「認知機能」と表現します。

「認知機能(高次脳機能)」種類と責任脳部位

全身の器官を通じて得た情報は神経を通じて脳に届きますが、その情報を整理して統合して処理するために高次の脳機能である「認知機能」があります。

「認知機能」は脳機能の中でも特に高次の統合機能であるため「高次脳機能」と呼ばれることもあり、それぞれの機能に関して統合の役割を担当する部位が決まっています。

部位責任機能
後頭葉視覚情報統合
見当識
地誌的認識
側頭葉聴覚情報統合
身体部位認識
頭頂葉手指認識
身体部位認識
左右識別
観念統合
構成機能
病態認識
観念と動作の連携
空間における位置認識
角回(頭頂葉)言語機能
(表出・理解・復唱・書取・読解・音読)
前頭葉遂行機能
大脳皮質と海馬

記憶

ただし、「認知機能(高次脳機能)」は包括的な概念で、例えば「会話」ひとつとっても「相手の発する言葉を聞き取り」「意味を理解し」「意図を判断して返答を考え」「言葉を発して相手に伝える」など様々な認知機能を使う必要があります。

状況認識機能

私たちは、常に変化する外部環境や人の関わりの中で、日常生活や社会生活を営んでいますので、常に「五感(視覚・聴覚・触覚・臭覚・味覚)」や「深部感覚(体の位置や姿勢などを認識する機能)」を通じて外部から入ってきた情報から「物事や自分の置かれている状況を認識する」する必要があります。

これができるのは、脳の認知機能が正常に機能しているからです。

例えば、眼球や視神経に全く問題がなくても、視覚からの情報を統合する脳の認知機能に問題があれば、私たちは「見えない」とか「見えにくい」状態になりますし、姿勢(身体の位置)情報が正常に統合されなければ、運動麻痺などの運動機能に全く問題がなくても思い通りに身体を動かせなくなってしまいます。

このように「状況認識」や「外部情報の統合」が正しくできないことで、認識や行動に異常が生じることを「失認」や「失行」と呼び、「失認」や「失行」は脳の機能障害が生じる部分によりその症状は多様です。

また、状況判断能力が障害されると危険認識も正しくできなくなりますので、怪我や事故の可能性が非常に高くなります。

記憶(情報を記録して保持する能力)

「記憶」も認知機能の重要な要素のひとつで、加齢に伴う「脳機能低下」として「記憶力低下」を実感している人は多いと思います。

「記憶」とは情報を記録して一定期間保持し、必要に応じて引き出すことができる能力のことで、保持できる期間により以下の3つに分類できます。

部位責任機能
感覚記憶
(感覚情報保存)
目・耳・鼻・皮膚などの感覚器官から常に得ている膨大な感覚情報のうち意識していないもの
1秒程度で消滅する記憶
短期記憶
ワーキングメモリー(作業記憶)
特定の目的を遂行するために一時的な保持を目的とした記憶
長期記憶自分の電話番号、名前、生年月日など長期的に保持される記憶

記憶を司る脳は多くの神経細胞(ニューロン)によって構成されていますが、記憶は神経細胞の単位ではなく、複数の神経細胞をつなぐシナプスの単位で行われていて、特に記憶に関係しているのが脳の部位は「海馬」と「皮質領域」です。

直近の短期記憶を「海馬」が保持し、長期的な記憶は脳のさまざまな「皮質領域」にまたがって保存されます。

「海馬」から送られてきた記憶の情報は、電気信号として大脳皮質の神経細胞を刺激しますが、その刺激が強くなるほど多くのシナプスが組み合わせされて伝達効率が増し、特定の電気信号が通りやすい特別な回路ができ、その回路が長時間にわたって持続することで記憶が長期間保持され、記憶を引き出すときは、その記憶の回路に電気信号が流れて情報を引き出す(思い出す)ことができます。

つまり、「海馬」は長期記憶そのものを司る器官ではなく、長期記憶を形成する前段階に必要な器官で、「海馬」は多くの記憶を整理し、覚えるべきものとそうでないものを区別し、覚えるべきものと判断した記憶を「大脳皮質」に送る役割をしています。

「海馬」は、「年齢を重ねても神経細胞が増える」性質があるので、記憶力は鍛えれば鍛えるほど高められます。

また、「海馬」は快や不快の感情を作り出す「扁桃体」とのつながりが強いため、興味関心があるものでは記憶の定着が高まりますが、逆にストレスによって「海馬」の神経細胞は増える力を抑制されてしまうため記憶の形成が困難になることも分かっていて、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症すると「海馬」が小さくなります。

また、若くても、健康でも、私たちは一度覚えたことを忘れてしまいますが、それには様々な可能性が考えられます。

記憶には、「情報を認識して記憶を形成」「重要情報のフィルタリングや整理を行い記憶として保存(海馬や皮質領域)」「記憶を選択して引き出す(思い出す)」と複数のステップがありますので、そのどこで失敗しても「忘れる(思い出せない)」という状態が起こります。

原因詳細
そもそも記憶が形成されていない
(記憶形成以前の注意力や集中力の問題)

日常で記憶することだけに集中できる場面は少ない(行動しながら記憶しなければならない場合がほとんど)ため意識して記憶しようとしていないことはほとんど忘れてしまう(記憶しようと意識していないことは記憶されない)
・注意力や集中力が散漫な状態で聞いたことはすぐ忘れてしまう
・明らかな脳の疾患や萎縮がないのに忘れっぽい
保存した記憶が衰退または干渉している脳で保存できる容量に限度があるため、古い記憶や重要度が低くなった(反復されなくなった記憶)は、衰退していくか類似した新しい記憶と干渉して思い出すことが困難になる性質がある・遠い昔の記憶が不鮮明になる
・同じ時期でも鮮明な記憶と薄れていく記憶がある
記憶が適切に引き出せない「記憶が衰退・干渉しているため脳内でその記憶を探しづらい状態になっている」
「そもそも記憶されていない」
「何らかの原因で記憶が完全に消失してしまっている」
・自発的には思い出せないけれど、見る(聞く)と思い出す記憶
・見ても(聞いても)思い出せない(初めて見た印象を受ける)記憶

例えば、「忘れる」以前に記憶が形成されていないケースもよくありますが、これは記憶障害ではありません。

私たちは普段の生活の中で「記憶」に集中できることがほとんどなく、何か行動を起こしながら覚える必要があるので、注意力や集中力が散漫な状態で聞いたことは「すぐ忘れる」のではなく、そもそも「記憶」が形成されていないことがほとんどです。

そのため、メモを取るなどの対処が有効になります。

記憶が正常に形成された場合でも、脳に保存できる記憶の量には限度があるため、古い記憶や重要度が低くなった(反復されなくなった記憶)は思い出しにくくなるのも正常な脳機能です。

