中枢性麻痺(上位運動ニューロン障害)と末梢性麻痺(下位運動ニューロン障害)に大きく分けて運動麻痺を分類しています。
上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの違いと合わせて整理しましょう。
運動麻痺は損傷部位や損傷の仕方によって症状の出方が異なりますので、症状から損傷部位をある程度特定する事も損傷の状況から症状を予測することも可能です。
中枢性麻痺と末梢性麻痺
意識・無意識に関わらず、すべての活動は中枢神経系(脳・脊髄)に制御され、伝達役である末梢神経(運動神経)によって中枢から全身へ指令が送られます。
つまり、中枢神経は脳と脊髄のことで、末梢神経は中枢神経以外の全身に分布する神経のことです。
役割が全くことなるため、損傷部位が中枢(上位運動ニューロン)か末梢(下位運動ニューロン)かで麻痺症状の特徴も全く異なりますし、具体的にどの部位が損傷されているかによっても症状が異なります。
上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの違い
上位運動ニューロンは中枢神経のことで、下位運動ニューロンは末梢神経のことです。
より解剖学的に説明すると、上位運動ニューロンは脊髄前角細胞や脳幹の脳神経核までで、下位運動ニューロンは脊髄前角細胞や脳幹の脳神経核以下の部分です。
中枢性麻痺【上位運動ニューロン障害】
特徴
*初期は弛緩→次第に痙性
*痙直:筋肉の緊張(抵抗感)が増強した状態
*ジャックナイフ現象
*廃用委縮は起こる
大脳皮質・白質の障害
大脳皮質は、脳の最表層にあり神経細胞の集まりで、大脳白質は神経細胞から出た神経軸索ですが、大脳皮質と白質のどちらが障害されても運動麻痺が起こります。
運動機能に関係する大脳皮質は、中心前回(ブロードマン第4野)と前運動領野(ブロードマン第6野)です。
それぞれ支配領域が異なりますが、隣接しているので単独障害は少なく、4野と6野と同時に障害されると典型的な中枢性麻痺の症状が出現します。
その他にも前頭(第8野)頭頂(第3野)も関与していると考えられています。
大脳皮質の運動領野障害時に出現するその他の症状
焦点性(ジャクソン型)痙攣発作
焦点性(ジャクソン型)痙攣とは、大脳皮質の運動機能局在に一致した身体部位に限局して始まり、全身に広がっていく痙攣発作のこと。
例えば、円蓋部髄膜腫が手の運動機能を支配している頭頂部の大脳皮質を圧迫した場合、異常な電気性興奮(てんかん焦点)が発生して、腫瘍と反対側の手だけに痙攣が生じますが、周辺の大脳皮質に波及して指→手→腕→上肢全体→顔面→足のように全身へ広がります。(ジャクソン型進展)
失語症
優位半球前頭葉下部の言語中枢が損傷されると、運動性失語や語健忘が生じます。
反対側失認症
非優位半球の頭頂葉の皮質が損傷すると麻痺側の存在を無視する症状が生じます。
内包の障害
広範囲の大脳皮質から出る錐体路の神経線維は狭い内包部に集束しているため、内包やその周囲の障害では症状の現れる範囲は広範囲でかつ重篤です。
内包部や隣接するレンズ核や視床を栄要する血管には、前脈絡叢動脈、レンズ核線状体動脈、視床穿通動脈などがあります。
視床の障害
知覚に関するすべての刺激は視床に集まる(交叉済み)ため、一側視床が障害されると反対側の全知覚障害が生じます。
視床膝状体動脈の出血、閉塞による視床症候群(デジュリン・ルーシー症候群)では、反対側の知覚障害、異常な自発痛(灼熱痛、視床痛)、不全片麻痺、運動失調、同名半盲などの症状を呈します。
脳幹部の障害
脳幹部とは、中脳・橋・延髄のことで第3(動眼神経)~第12(舌下神経)の脳神経核がある場所です。
