記憶力をあげる方法 〜「記憶にございません」の真相を脳科学で説明

脳と神経
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そもそも積極的に「忘れる」仕組みになっている脳を理解し、嫌なことや不要なことだけ忘れて、本当に必要なことだけを効率よく記憶する【記憶力を高める脳科学に基づく効果的な方法】を整理してまとめました。

記憶は3種類

生物学的・脳科学的に記憶は3種類に分類できます。

  • 【感覚記憶(感覚情報保存)】:目・耳・鼻・皮膚などの感覚器官から常に得ている膨大な感覚情報のうち、特に意識していないために1秒程度で消滅する記憶
  • 【短期記憶・ワーキングメモリー(作業記憶)】:特定の目的を遂行するために一時的な保持を目的とした記憶
  • 【長期記憶】:自分の電話番号、名前、生年月日など長期的に保持される記憶
  • 記憶の仕組みと海馬の役割

    記憶を司る脳は多くの神経細胞(ニューロン)によって構成されていますが、記憶は神経細胞の単位ではなく、複数の神経細胞をつなぐシナプスの単位で行われます。

    特に記憶に関係しているのが脳の部位は【海馬】と【皮質領域】で、直近の短期記憶を海馬が保持し、長期的な記憶は脳のさまざまな皮質領域にまたがって保存されます。

    海馬から送られてきた記憶の情報は、電気信号として大脳皮質の神経細胞を刺激しますが、その刺激が強くなるほど多くのシナプスが組み合わせされて伝達効率が増し、特定の電気信号が通りやすい特別な回路ができ、その回路が長時間にわたって持続することで記憶が長期間保持され、記憶を引き出すときは、その記憶の回路に電気信号が流れて情報を引き出す(思い出す)ことができます。

    つまり、海馬は長期記憶そのものを司る器官ではなく、長期記憶を形成する前段階に必要な器官で、海馬は多くの記憶を整理し、覚えるべきものとそうでないものを区別し、覚えるべきものと判断した記憶を大脳皮質に送る役割をしています。

    海馬は、「年齢を重ねても神経細胞が増える」性質があるので、記憶力は鍛えれば鍛えるほど高められますが、海馬は快や不快の感情を作り出す扁桃体とのつながりが強いため、興味関心があるものでは記憶の定着が高まりますが、逆にストレスによって海馬の神経細胞は増える力を抑制されてしまうため記憶の形成が困難になります。

    PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症すると海馬が小さくなることがわかっています。

    忘れる(思い出せない)状態とは?

    私たちは一度覚えたことを忘れてしまいますが、それには様々な可能性が考えられます。

    記憶のプロセスはおおまかに、以下のステップを踏みますので、そのどこで失敗しても忘れる(思い出せない)という状態が起こります。

  • 【情報を認識して記憶を形成】
  • 【重要情報のフィルタリングや整理を行い記憶として保存(海馬や皮質領域)】
  • 【記憶を選択して引き出す(思い出す)】
  • 忘れる原因.1 :そもそも記憶が形成されていない

    誰しも経験があると思いますが、そもそも記憶しようと意識していないことは記憶されません。

    私たちの日常は、記憶することだけに集中できる場面は少なく、行動しながら記憶しなければならない場合がほとんどなので、意識して記憶しようとしていないことはほとんど忘れてしまいます。

    そのため、私たちは重要なことはメモしたりして忘れないように補いますが、注意力や集中力が散漫な状態で聞いたことはすぐ忘れてしまうのは、そもそも情報を記憶として保存する以前の問題です。

    明らかな脳の疾患や萎縮がないのに忘れっぽいひとは、そもそも記憶が形成されていません。

    忘れる原因.2 :保存した記憶が衰退・干渉している

    脳で保存できる容量に限度があるため、古い記憶や重要度が低くなった(反復されなくなった記憶)は、衰退していくか類似した新しい記憶と干渉して、思い出すことが困難になります。