「海馬」は似た記憶を区別できるという特異的性質を持っているので、「海馬」にファイルされる記憶は他の記憶と干渉されませんが、似た記憶を区別する能力が低い周辺皮質にファイルされた記憶はごちゃごちゃになりやすい特徴があります。

一般的に似たような情報であれば、古い情報よりも新しい情報の方が思い出しやすく、感情的だったり、特別なイベントなど干渉する対象が少ない記憶ほど鮮明に思い出しやすい理由もここにあります。

生理学的には、「海馬」に集まる新しい記憶のうち、神経回路では頻繁に強く信号が来るシナプスはその結合が強くなりますが、信号があまり来ないシナプスでその結合が弱くなっているので、シナプス結合の強い記憶回路は皮質領域へ移動して長期記憶として定着して行きますが、シナプス結合の弱い記憶回路は、移動していく過程で衰退してしまいます。

これらの回路は、てんかん、頭部外傷、脳機能障害、脳萎縮(認知症)などでも壊れますので、この場合も記憶が衰退しますが、明確な機能障害がない場合、忘れる(記憶が衰退していく)ことは機能障害や低下とする説よりも、「脳に備わった基本的な機能である可能性がある」、つまり「脳は積極的に忘れようとしているとする説」が有力です。

もし、人間が全ての事柄を覚えていたら(忘れることができなければ)、膨大な情報量となってしまい限りある脳スペースを有効に活用できませんので、不要な情報は数日か数週間は保持しても、重要でないとフィルタリングしたものや新しい類似情報が入ってきた時は、古く重要ではない情報を脳のスペースから削除して、新しい情報や重要な情報を引き出しやすい状態を脳は意図的に作ろうとしています。

また、もし仮に感覚器官を通じて脳に送られる情報の全てが長期記憶に変換されるのであれば、脳が消費するエネルギーや記憶に必要な脳細胞が膨大な量になってしまいます。

現状の忘れる仕組みの脳が体内で消費する全エネルギーの約25%を消費することを考えると、膨大な記憶を保持するために更なるエネルギーを消費してしまえば生命維持すら困難になる可能性もありますので、消費エネルギーを抑えるために必要不可欠な機能とも考えられます。

パソコンやスマホも予め設定された容量以上はデータを保存できないので、古いものや不要なものを整理する必要があるように、脳にも全ての経験を記憶しておくほどのスペースがないため、一番重要なものや将来必要になるものだけを保存しておこうとうしますので、日常的なことよりも、感情的が強く動いたものや特別なイベントほど記憶に残りやすくなりますし、繰り返し練習して習得した情報ほど定着率が高まります。

「忘れる」ことは適応性でもあり、忘れるから効率的に記憶できるともいえますし、嫌なことなど忘れた方がいいこともあるので、忘れること自体が「認知機能」の問題にはなりません。

保存された記憶の引き出しに関しては、「自発的には思い出せないけれど、見る(聞く)と思い出す」状態と、「見ても(聞いても)思い出せない(初めて見た印象を受ける)」状態があります。

「自発的には思い出せないけれど、見る(聞く)と思い出す」状態は、記憶が衰退・干渉しているため脳内でその記憶を探しづらい状態になっていて、「見ても(聞いても)思い出せない(初めて見た印象を受ける)」状態はそもそも記憶されていないか、何らかの原因で記憶が完全に消失してしまっていると考えられます。

言語(言葉を自由に操作する)機能

言葉を自由に操る「言語機能」も社会生活を行う上で不可欠な認知機能です。

言語機能を司る機能中枢は「大脳皮質の言語優位半球(右利きの人なら左半球)」にあり、以下の機能全てを含みます。

機能説明
表出自発的に言葉を話す
理解音声を聞いて意味のある言葉かどうか理解する
復唱聞いた言葉と同じ言葉を表出する
書取聞いたまたは見た言葉を書き取る
読解文字を読む
音読読んだ言葉を理解して相手に伝える

『言葉』はコミュニケーションをするためのツールのひとつで、道具である言葉はなくてもコミュニケーション自体は可能ですが、言葉の理解と表出のスキルは成熟度やその人の社会的な能力を示す指標でもありあります。

言葉の表出や理解の問題を「言語障害」といいますが、発話や発語機能に問題がないのに会話のキャッチボールが成立しない状態を「失語症」と呼び、脳の損傷の場所や範囲によって「聞く」「読む」「話す」「書く」のいずれかまたは全てが障害されます。

計算や学習をする機能

「認知機能」には計算をしたり、新しいことを学習する機能も含まれ、加齢による脳機能低下で「記憶力低下」とともに低下しやすい能力としても知られています。

遂行(考えて問題を解決する)機能

「遂行機能」は状況に応じた適切な行動を考え実行に移す能力のことで、認知機能の重要な要素のひとつです。

「遂行機能」が障害されると、計画や目標を立てて実行したり、順序立てて物事を処理したりすることが困難になるため、社会生活が非常に困難になります。

「病的な認知機能低下」と「老化による認知機能低下」違いと原因

「認知症」や「高次脳機能障害」などの認知機能障害とは、脳の器質的な病変による病気であり、知的発育が一度完成した成人に知能(認知機能)障害が生じることを指します。

一方、加齢による脳老化でも「認知症」や「高次脳機能障害」などと似たような症状が出ることもありますが、「生理学的脳老化」と「認知機能障害」は明確に区別する必要があります。

加齢による脳変化と認知機能低下

二十歳を過ぎると細胞の増加や成長が止まり「老化」が始まりますが、脳も身体の組織の一部なので同様に「老化」します。

「認知機能低下」は60歳を過ぎると顕著にみられるようになると言われていて、病理学的にみても高齢者の脳組織は神経細胞や神経突起の減少が認められ、脳委縮もみられます。

分類具体的変化
脳の重さ20‐30歳にかけて最大(1200‐1600g)
40歳頃から減少が始まり80歳では17%程度減少
変化の時間差灰白質:20-50歳の間に減少開始 
白質:70-90歳の間に減少開始
細胞減少が多い部位大脳:前頭葉
側頭葉:灰白質部(大脳皮質、被殻)
小脳:プルキンエ細胞
脳幹:青斑核・黒質・視床・扁桃核
画像診断初見前頭葉の円蓋部や大脳半球裂に面した面や側頭葉のシルビウス裂に面した部分の委縮が著名

ただし、「脳の生理学的老化」と「認知機能障害(認知症)」はイコールではなく、実際に脳の委縮が画像診断上認められても記憶力や判断力がしっかりした高齢者はたくさんいますし、日常生活や社会生活によって、健康状態、ストレス、教育、職業、趣味、周囲との人間関係など認知機能に与える因子に大きな差があるため、高齢者の認知機能には個人差が大きいという特徴があります。

また、認知機能障害にはいくつかの種類(「記憶障害」「失語(しつご)」「失行(しっこう)」「失認(しつにん)」「遂行(すいこう)機能障害」など)がありますが、加齢によって低下しやすい認知機能にも特徴があります。

