高次脳機能障害は、脳の最高中枢である脳の機能の中でも特に高次である統合機能が何らかの原因で障害された場合に起こります。
症状と責任病巣(問題を引き起こしている脳部位)を関連付け、症状から病巣の推測や確認もできますので整理して理解しましょう。
高次脳機能障害の症状と責任病巣
あらゆる機能を司る最高中枢である脳の中にも役割分担があり、それぞれが相互に協力しあい抑制し合っています。
全身の器官を通じて得た情報は神経を通じて脳に届きますが、脳ではさらにその情報を整理して統合するという働き(高次脳機能)があります。
情報を受け取り脳へ届けるシステムに問題がなくても、それを受け取り整理して処理する脳に一部でも問題があるとその処理が適切に行えず、高次脳機能障害が起こります。
高次脳機能障害を理解するのはとても難しいのですが、どこに問題があるのかを切り分けて考えていくことで、整理でき対処法も考えられるようになります。
臨床上は例外もありますが、高次脳機能障害の症状と責任病巣の関連を、優位半球と劣位半球で分類しています。
また、思考や近くの認識や統合を行う頭頂葉の障害で起こりやすく、症状の理解や判別が難しい失行や失認の症状を簡単に以下にまとめました。
優位半球【症状:責任病巣】
劣位半球【症状:責任病巣】
両半球【症状:責任病巣】
失行とは
失行の定義
失行は高次脳機能障害の症状のひとつで、運動麻痺・運動失調・不随意運動などの運動障害がなく、かつ行うべき行為もわかっているのにその行為を行うことができない状態のことです。
行う身体的な能力はあり、やらなければいけないこともやるべきこともわかっているのにできない、なかなか理解が難しい症状です。
失行の症状
肢節運動失行
責任病巣は左右いずれかの運動野で、基本的な動作(立つ・歩く・手を開く・舌を出す・口笛を吹く・眼を閉じる)ができません。
観念運動失行
責任病巣は優位半球の頭頂葉下部広範囲で、指示された簡単な動作や習慣化された動作が意図的にできない状態。
例えば、自発的に手を振ってサヨナラをしたり歯を磨いたりはできるのに、「さようならと手を振ってください」「歯を磨くまねをして下さい」といった指示に対して、頭では理解しているのに実行できません。
比較的簡単な動作(Vサインの模倣など)でも自発的にはできるのに、指示されてやろうとするとできません。
※自発的には動作が可能なため、本人は気づかないことが多い。
観念失行
責任病巣は優位半球の頭頂葉で、使い慣れた物の扱い方が分からない、目的に沿った動作ができない状態。
日常よく使うもので、物の名前や用途は説明できるし使い方も知っているのに、いざ使用しようとするとできない状態です。使い方を聞いてもできない状態です。
歯ブラシを歯を磨くものだとわかっているのに、いざ使ってみるように伝えて渡すと耳に入れてしまうとか、普段当たり前に行っていた、お茶を入れて飲むとかタバコを吸うなど手順を踏む動作ができなくなります。
観念失行と観念運動失行の違い
観念運動失行はある一定の動作ができないのに対し、観念失行は順序だった動作に対して個々の部分的な動作はできますが、各動作の順序が混乱し複合した動作ができなくなります。
観念失行は観念の連続性が断たれ、観念運動失効は観念の運動の連続性が断たれている状態です。
構成失行
責任病巣は優位半球の頭頂葉から後頭葉で、物の空間的な構成が把握ができません。
例えば、丸や四角などのシンプルな図形を書く、簡単な積み木を組み立てる、マッチ棒で三角形を作るなどができなくなる状態です。
着衣失行
責任病巣は優位半球の頭頂葉から後頭葉で、着慣れているいる服でもうまく着用ができません。
*高度なものは劣位半球の障害で起こります。
失認とは
失認の定義
失認は視覚・聴覚・味覚・嗅覚・体性感覚など感覚自体には異常がないが対象の認知ができない、注意や知能など一般的な精神機能が保持されているにも関わらず、対象を認知できないことです。
つまり、目の機能も、耳の機能も、触覚も、口の機能も全く問題ないのに対象物の認知ができなくなる(ないものとして扱う)状態です。
触覚、視覚、聴覚の情報は感覚路を通じて入ってきていて(感覚の経路に器質的な問題がない)、意識もあり(意識レベルにも問題がない)、認知症状もない(認知レベルにも問題がない)のに、それが何であるか?を判別できない状態です。
感覚器を通じて脳に情報は入っているが脳の中で正しく統合されていない状態なので、脳の高次の機能障害です。
失認の症状
視覚性失認
責任病巣は両側後頭葉で、日常よく使うものを見せてもそれが何であるか?どんな使い方をするのか説明できない状態のこと。
*触ってみるとわかることが多い。
色彩失認
責任病巣は優位半球後頭葉で、色彩がわからない状態のこと。
視空間失認
責任病巣は右の大脳半球広範(左の半側空間無視の場合)で、どちらかの空間(主に左)を無視する状態(中心が身体の右側に寄っていく)のこと。
病巣と反対側の視空間を無視する症状で、例えば食事時に皿の半分を残す、歩行時に左側がぶつかるなどがあり、全視野が入っているが意識して注意を向けなければ左側(病巣と反対側)に気づかない状態です。
半側身体失認
責任病巣は右大脳半球(左の半側身体失認の場合)で、身体の半分に対する認識の欠如がある(左が多くまるで存在しないかのように扱う)のこと。
*半側空間無視を伴うことが多く、麻痺側が壁にぶつかっていたりしても全く気にしなくなる状態です。
身体部位失認
責任病巣は前頭葉で、身体の部位が分からなくなってしまう状態のこと。
身体の部分を言われたり触られてもそこを指示できません。
病態失認
責任病巣は前頭葉で、麻痺があるのに否認したり、病気であることを認めない状態のこと。
相貌失認
責任病巣は右後頭葉内側面で、友人・家族・鏡に映った自分の顔も分らない状態(声や着衣からの判断は可能)のこと。
*喜怒哀楽もわからない。
読み書きに関する高次脳機能障害
失読・失書
話す・聞くなどの障害はないのに読み書きができない状態のことです。
ゲルストマン症候群
以下の4つの症状呈するものです
手指失認
指の操作に困難があり、手指とその名称が結びつかない状態のこと。
例えば、自分の指がそれぞれ何指が分からず、人差し指と言われてもその指を指示できません。
失書
文字が書けない(写字より自発書字が障害されやすい)状態のこと。
例えば、自分の名前や住所などでも、自ら考えて書字することができず、重症例では字を書くことも書き取りもできなくなります。
左右失認
自己及び他人の身体の左右の区別ができない状態のこと。
例えば、自分にとってどちら側が右か左か分からなく、右手で左耳を指すというような左右の理解ができなくなります。
失算
計算ができない状態のこと。
暗算も筆算もできず演算自体ができないという障害のほかに、数字も読めないし書けません。
高次脳機能障害(失行や失認)を機能障害と区別する方法
高次脳機能障害は、上記意外にも注意障害、脱抑制、認知機能障害など様々な種類があり、実際の症状がどの症状なのか明確に識別することは非常に困難で、様々な原因が複雑に絡み合っていることもあります。
失行か失認かを理解するためには、まず、麻痺・失調・感覚障害の有無、視覚機能や聴覚機能の障害の有無など、機能的な問題がないかどうかを見極めることが重要です。
その上で責任病巣と症状を照らし合わせて、可能性を確認していくこと正しい理解を目指しましょう。