皮質延髄路に関係する脳神経(第3~7、9~12脳神経)は脳幹部で交叉、皮質脊髄路の上位運動ニューロンは延髄下部の錐体交叉部で交叉していますので、障害されると病変と同じ側の脳神経障害反対側の手足の麻痺(交代性片麻痺)が生じます。
例えば、左側の中脳腹側に出血が生じると、左動眼神経核、左動眼神経(末梢神経)、皮質脊髄路に障害が生じ、左側の眼球運動障害、右側の運動麻痺(皮質延髄路も同時に障害されると、右側脳神経麻痺(5~7、12脳神経)も)が生じます。
第9~11脳神経(舌、咽頭、喉頭)は両側性支配のため、一側だけの障害では
症状がでにくい。
疾患例
脊髄の障害
損傷部以下の運動麻痺、知覚麻痺、膀胱直腸障害が生じます。
脊髄後索の障害
深部知覚と微細触覚を伝える神経線維の通路が障害されるため、位置覚・振動覚・識別覚・立体認知が障害されて、ロンベルク試験陽性となり痛覚過敏が生じる。
例:脊髄癆・後脊髄動脈の閉塞(外傷など)
脊髄後角の障害
脊髄後角は、温痛覚や粗大触覚の神経線維が次のニューロンに接続する部位のため、障害髄節が司る温痛覚だけが障害されて、粗大触覚が事実上保持(障害として認識されにくい)される(知覚解離)。
脊髄灰白質の障害
脊髄の中心管を取り囲む脊髄中心灰白質の病変は、前脊髄動脈の閉塞、脊髄空洞症、脊髄内腫瘍、脊髄出血などで起こり、障害部位に対する体節性の症状を呈します。
脊髄白質の障害
長い連絡路が障害されるため、 障害部位のレベル以下に以下の症状を呈する
横断性脊髄障害
脊髄が横断されるように損傷すると、損傷された脊髄髄節以下すべての知覚障害と運動麻痺、膀胱直腸障害が生じます。
横断面は、1cmにも満たない構造で、 左右の仕切りもないので、外部からの圧迫性病変により容易に両側性の障害をきたします。
半側性の脊髄障害(ブラウン・セカール症候群)
一側半分の脊髄が破壊されるとブラウンセカール症候群(特徴的な知覚障害と運動麻痺)と呼ばれる特徴的な症状を呈します。
【知覚障害】
【運動障害】
円錐部症候群・馬尾症候群
第3仙髄以下のことを円錐といい、この部分が障害されると、下肢の麻痺はないが、膀胱直腸障害、陰委が著名で、肛門周囲の感覚障害を呈します。
腫瘍、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア くも膜炎、骨折などで、馬尾が障害されると、サドル麻痺(殿部、大腿後面、会陰部感覚障害)、非対称性対麻痺 膀胱直腸障害が生じます。
運動麻痺の範囲
単麻痺
一側下肢の痙性麻痺であることが多いが、同側上肢にもごく軽度障害を合併することもあり
対麻痺
両側下肢のみに麻痺があり、痙直型であることが多い
片麻痺
一側の上下肢体幹、顔面に麻痺を呈するが、上肢の方が下肢より麻痺の程度が強く、痙縮型、アテトーゼ型でみられる
三肢麻痺
両側上肢と一側下肢の痙性麻痺であることが多い
四肢麻痺
四肢体幹すべてに同程度の麻痺があるもので、左右差があっても、同側上下肢の麻痺の程度が同じであればこの型とする
両麻痺
四肢体幹すべて、ときに顔面にも麻痺がみられるが、上肢より下肢で麻痺の程度が強いもの
両側片麻痺
四肢体幹すべて、ときに顔面にも麻痺がみられるが下肢より上肢で麻痺の程度が強いもの
末梢性麻痺【下位運動ニューロン障害】
特徴
*3か月以内に70~80%が減少
脊髄前角細胞・脊髄前根部の障害
下位運動ニューロン障害では、脊髄前角細胞、脊髄前根部の障害も含まれ、代表的疾患としては、ポリオ(ポリオウィルスによる急性脊髄前角炎)、進行性脊髄性筋委縮症(アラン=ドゥシェンヌ型)などがあります。