例えば、「円熟」「老練」「長老の知恵」の言葉でも表現されるように、これまでの教育や学習などによって発達させた認知機能は高齢になっても保持されやすく、高齢になっても活躍をする芸術家、文芸家、政治家、組織や企業のトップは世界中にたくさんいます。

一方、「新しいことを覚える」「新しい環境に適応するために問題解決していく」能力は加齢により大きく低下していきますし、「脳内での情報処理スピードも低下」するため、「理解力や記憶力が低下」「課題遂行に時間がかかる」「反応や判断が苦手になる」「反射運動の低下や平衡感覚低下で転倒しやすくなる」などの問題が生じやすくなります。

原因が明確な認知機能低下

「認知機能」を低下させる要因として最も多いのは「加齢」による脳の器質的な変化(細胞減少や萎縮)ですが、脳神経や脳の病気、脳への循環や脳機能環境を阻害する以下のような因子も「認知機能」を大きく低下させる原因になります。

分類具体的因子
神経の変性疾患アルツハイマー病、ピック病、レビー小体型の認知症など
脳疾患脳梗塞、脳出血など
感染症クロイツフェルト・ヤコブ病など
内科系疾患甲状腺機能低下症、ビタミンB12 欠乏症、脱水など
精神疾患統合失調症、うつ病など
薬剤抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬など

脳血管障害で脳の障害された部位が明確な場合は、失語や失行など症状と原因が結びつけられるものもありますが、加齢による全般的な脳萎縮や薬剤の副作用などでは、特定の目立つ症状が出るというよりも全般的に認知機能が低下します。

「認知症」の定義と分類(脳の病的変化)

「認知症」は、知的発育が一度完成した成人の知能障害です。(先天的な異常や知的発育途上での知能障害は「精神発達遅滞」といいます。)

「認知機能低下」とは、理解力、判断力、記憶力、言語理解能力など認知機能に関する能力が低下した状態のことで、脳の生理学的老化(加齢)により誰でも起こり得ることですが、日常生活を困難にするほど著しい状態が半年以上継続すると「認知症(認知機能障害)」と診断されます。

例えば、「記憶障害」は認知機能障害の一例ですが、若い人や健康な人でも「物忘れ」をすることがあります。

最近物忘れがひどいとか、最近人の名前が出てこなくなったと感じるとか、何をしようとしていたかすぐ忘れちゃうとか、体験したことの一部を忘れたりしても、物忘れをしている自覚がある限りは「生理的健忘(けんぼう)」と呼び、「認知症(認知機能障害)」とみなしませんが、忘れた自覚が無い場合は「認知症」として対応が必要になります。

また、「認知症」による認知機能低下は萎縮や特有の病理学的所見に付随する特徴的な症状を伴い、これも認知症診断の基準のひとつになります。

例えば、老人班は認知症の脳にみられる特徴的な所見のひとつで、アルツハイマー神経原繊維変化により起こり、60歳を超えると出現・増加していくと言われていて、典型的な老人班は、中心にβアミロイドというタンパクからなる核があり、周辺に崩壊した神経突起・グリア細胞などが環状に取り囲んでいて、このβアミロイドの蓄積が認知症、つまり脳の病的変化の原因と考えられています。

  • 1:記憶、忘れっぽさ
    • 1)いつも日にちを忘れている:今日が何日かわからない
    • 2)少し前の事をしばしば忘れる:朝食を食べたことを忘れる
    • 3)最近聞いた事を繰り返すことができない:大きな出来事のニュースのでき事そのものを思い出せない
  • 2:語彙、会話内容の繰り返し
    • 4)同じ事を何度もいうことがしばしばある:診察中に同じ話を繰り返しする
    • 5)いつも同じ話を繰り返す:毎回、診察時に同じ話(昔話など)を繰り返しする
  • 3:会話の組み立て能力と文脈理解
    • 6)特定の単語や言葉がでてこないことがしばしばあり:仕事上の使いなれた言葉が出てこない
    • 7)話の脈絡をすぐに失う:話があちこちに飛ぶ
    • 8)質問を理解していないことが答えからわかる:医師の質問に対する答えが的外れでかみ合わない
    • 9)会話を理解する事がかなり困難:患者さんの話がわからない
  • 4:見当識障害・作話・依存など
    • 10)時間の概念がない:時間(午前も午後も)わからない
    • 11)話のつじつまを合わせようとする:答えの間違いを指摘されると言い繕う
    • 8)質問を理解していないことが答えからわかる:医師の質問に対する答えが的外れでかみ合わない
    • 12)家族に依存する様子がある:本人に質問すると家族の方を向く
初期認知症徴候観察リスト ( OLD: Observation List for early signs of Dementia )

アルツハイマー型認知症

「アルツハイマー型認知症」は、画像診断上高度な脳萎縮など器質的な変化が明確にみられる認知症で、比較的若い年齢でも発症し、徐々に悪化していくことが特徴です。

アルツハイマー型認知症の特徴的な症状は、中核症状(認知症患者に必ず認められる知的機能障害で診断の根拠になるもの)と周辺症状(知的機能が障害されつつある人が周囲との関わりの中で示す精神症状や行動異常や問題行動)に分類できますが、75%が物忘れや置き忘れなどの軽度記憶障害で発症し、緩徐に進行性の経過を取り、 物取られ妄想や視空間性認知機能障害が早期~中期に現れる事が多いという特徴があります。

分類具体的変化
病理学的特徴高度な脳委縮:内側側頭葉(特に海馬傍回)の委縮が顕著
特に大脳皮質に多数の顆粒状構造物(老人班)と太い繊維の塊を持つ神経細胞変化(アルツハイマー神経原繊維変化)
好発年齢早発型:初老期(40-65歳)に発症
晩発型:65歳以上に発症
初期症状75%が物忘れや置き忘れなどの軽度記憶障害で発症
中核症状記憶障害
判断力障害
問題解決能力障害
実行機能障害
言語障害
高次脳機能障害(失行・失認など)
周辺症状精神症状:せん妄、幻覚、妄想、抑うつ状態
行動異常:異食、過食、不潔行為、徘徊、夕暮れ症候群、介護への抵抗
  

アルツハイマー型認知症の経過(重症度)を判断するスケールにがFAST(Functional Assessment Staging)があります。

ステージ臨床診断認知症判定症状特徴
1認知機能の障害なし正常主観的・客観的機能低下は認められない
2非常に軽度の認知機能の低下年齢相応物の置き忘れを訴える・換語困難
3軽度の認知機能低下境界状態熟練を要する機能の低下・新しい場所への旅行困難
4中等度の認知機能低下軽度のアルツハイマー型認知症家計管理・買い物・招待・複雑な仕事が困難
5やや高度の認知機能低下中等度のアルツハイマー型認知症洋服を選んで着る際の援助や入浴の説得などが必要
6高度の認知機能低下やや高度のアルツハイマー型認知症不適切な着衣が見られる・入浴に介助要・入浴拒否、尿/便失禁・トイレの水を流さない
7非常に高度の認知機能低下高度のアルツハイマー型認知症最大6語に限定された言語機能低下・理解単語の激減(一語程度)・歩行/着座/感情などの機能消失・混迷や昏睡
FAST(Functional Assessment Staging)