    海馬は似た記憶を区別できるという特異的性質を持っているので、海馬にファイルされる記憶は他の記憶と干渉されませんが、似た記憶を区別する能力が低い嗅周皮質にファイルされた記憶はごちゃごちゃになりやすい特徴があります。

    一般的に似たような情報であれば、古い情報よりも新しい情報の方が思い出しやすく、感情的だったり、特別なイベントなど干渉する対象が少ない記憶ほど鮮明に思い出しやすい理由もここにあります。

    生理学的には、海馬に集まる新しい記憶のうち、神経回路では頻繁に強く信号が来るシナプスはその結合が強くなりますが、信号があまり来ないシナプスでその結合が弱くなっているので、シナプス結合の強い記憶回路は皮質領域へ移動して長期記憶として定着して行きますが、シナプス結合の弱い記憶回路は、移動していく過程で衰退してしまいます。

    これらの回路は、てんかん、頭部外傷、脳機能障害、脳萎縮(認知症)などでも壊れますので、この場合も記憶が衰退します。

    忘れる原因.3:記憶が適切に引き出せない

    記憶が引き出せない(思い出せない)には、「自発的には思い出せないけれど、見る(聞く)と思い出す」状態と、「見ても(聞いても)思い出せない(初めて見た印象を受ける)」状態があります。

    「自発的には思い出せないけれど、見る(聞く)と思い出す」状態は、記憶が衰退・干渉しているため脳内でその記憶を探しづらい状態になっていて、「見ても(聞いても)思い出せない(初めて見た印象を受ける)」状態はそもそも記憶されていないか、何らかの原因で記憶が完全に消失してしまっていると考えられます。

    脳は積極的に忘れようとしている

    近年、忘れることは機能障害や低下とする説よりも、「脳が記憶を忘却するのは、脳に備わった基本的な機能である可能性がある」、つまり「脳は積極的に忘れようとしているとする説」が有力です。

    もし、人間が全ての事柄を覚えていたら(忘れることができなければ)、膨大な情報量となってしまい限りある脳スペースを有効に活用できませんので、不要な情報は数日か数週間は保持しても、重要でないとフィルタリングしたものや新しい類似情報が入ってきた時は、古く重要ではない情報を脳のスペースから削除して、新しい情報や重要な情報を引き出しやすい状態を脳は意図的に作ろうとしています。

    また、もし仮に感覚器官を通じて脳に送られる情報の全てが長期記憶に変換されるのであれば、脳が消費するエネルギーや記憶に必要な脳細胞が膨大な量になってしまい、現状の忘れる仕組みの脳が体内で消費する全エネルギーの約25%を消費することを考えると、膨大な記憶を保持するために更なるエネルギーを消費してしまえば生命維持すら困難になる可能性もありますので、消費エネルギーを抑えるために必要不可欠な機能とも考えられます。

    パソコンやスマホも予め設定された容量以上はデータを保存できないので、古いものや不要なものを整理する必要があるように、脳にも全ての経験を記憶しておくほどのスペースがないため、一番重要なものや将来必要になるものだけを保存しておこうとうしますので、日常的なことよりも、感情的が強く動いたものや特別なイベントほど記憶に残りやすくなりますし、繰り返し練習して習得した情報ほど定着率が高まります。

    「忘れる」ことは適応性でもあり、忘れるから効率的に記憶できるともいえます。

    記憶力を高める脳科学に基づく方法

    脳は忘れる仕組みを持っていることを理解する

    「エビングハウスの忘却曲線」では、いかに人は簡単に忘れることができるかを示しています。

  • 20分後には42%忘れる
  • 1時間後には56%忘れる
  • 1日後には74%忘れる
  • 1週間後には76%忘れる
  • 1ヶ月後には79%忘れる
  • まず、脳は意識的に重要ではない情報を忘れようとする機能があること、記憶のほとんどは短時間のうちに衰退していく仕組みになっていること理解しましょう。