脊髄前角細胞・脊髄前根部が、損傷された前角細胞、前根を通るニューロンが支配している筋群にのみ麻痺が起こります。
また、脊髄前角細胞そのものが損傷されている場合には、麻痺の筋肉がピクピクと痙攣する繊維束攣縮が生じます。
神経根の障害
神経根の障害が障害されると、障害された脊髄後根のデルマトームに沿って痛み(放散痛)や知覚障害を引き起こします。
変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、腰椎の石灰化や突出した椎間板によって脊髄(L4,5、S1,2)から出たばかりの神経根(後根)が圧迫されその神経の支配領域の皮膚に疼痛(電激痛)をきたす坐骨神経痛などがある。
脊髄神経節の障害
皮膚や筋肉の受容器から出発した知覚の第1次ニューロンの神経細胞(脊髄神経節細胞)が含まれた後根の膨隆部の障害。
例:単純ヘルペスヘルペスウィルスによる感染症で神経節の支配領域に、電激痛と発赤、水疱形成がみられる
所定の筋肉群へ向かう脊髄神経の障害
末梢神経が障害されて2~3日経過すると神経が変性(ワーラー変性)しますが、50~60%は神経再生で回復します。
(*中枢神経は回復しません。)
各髄節レベルの支配筋領域は以下のようになっています。
いくつかの例を紹介します。
多発性ニューロパチー
多発性ニューロパチーは、支配領域が近い末梢神経が四肢末梢部で多発性に障害されたもので、麻痺と知覚障害が四肢末梢部から同時に始まり、知覚障害は、左右対称性に末梢から中枢へ進行(手袋、靴下型)します。
糖尿病などの代謝性障害、血液疾患、ウィルス・細菌感染、中毒(水銀、ヒ素)などが原因で起こります。
神経叢の障害
神経叢とは、多数の末梢神経が絡み合ったもので、単神経障害より、広範囲に知覚・運動麻痺が発生します。
腕神経叢の障害
第4頸髄から第1胸髄までの脊髄神経根が合流して網の目状に走行している腕神経叢は、神経根が単独で障害されても症状は比較的経度です。
代表的疾患としては、肩や上腕の強打、引き抜き損傷、肺尖部の腫瘍(パンコースト症候群)、前斜角筋症候群、胸郭出口症候群などがあります。
C5-C6の障害で肩から肘の運動障害、C8-Th1の障害で肘伸展困難などの運動障害と知覚の異常や低下を呈します。
単神経障害
ある末梢神経障害に単独で生じる単神経障害(単神経炎とも呼ばれる)で、障害された神経の支配領域の運動麻痺と感覚障害が同時(末梢神経なので、運動神経と知覚神経混在)に現れます。
外傷、神経線維の周囲軟部組織による圧迫や絞扼、代謝性疾患(糖尿病・膠原病)などが原因で、正中神経、撓骨神経、尺骨神経、総腓骨神経で起こりやすい。
正中神経の障害(手根管症候群)
代表的な疾患としては手根管症候群(肥厚した横手根靭帯による圧迫)があり、正中神経の支配域の知覚および運動障害、筋萎縮、前腕・手指の激痛などが見られます。
母指、示指の屈曲困難(握りこぶしをれない)、母指球の萎縮(母指と手のひらが同じ面を向く:猿手)などの症状が見られます。
尺骨神経の障害(肘管症候群)
小指球と骨間筋の萎縮による鷲手(フロマン兆候陽性)ががみられます。
撓骨神経の障害
肘・手関節・中手指節関節伸展が困難となる下垂手がみられます。
長時間の腕枕や酔っ払いがベンチの背に腕をかけて寝込んだ場合などにも起こります。
総腓骨神経(足根管症候群)
神経・筋接合部の障害
アセチルコリンは、大脳皮質から神経線維を通じて筋肉に指令伝えるために重要な物質ですが、受信側または発信側いずれの問題でも伝達障害が生じます。
神経接合部でのアセチルコリンの放出障害:イートンランバート症候群
筋肉側のアセチルコリンの受入障害:重症筋無力症