脳血管性認知症

「脳血管性認知症」は、脳血管障害に付随して生じる「認知症」で、責任病巣が明確な「高次脳機能障害」とは区別します。

「脳血管性認知症」の一般的な特徴としては、「高血圧症、糖尿病、心疾患などの既往歴あり」「比較的突然の発症」「まだら認知症」「段階的な悪化」「抑うつ症状」などがあります。

原因特徴
脳梗塞病巣の大きさに関わらず、視床・海馬・大脳辺縁系などに脳梗塞をきたした場合、急激に認知症状を発症
多発脳梗塞大脳皮質に多発する場合と、大脳深部白質・灰白質に小梗塞(ラクナ)を多発する場合があり、階段的に徐々に進行する認知症が発症

レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症に次いで頻度の高い認知症で、大脳皮質や脳幹部にレビー小体と呼ばれる物質が多数出現して神経細胞が消滅するのが特徴です。

症状の特徴としては「認知症状が進行性に悪化」「日内変動がある繰り返す精神症状(具体的な幻視、弦聴)」「パーキンソン症候が出現(*認知症を伴うパーキンソン病と同義)」などがあります。

ピック病

「ピック病」は前頭側頭葉型認知症の一型で、40歳代男性に多く発症します。

初期の記銘力・記憶力は比較的保持されますが、早期から病識喪失し、脱抑制・人格変化・行動異常が現れる反社会的行動が目立つようになります。

治療(原因の除去)が可能な認知症

「認知症」は進行するものがほとんどですが、「薬物誘発性認知症」「ビタミンB1欠乏症(ウェルニッケ脳症)」「胃全摘出後のビタミンB12欠乏症による認知機能低下」「慢性硬膜下血腫」「正常圧水頭症」「脳腫瘍」など原因が明確かつ一時的なものであれば、原因の除去することで、症状が解消する場合もあります。

加齢による「認知機能低下」と「高次脳機能障害」違いと種類

「老化による認知機能低下」と「高次脳機能障害」も明確に区別する必要があります。

「高次脳機能障害」には「失行」「失認」「注意障害」「脱抑制」「認知機能障害」など様々な種類があり、様々な原因や要素が複雑に絡み合っていることもあり、症状を明確に識別することは非常に困難です。

「高次脳機能障害」を理解するためには、「麻痺・失調・感覚障害の有無」「視覚機能や聴覚機能の障害の有無」の確認など機能的な問題の可能性と責任病巣などから総合的に評価する必要があります。

「高次脳機能障害」症状と責任病巣

あらゆる機能を司る最高中枢である脳の中にも役割分担があり、全身の器官を通じて得た情報は神経を通じて脳に届きますが、脳ではさらにその情報を整理して統合するという働き(高次脳機能)があります。

「高次脳機能障害」は、情報を受け取り脳へ届ける神経システムや感覚器官および運動器官に問題がなくても、脳の最高中枢である脳の機能の中でも特に高次である統合機能(認知機能)が何らかの原因で障害された場合に起こります。

「高次脳機能障害」を理解するのはとても難しいのですが、症状と責任病巣(問題を引き起こしている脳部位)の関連が明確な場合も多く、症状から病巣の推測や確認もできますので整理して理解しましょう。

部位高次脳機能障害
優位半球後頭葉視覚失認
優位半球側頭葉聴覚失認
身体部位失認
優位半球頭頂葉身体部位失認
手指失認
左右失認
観念運動失行
観念失行
構成失行
触覚失認
視覚性空間定位障害
優位半球角回Gerstmann症候群
運動失語(Broca失語・皮質性運動失語)
感覚失語(Wernicke失語、皮質性感覚性失語)
劣位半球頭頂葉病態失認
半側身体失認
半側空間無視(usn)
着衣失行
触覚失認
視覚性空間定位障害
劣位半球後頭葉地誌的見当識障害
前運動野肢節運動失行

「高次脳機能障害」は、思考や近くの認識や統合を行う頭頂葉の障害で起こりやすいのですが、高次脳機能障害の症状と責任病巣の関連、症状の理解や判別が難しい失行や失認の症状の特徴についてもまとめました。

「失行」種類と症状の特徴

「失行」とは高次脳機能障害の症状のひとつで、運動麻痺・運動失調・不随意運動などの運動障害がなく、かつ行うべき行為もわかっているのにその行為を行うことができない状態のことです。

行う身体的な能力はあり、やらなければいけないこともやるべきこともわかっているのにできない、なかなか理解が難しい症状です。

失行責任病床症状の特徴
肢節運動失行左右いずれかの運動野確実に習得できていた基本的な動作ができない立つ・歩く・手を開く・舌を出す・口笛を吹く・眼を閉じるなど簡単な動作ができない
観念運動失行優位半球の頭頂葉下部広範囲指示された簡単な動作や習慣化された動作が意図的にできない
自発的には動作が可能なため、本人は気づかないことが多い
・自発的に手を振ってサヨナラをしたり歯を磨いたりはできるのに、「さようならと手を振ってください」「歯を磨くまねをして下さい」といった指示に対して、頭では理解しているのに実行できない
・比較的簡単な動作(Vサインの模倣など)でも自発的にはできるのに、指示されてやろうとするとできない
観念失行優位半球の頭頂葉使い慣れた物の扱い方が分からない
日常よく使うもので物の名前や用途は説明できるし使い方も知っているのに、いざ使用しようとするとできない
目的に沿った動作ができない
使い方を聞いてもできない
・歯ブラシを歯を磨くものだとわかっているのに、いざ使ってみるように伝えて渡すと耳に入れてしまう
・普段当たり前に行っていた、お茶を入れて飲むとかタバコを吸うなど手順を踏む動作ができなくなる
構成失行優位半球の頭頂葉から後頭葉物の空間的な構成が把握ができない(例えば、丸や四角などのシンプルな図形を書く、簡単な積み木を組み立てる、マッチ棒で三角形を作るなどができなくなるなど)・丸や四角などのシンプルな図形が書けない
・簡単な積み木を組み立てる、マッチ棒で三角形を作るなどができない
着衣失行優位半球(高度なものは劣位半球)の頭頂葉から後頭葉着慣れているいる服でもうまく着用ができない・Tシャツが着れない
・靴下が履けない

混乱しやすい「観念失行」と「観念運動失行」の違いを簡単に補足します。

「観念運動失行」はある一定の動作ができないのに対し、「観念失行」は順序だった動作に対して個々の部分的な動作はできますが、各動作の順序が混乱し複合した動作ができなくなります。