    マルチタスクはしない

    脳は、同時に複数のインプットを処理することはできませんので、マルチタスクで何かを覚えておこうとしても、集中力や注意力が分散されてしまい非効率です。
    (ちなみに、マルチタスクで何かしようとすると、ひとつのことに集中して行うよりも2倍以上の時間がかかると言われています。)

    重要な仕事や勉強をする時は、非効率で脳を疲弊させるマルチタスクはせずに、極力不要な情報を遮断して、一つ一つのことを集中して処理することで記憶の定着率が高まります。

    楽しく興味を持って取り組む

    好き嫌いなどの感情を司る扁桃体が、短期記憶から長期記憶への移行に関する海馬に影響を与えるため、楽しくポジティブに取り組める環境や目標を設定することでも記憶力を高められます。

    また、興味のあることの方がつまらないものよりもすぐ覚えられたという経験は誰にもあると思いますが、興味を示しているときの脳波は、海馬の神経細胞を柔軟にして脳を感受性の高い状態に保つ性質を持つθ(シータ)波になる性質があるので、興味を持って何事にも取り組んでいる人のほうが記憶の定着率が高くなる傾向があり、これには年齢は関係ありません。

    年齢を重ねて物覚えが悪くなったと感じるほとんどのケースが、記憶力の低下というよりも興味関心の低下が原因とも言われています。

    アウトプットする

    記憶定着には反復練習が不可欠ですが、反復してインプットするよりも反復してアウトプットする方が脳回路へ定着するというデータがあります。

    脳は、感覚器官から常に入り込む膨大な情報の取捨選択をし、どの記憶が不要でどの記憶が必要であるかを選別する必要があるため、記憶として定着させるべき情報を「頭に入った情報」ではなく「頭から出した情報」とすることで、脳の負担(エネルギー消費)を抑えています。

    アメリカの国立訓練研究所(National Training Laboratories)の調査でも、教育の効果(学習定着率)が指導方法によって異なることを示していて、講義や読書といった受動的な要素の強い学習方法の場合は知識の定着率は低くなるが、自身の体験や他者への指導(出力)が伴う能動的な要素の強い学習方法の場合は知識の定着率が高くなる傾向があることを述べています。

    海馬では神経幹細胞が生涯にわたって新しい神経細胞が生産され続けているため、記憶量が限界を迎えても、一定期間が過ぎれば記憶量の上限が増加することを示した研究もあり、脳機能(記憶力)は年齢関係なく、訓練(アウトプットの反復)で高められます。

    運動・睡眠・食事を大切にする

    神経新生は運動によって促進されることも研究によって分かっています。

    また、よく眠る人ほど成績が良いと言われていますが、海馬からの情報の転送は睡眠時に行われる、つまり、記憶は眠っている間に整理されて定着していくこともわかっています。

    記憶には膨大なエネルギーも必要になるので、健康的な食生活で十分なエネルギーと栄養を確保することも重要です。

    食事・睡眠・運動と基本的に脳機能を高める生活習慣は、記憶力を高める上でも重要な土台になります。

    「忘れる」メリット

    忘れてしまうことにはデメリットもありますが、忘れられることのメリットもたくさんあります。

    とても幸せそうにいつもニコニコしているお婆さんがいます。

    いつもほぼ同じご飯とお味噌汁の朝食に「わーこんな珍しいもの食べるの初めて。美味しい。」
    いつもの日課の朝の体操の時に、「わーこんなことするの初めて。楽しい。」
    おやつの時間に毎日飲むお茶の時間に、「わーこんな美味しいお茶初めて。嬉しい。」

    このお婆さんは認知症で少し前のこともすぐ忘れてしまいますが、毎日が新鮮で新しいので、子供のように毎日目をキラキラさせながら日常を楽しんでいます。

    私たちには、「忘れたい嫌なこともこと」も「忘れた方がメリットが大きいこと」もたくさんありますので、嫌なことや覚えておく必要のないことがどんどん忘れさせてくれる脳の機能に感謝し、楽しく毎日を過ごしましょう。

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