「観念失行」は観念の連続性が断たれ、「観念運動失行」は観念の運動の連続性が断たれている状態です。

「失認」種類と症状の特徴

「失認」は視覚・聴覚・味覚・嗅覚・体性感覚など感覚自体には異常がないが対象の認知ができない、注意や知能など一般的な精神機能が保持されているにも関わらず対象を認知できないことです。

つまり、目の機能も、耳の機能も、触覚も、口の機能も全く問題がなく、触覚、視覚、聴覚の情報は感覚路を通じて入ってきていて(感覚の経路に器質的な問題がない)、意識もあり(意識レベルにも問題がない)、認知症状もない(認知レベルにも問題がない)のに、それが何であるかを判別できない状態です。

感覚器を通じて脳に情報は入っているが脳の中で正しく統合されていない状態なので、脳の高次の機能障害です。

失行責任病床症状の特徴
視覚性失認両側後頭葉日常よく使うものを見せてもそれが何であるか、どんな使い方をするのか説明できない状態
触ってみるとわかることが多い
色彩失認優位半球後頭葉色彩がわからない状態
視空間失認大脳半球広範病巣と反対側の視空間を無視する症状(左無視の場合は中心が身体の右側に寄っていく)
例えば、食事時に皿の半分を残す、歩行時に左側がぶつかるなど意識して注意を向けなければ左側(病巣と反対側)に気づかない状態
半側身体失認大脳半球 身体の半分に対する認識の欠如があり(左が多い)まるで存在しないかのように扱う
半側空間無視を伴うことが多く、麻痺側が壁にぶつかっていたりしても全く気にしなくなる状態
身体部位失認前頭葉身体の部位が分からなくなってしまう状態
身体の部分を言われたり触られてもそこを指示できない
病態失認前頭葉麻痺があるのに否認したり、病気であることを認めない状態
相貌失認右後頭葉内側面友人・家族・鏡に映った自分の顔も分らない状態
(声や着衣からの判断は可能)
喜怒哀楽など表情の変化も認識できない
手指失認頭頂葉 指の操作に困難があり、手指とその名称が結びつかない状態
例えば、自分の指がそれぞれ何指が分からず、人差し指と言われてもその指を指示できない
左右失認 頭頂葉  自己及び他人の身体の左右の区別ができない状態
例えば、自分にとってどちら側が右か左か分からなく、右手で左耳を指すというような左右の理解ができなくなる

言語(読み書きや会話)機能障害

「言葉」はコミュニケーションツールのひとつで、道具である言葉はなくてもコミュニケーション自体は可能ですが、言葉の理解と表出のスキルは成熟度やその人の社会的な能力を示す指標でもありあります。

言語機能を司る機能中枢は大脳皮質の言語優位半球(一般的には左半球)にあり、「自発的に言葉を話す(表出)」「音声を聞いて意味のある言葉かどうか理解する(理解)」「聞いた言葉と同じ言葉を表出する(復唱)」「書き取る(書取)」「文字を読む(読解)」「読んだ言葉を理解して相手に伝える(音読)」を含み、計算や学習機能にも影響します。

認知機能としての言語機能が障害されると以下のような高次脳機能障害が生じます。

失行責任病床症状の特徴
運動性失語(ブローカ失語)ブローカ言語野(左前頭葉下後方)聞いて理解することは比較的よくできるのに、話す事がうまくできずぎこちない話し方になる
(軟口蓋や咽頭などの構音器官の発音、発語運動を開始させるタイミングをうまく調整できず、言葉を組み立てている音を上手く表出できない為に生じ、理解は日常会話レベルであれば比較的良好ですが複雑なもの、たとえば意味付けや読解は困難、音読・書字は漢字では保たれますがひらがなで困難となる)
感覚性失語(ウェルニッケ失語)ウェルニッケ言語野(左側頭葉上後方)相手の話す言葉がまったく理解できず、流暢に話すことはできますが錯語が多く聞かれ、病識がなく、相手の話を聞かず(理解できない)一方的にしゃべるという特徴がある
復唱が可能な場合がありますが、復唱している言葉の意味を理解することはできず、文字の読解も障害されるが、聴覚的理解よりは軽度で、漢字の方がひらがなより理解良好
全失語 「聞く・話す・読む・書く」のすべての言語機能に重度の障害が起きた状態
構音失行(発語失行)  全く運動障害がないのに構音筋(舌・口唇・咽頭など)が言語中枢の指示通りに動かなくなった状態
まったく発語ができなくなったり、語音の言い間違い(音韻性錯語)・歪み・吃様症状などで発語が非流暢になる
韻律障害(ディスプロソディー) 話言葉のメロディー(音の強さ・高さ・リズム)が失われた状態で、話言葉に抑揚がなくなり短調になる
残語  ほとんどすべての言葉が失われた状態でかろうじて発話する、あるいは書くことのできる
質問の内容とは無関係に、問いに対していつも同じ語が繰り返されることろから反回語とも言われ、全失語症や運動性失語症で見られる
語健忘 そのものや事や人をわかっているが名称(名前)が喚起できない
語想起障害ともいい、名詞で多く起こるため代名詞を多様するようになりなる
迂語 語健忘により、目当ての言葉の想起ができないためその事物の特徴や用途を遠まわしに説明する
漢字の音読でも見られる
保続 一度使った言葉のイメージや思考が頭から離れず、場面・状況が変わっても同じ言葉が繰り返し出没する
呼称・音読・復唱などでよく出現する
ジャルゴン失語 錯語が頻発し、しゃべっていることが全く意味をなさなくなっている状態
錯語の内容によって音性ジャルゴン、語性ジャルゴン、新造語性ジャルゴンなどがある
文法障害 話す・書く・読むなどで助詞が省略されたり、動詞の活用が不正確だったり語順を誤るなどが見られる状態
語音把握の障害 聴力が正常であるのに、語音が正しく認知・識別されない状態
復唱が不正確になり聴覚理解も障害されます。
錯語 話す・呼称・音読・復唱・書字の際、誤って表出される言葉
音韻性錯語(字性錯語) 語性錯語のことで、類義的錯語・非類義的錯語・新造語がある
失算  計算ができない状態のことで、暗算も筆算もできず演算自体ができないという障害のほかに、数字も読めないし書けない
失書  文字が書けない(写字より自発書字が障害されやすい)状態
自分の名前や住所などでも、自ら考えて書字することができず、重症例では字を書くことも書き取りもできなくなる
ゲルストマン症候群 手指失認・失書・左右失認・失算の4つが同時に生じる

失読

 話す・聞くなどの障害はないのに読みができない状態

「聞く」「話す」「読む」「書く」のいずれかまたは全部が障害されることを「言語障害」といい、「失語症」の他にも「構音障害」の可能性もあります。

「失語症」、脳血管障害(脳梗塞・脳出血)、脳腫瘍、頭部外傷に起因する大脳皮質の言語中枢の損傷による生じ、会話のキャッチボールが成立しない状態ですが、「構音障害」は脳皮質の顔面・咽喉頭・舌の運動の領域の損傷、脳幹の口腔・舌・咽頭に関与する神経核の損傷、口腔・舌・咽頭に関与する脳神経の末梢性の損傷が原因で生じる症状のことで、会話の内容は正確だけど、舌や口唇・咽頭・喉頭などの筋肉の運動麻痺により呂律が回らなかったり声がうまく出せない状態のことで、明確に区別できます。

怒りっぽい高齢者や認知症患者への正しい接し方

最近「怒りっぽい高齢者」や「キレるお年寄り」のニュースや体験談をよく聞くようになったと思いませんか?

実日本の高齢者の傷害及び暴行の検挙数は急増していて、再犯者率も非常に高い数字が記録されているそうです。

年齢を重ねるほど丸く穏やかになる高齢者像が一般的だった日本に、今何が起こっているのでしょうか?

「高齢者が怒りっぽくなる」ことを示した研究結果は、「Grumpy old man syndrome」や「Irritable male syndrome」など世界中にたくさんあります、高齢者が怒りっぽくなる背景に以下のような要因があると考えられています。

要素説明
前頭葉萎縮判断力が低下することに加え、感情の抑制やコントロールが難しくなる
セロトニン減少40代頃から幸福ホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌量が減り、心の安定を得にくくなる
テストステロン減少(男性)男性ホルモンであるテストステロンが減少し、60〜70代になると女性の更年期に似た抑うつ症状(イライラ・不安・精神不安定)が起きる
エストロゲン減少(女性)女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が減少し、更年期障害(特に感情のコントロールが難しく、イライラしたり怒りやすくなる)が生じる
認知機能障害認知症や脳血管障害による認知機能障害(高次機能障害・感情失禁・脱抑制)

「高齢者が怒りっぽくなる」ことを示した研究がある一方で、「年を取るほど脳の前頭皮質が薄くなり、よりしわになることなどから、気が長くなり、穏やかになる」「人間は年を取るほど、神経質ではなくなり、学習から感情をコントロールしやすくなると同時に、誠実さと協調性が増し、責任感が高まり、より敵対的でなくなる」など結論付けた研究もあり、世界では現在でも「年を取るとより性格が穏やかに優しくなる」という説の方が有力です。

お年寄りになればなるほど話し方がゆっくりになり、気は短くなるというより長くなる印象があり、科学的にその傾向を実証するデータは多く存在しますし、欧米では「年を取るほど争いごとが少なくなり、争いごとに対するより良い解決法を出せること」「感情をコントロールすることを学び、怒りっぽくなくなる」「死が近づくと長期的なゴールを気にしなくてよくなるため、今を生きることが上手になる」ことなどから、年齢を重ねると幸福度が増す傾向が顕著に出ていてます。

また、先進国の年代別の幸福度を追った調査では、子供の頃は非常に高いが、成人になるにつれて下がり中年ごろで最も低くなるが、高齢になるにしたがってまた上がっていくUカーブの傾向が出ています。

かつての日本の高齢者のイメージも、どちらかといえば年齢を重ねるごとに穏やかになっている印象があったため、特に最近の「不機嫌な高齢者が増えている傾向」が注目されています。

高齢になれば、病気、身体的な不自由、金銭的な問題などさまざまな要素要素がありますが、これらは世界各国共通の話なので、日本で近年高齢者の幸福度が急激に下がっている背景には日本特有の原因がありそうです。

幸福度を測るランキング調査などでも、日本は先進国の中では下から数えた方が早いようなかなり低い順位に終わることが多く、日本人はもともとこうした調査において自分が本当に感じているよりも低めの点数をつける傾向があることを含めても、幸福度を感じることを積極的に求めない国民性も関係しているかもしれません。

「キレる高齢者が増えている」と指摘する若者の意見に対し、高齢者の立場からさまざまな意見を集めた資料を見ていると、背景には様々なものがあれど共通点が浮かび上がってきます。

「仕事一筋で生きていきた人が会社という所属を失ったとき」「家庭内で孤独を感じたとき」「急激に変化する時代に適応できていないと感じたとき」「自分がこれまで信じてきた正義や価値観が通用しなくなったとき」「プライドを傷つけられたとき」「自分が積み上げてきたものが評価されない・通用しないととき」など、様々な要因で「満たされない承認欲求」または「自分の居場所がない喪失感」から生きがいを感じられないことで、満たされない孤独や寂しさから、イライラや不満につながっていくと考えられます。

「高齢者問題」は社会全体に高齢者が増えたから高齢者の問題が目立つようになった部分もありますが、高齢者の承認欲求や寂しさを満たすような社会インフラや共通認識も必要です。

まず私たちが今すぐできることは、相手に配慮したコミュニケーションです。

挨拶、感謝、褒めるなどポジティブな言葉がけが街中で自然と行われるだけでも、人間の幸福度は高められますし、世界を見ていても、お互い笑顔に気軽に声を掛け合う国民性の国は幸福度が高い傾向があります。

もし、身の回りに「怒りっぽい」「いつも不機嫌」と感じる高齢者がいる場合は、その背景を理解した上で対応を工夫すると、多くの場合で円滑におさまります。

この考え方は「認知症」の人への接し方とも共通しています。

敬意を示す

コミュニケーションを円滑にするには、相手への立場を尊重して、敬意を忘れないことが何より重要です。

特に高齢者は長い人生で培ってきた人生経験とプライドがあるので、人生の先輩として敬う姿勢をは絶対に忘れてはいけません。

すぐ応戦せずにペースや場所を変える

怒っていたり、イライラしている人の対してすぐに応戦したり、相手と同じペースでやり返そうとすると、お互いに怒りや不機嫌がどんどんエスカレートします。

まず、「一呼吸おく」「まず座りましょうか」「場所を変えておちついて話しましょうか」とお互い気持ちをおちつける時間を上手にとるようにしましょう。

たった6秒時間を置くだけでも、怒りの感情は落ち着きます。

怒りの背景にある感情や思いに寄り添う

怒りや不機嫌の背景には、心配・寂しさ・不甲斐なさ・恥ずかしさ・残念・不安・悲しみなどがあるので、表に出ている怒りや不機嫌だけでなく、その背景にあるものに目を向けると、相手が本当に求めている物がわかり、冷静に対応できます。

高齢で認知機能や身体機能が低下し、自分で思っているようにできないことに一番辛さともどかしさを感じてるのは「本人」なので、できないことを責めたり、相手を蔑むような言動は絶対に避けるようにしましょう。

正論を押し付けない

人には感情があります。

それぞれ生きてきた時代と成功体験があるため、理論的に正しいと思っても感情が拒否するケースも多々あります。

世代のギャップなどで相手の対応や言動を理不尽に感じることがあっても、一方的にこちら側の正論(正義)を押し付ける姿勢は避けましょう。

「認知機能」を高めて幸福度を上げる生活のコツ

「加齢に伴い怒りっぽくなっている」「幸福感が下がっている」と実感がある場合は、脳を活性化させ、幸福ホルモンであるセロトニン分泌を促すような生活習慣を整え、積極的な社会交流や新しい挑戦が有効です。

家族や身近な人とのかかわりを増やす

仕事に没頭していた人は、会社を定年した途端所属がなくなるので強い孤独を感じるようになってしまい、これは「不機嫌な高齢者」が日本で急増している大きな要因です。

忙しい時間の合間でも、家族や友人と時間を大切にする、特に家族や身近な人とのコミュニケーションを大切にする意識を持つだけで、その後の人生の幸福度が大きく変わります。

生活を整える

規則正しい健康的な食生活をして、十分な睡眠時間を確保することで、ストレスや不安が軽減できます。

また、自律神経によって制御されていて、またドーパミンやセロトニンなど神経伝達物質の元のなる成分の90%以上を生産しているため腸内環境を整えておくことでストレス耐性を高めて、幸福感を感じやすくする効果が期待できます。

いつもと違うことをする

「歳を取るごとに1年が短く感じる」ようになりますが、これは19世紀にフランスの心理学者によって提唱された「ジャネーの法則」によって説明されています。

ジャネーの法則とは、「時間の心理的長さは年齢に反比例する」という法則で、例えば、50歳の大人にとって、1年の長さは人生の1/50ですが、5歳の子供にとっては人生の1/5なので、同じ1年という時間の長さでも、5歳の子供の1年は50歳の大人の10年分のような感覚になるそうです。

5歳の子供が経験値が少なく何をしても新鮮ですが、50歳の大人は既にたくさんのことを知って経験していますし、新しいことに挑戦しようとすることも少ないため、毎日が同じように過ぎていき、振り返って見ると毎日同じようなことばかりで変化がなく、受けている刺激が少ないため、過ぎた時間の長さを実感しにくくなることでこのような差が生まれているそうです。

5歳の子供が経験値が少なく何をしても新鮮ですが、50歳の大人は既にたくさんのことを知って経験していますし、新しいことに挑戦しようとすることも少ないため、毎日が同じように過ぎていき、振り返って見ると毎日同じようなことばかりで変化がなく、受けている刺激が少ないため、過ぎた時間の長さを実感しにくくなることでこのような差が生まれているそうです。

また、年齢を重ねて物覚えが悪くなったと感じるほとんどのケースが、記憶力の低下というよりも興味関心の低下が原因とも言われています。

誰にとっても、何歳になっても、1年は365日だし、1日は24時間(1440分)。

つまり、年齢を重ねても毎日をワクワクしながら楽しく新しいことに挑戦している人の時間の感じ方は子供の頃と変わらないし、むしろ、自分で選べる選択肢が増えている分、子供以上に充実した(変化の多い)時間を過ごすことは可能です。

ふだんと違うことをすると加齢により低下しがちな前頭葉を活性化する効果が期待できます。

例えば、いつも朝は家でコーヒーを飲んでいたけど、今日は喫茶店で飲んでみるとか、あえて紅茶をオーダーしてみるとか、ささいなことでもいいので、ドキドキ・ワクワクする小さな変化を楽しみましょう。

とても幸せそうにいつもニコニコしているお婆さんがいます。

いつもほぼ同じご飯とお味噌汁の朝食に「わーこんな珍しいもの食べるの初めて。美味しい。」
いつもの日課の朝の体操の時に、「わーこんなことするの初めて。楽しい。」
おやつの時間に毎日飲むお茶の時間に、「わーこんな美味しいお茶初めて。嬉しい。」

このお婆さんは認知症で少し前のこともすぐ忘れてしまいますが、毎日が新鮮で新しいので、子供のように毎日目をキラキラさせながら日常を楽しんでいます。

四季の変化を楽しみ五感を刺激する

四季の変化に目を向け、自然を五感で感じるだけでも、心身とも癒されつつ、五感が鍛えられ脳の活性化が期待できます。

特に、「実りの秋」「食欲の秋」「スポーツの秋」「芸術の秋」「読書の秋」 などと呼ばれる秋は楽しみが多く、いろいろなことに挑戦しやすいシーズン。

また、面白いことに、秋には他の3つ季節とは違って「秋が来た」とは言いません。

「春が来た」「夏が来た」「冬が来た」他のどの季節も「来る」のに秋だけはなぜか「来ない」のですが、その変わり、「夏の終わり」または「冬の始まり」と表現されます。

秋は、暑い夏の疲れをしっかり癒し寒い冬にしっかり備える健康管理にも重要な季節ですが、意識せずに過ぎ去ってしまいがちなのかもしれません。

四季を意識して五感を鍛えれば、他に特別なことをしなくても毎日の生活でも気付きや変化を楽しむ能力を高められ、1年の充実度は高まります。

決めつけずにまずは行動してみる

年齢を重ねると、過去の経験にとらわれて、どうしても行動を起こす前から「こうすべき」「こうなるに決まってる」と決めつけてしまいがち。

たとえ失敗したとしても、その想定外の出来事が前頭葉を刺激し、感情の老化を防いでくれるのだから、子供のころみたいに、あまり考えずにやりたいと思ったことはまず挑戦してみる、行動してみることも大切です。

人間関係を広げる・恋愛する

「前頭葉」が衰えると意欲がなくなり、引きこもりがちになり、ますます孤独を感じて不機嫌になりやすくなります。

地域のイベント、趣味のサークル、ボランティア、習い事など仕事以外の趣味や楽しみの人間関係を確保し、人との関係を楽しみましょう。

特に恋愛はいくつになっても脳活性化に有効で、好きな芸能人や気になる人がいるだけでも生活にハリがでます。

「記憶力」を鍛える生活習慣を意識する

加齢により低下する「認知機能」の中でも自覚しやすく、日常生活の問題に直結しやすいのは「記憶力」だと思います。

特に、新しいことを覚えたり、状況の変化に適応していくことが大変だと感じると思いますが、脳の構造や「記憶力」の仕組みを理解していれば、対策は明確になります。

この考え方は、子供の脳発達過程でも有効に転用できます。

まず、脳はそもそも「忘れる」ことを許容しているということを含んだ「記憶のメカニズム」理解した上で「記憶力」を維持向上させる対策を実践しましょう。

「エビングハウスの忘却曲線」によると「20分後には42%忘れる」「1時間後には56%忘れる」「1日後には74%忘れる」「1週間後には76%忘れる」「1ヶ月後には79%忘れる」そうで、脳は意識的に重要ではない情報を忘れようとする機能があること、記憶のほとんどは短時間のうちに衰退していく仕組みになっていること理解しましょう。

その上で、以下の点を意識すると「記憶力」維持に効果的です。

原因脳の性質正しい対処法
マルチタスクはしない 脳は、同時に複数のインプットを処理することはできない
マルチタスクで何かを覚えておこうとしても、集中力や注意力が分散されてしまい非効率(ひとつのことに集中して行うよりも2倍以上の時間がかかる)
極力不要な情報を遮断して、一つ一つのことを集中して処理することで記憶の定着率が高まる
・重要な仕事や勉強をする時は、非効率で脳を疲弊させるマルチタスクはしない
・生活環境をできるだけシンプルにすることで、悩みやストレスを減らす
楽しく興味を持って取り組む 好き嫌いなどの感情を司る「扁桃体」が、短期記憶から長期記憶への移行に関する「海馬」に影響を与える(興味のあることの方がつまらないものよりもすぐ覚えられる)
興味を示しているときの脳波は、「海馬」の神経細胞を柔軟にして脳を感受性の高い状態に保つ性質を持つθ(シータ)波になる性質があり、年齢は関係ない
楽しくポジティブに取り組める環境や目標を設定することでも記憶力(記憶の定着率)を高められる
アウトプットする 脳は、感覚器官から常に入り込む膨大な情報の取捨選択をし、どの記憶が不要でどの記憶が必要であるかを選別する必要があるため、記憶として定着させるべき情報を「頭に入った情報」ではなく「頭から出した情報」とすることで、脳の負担(エネルギー消費)を抑えているため、反復してインプットするよりも反復してアウトプットする方が脳回路へ定着しやすい 重要なことは反復してアウトプットする

神経細胞自体は増えることはなくむしろ加齢とともに減少していくのですが、神経細胞の多くは樹状突起を持っていて、他のニューロンと接合して神経回路としてのネットワークを形成する樹状突起は、年齢関係なく経験や知識を学習すればするほど成長しますので、年齢を重ねても、「頭を使えば使うほど良くなる」と言われています。

また、「海馬」では神経幹細胞が生涯にわたって新しい神経細胞が生産され続けているため、記憶量が限界を迎えても、一定期間が過ぎれば記憶量の上限が増加することを示した研究もあり、脳機能(記憶力)は年齢関係なく、訓練(アウトプットの反復)で高められます。

興味関心を持って楽しむことも重要で、アメリカの国立訓練研究所(National Training Laboratories)の調査でも、教育の効果(学習定着率)が指導方法によって異なることを示していて、講義や読書といった受動的な要素の強い学習方法の場合は知識の定着率は低くなるが、自身の体験や他者への指導(出力)が伴う能動的な要素の強い学習方法の場合は知識の定着率が高くなる傾向があることを述べています。

もちろん、食事・睡眠・運動と基本的に脳機能を高める生活習慣は、記憶力を高める上でも重要な土台になります。

よく眠る人ほど成績が良いと言われていますが、「海馬」からの情報の転送は睡眠時に行われる、つまり、記憶は眠っている間に整理されて定着していくこと、神経新生は運動によって促進されることも研究によって分かっています。

また、記憶には膨大なエネルギーも必要になるので、健康的な食生活で十分なエネルギーと栄養を確保することも重要です。

「筋トレ」で「判断力」を鍛える

近年、高齢者の車の運転による事故が多発して社会問題になっていますが、アメリカに高齢者による車事故を大幅に減らした事例があります。

アメリカは、言わずとしれた車社会で高齢者の交通事故が社会問題化し、原因としてドライバーの脳が「危ない!」と察知してから実際にブレーキを踏むまでの時間が長いことが挙げられていました。

そこで、政府は高齢者にいわゆる机上での脳トレを推奨して脳の活性化を図りましたが、成果が現れませんでした。

それならと、今度は危険を察知してから実際にブレーキを踏むまでの過程を医学的・解剖学的に分析し、脳から筋肉への神経経路を鍛える筋トレのような脳トレを推奨したところ交通事故が大幅に減ったそうです。

危険を察知してからブレーキを踏む行為は言葉にするとたった一行ですし、時間にしても数秒ですが、医学的にその経路を説明すると細胞レベルの話は省略してものすごく簡略化しても以下のような長くなります。

  • 運転中に視覚で目の前に危険物をとらえる
  • 脳がその情報を受け取る
  • 脳がそれを危険だと判断する
  • 脳がブレーキを踏めと指令を出す
  • 神経が筋肉にその指令を伝達する
  • 指令を受け取った筋肉が運動を起こす
  • 足が動かしブレーキを踏む
  • 車が停止する

これらの反応速度が全体として遅くなる理由は「脳の認知機能(高次脳機能)」を含む神経経路の機能低下なので、脳神経機能をトータルで鍛えるトレーニングをすればいいということになります。

近年「脳トレ」ブームでオンラインゲームや書籍でも様々なトレーニング教材が発売されている一方、ボディメイクやダイエットを目的とした「筋トレ」もまたブームです。

筋トレは単に筋肉を太く強くするためのものではなく(ボディビルディングなど筋肉の肥大やデザインを主な目的となる筋トレもありますが)、目的に応じて素早く適切な動作を起こすために行う脳トレでもあります。

スポーツ選手のトレーニング方法に当てはめてみるとわかりやすいと思いますが、スポーツはかなり特殊な環境で、特殊な姿勢でバランスを取り、瞬間の筋の最大出力を高めることで身体の限界に挑み記録に挑むものなので、脳から筋肉への神経伝達経路を鍛えるという視点は必要不可欠です。

脳トレは筋肉に直接アプローチをするものではありませんが、情報を処理しアウトプットするという意味では筋力トレをする際にも有効に作用する機能を鍛えることもできますし、筋トレに関してはいくつかのアプローチ方法がありますが、ほとんどの場合において脳機能を一緒に鍛える必要があるため、「筋トレ」=「脳トレ」と考えたほうが合理的だし望む結果を導きやすくなります。

現代人はかつてないほど脳で情報を処理する必要性が増えていて、肉体は疲れていないのに、脳が疲労して全身のバランスが崩れている人が非常に多くいます。

そんな現代人にとって、体を使うスポーツやトレーニングは心身のリフレッシュとしても重要な役割を果たしますが、普段使わない体の使い方をすることによって脳の機能が活性化していることも有効に働いていると言えます。

忙しい人ほど、日々頭を使う仕事をしている人ほど、あえて時間をとってスポーツや筋トレなどで普段使わない神経経路に刺激を入れてみることをお勧めします。

「筋トレ」=「脳トレ」を意識すると、身体の健康効果に加えて、今まで以上に脳機能が上がるので仕事や勉強のパフォーマンスは上がっていき、同じ時間で処理できる仕事量が増えていきますし、今まで気がつかなかったりできなかったことができるようになったという声も多く聞きます。

毎日10分でも、定期的に脳トレのつもりで筋トレやスポーツをしてみると、それだけで人生よい方向に変わっていきます。

-脳と神経