筋膜とアナトミートレイン

【アームライン(AL)】アナトミートレイン・イラスト図解解剖学⑤

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筋膜の機能的なつながりである「アナトミートレイン」のうち、体幹軸から肩甲帯を経由して、上肢(腕・手・指)へつながる4つの筋膜ライン【AL(アームライン)】についてイラスト図解を用いてわかりやすく解説します。

【アナトミートレイン】とは?

【アナトミートレイン(Aatomy Trains)】とは、Thomas Myers 氏が開発した全身の「筋膜」連携を示すマッピングのことです。

「筋膜」の機能的なつながり【アナトミートレイン】を理解していると、肩こりや腰痛などの身体の不調の解消、運動パフォーマンスや姿勢改善に役立ちます。  

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【アームライン(AL)】とは?4種類の筋膜連携

【アームライン(AL)】は、「体幹軸」から「肩甲帯」を経由して上肢(腕・手・指)へつながる筋膜ラインのことで、肩甲帯を経由する時の相対的な配置によって前側・後側・深層・浅層の4つに分解できます。

名称相対的位置
ディープフロントアームライン
(DFAL)
前面深層
スーパーフィシャルフロントアームライン
(SFAL)
前面表層
ディープバックアームライン
(DBAL)
後面深層
スーパーフィシャルバックアームライン
(SBAL)
後面表層

【アームライン(AL)】は、二本足歩行を獲得した人間の上肢の関節(肩関節や腕の関節)は可動性を重視した(安定性を犠牲にした)構造になっていますが、4つのアームライン(前・後・深・浅)を機能的に重ね合わせることで、負荷や多様な動作に柔軟に対応しつつも安定性も高められています。

「肩関節(上腕骨)」を90度程度外転して、掌を前方、肘頭を床に向けた際に、「スーパーフィシャルフロントアームライン(SFAL)」と「ディープフロントアームライン(DFAL)」が腕の前面に、「スーパーフィシャルバックアームライン(SBAL)」が腕の後面に配列します。

また、「肩関節(上腕骨)」を90度程度外転位を保持したまま、肩関節を内旋(前腕回内ではなく)して掌を床面に向けて肘頭が後ろ向きにすると「ディープバックアームライン(DBAL)」が後面に配列します。

【ディープフロントアームライン(DFAL)】

【ディープフロントアームライン(DFAL)】は、「小胸筋」および「鎖骨胸筋筋膜面」で「鎖骨」から腋窩にある様々な組織を含む面から始まり、腕の前面深層を経由して「母指外側」までつながる筋膜ラインです。

経由地点

「鎖骨胸筋筋膜面」は「大胸筋」の鎖骨から腋窩までの深層部にある強力な筋膜(「大胸筋」とほぼ同じ大きさ)で、第3,4,5肋骨に付着する「小胸筋」と「鎖骨下筋」の神経血管束やリンパ組織などを埋め込むように連結させていますので、【ディープフロントアームライン(DFAL)】の開始地点には、肩甲帯の主要要素である「肩甲骨」とつながる「小胸筋」、「鎖骨」と「胸郭(胸骨)」をつなぐ「鎖骨下筋」が含まれます。

 筋膜および筋肉
第3,4,5肋骨1 
 2小胸筋
鎖骨胸筋筋膜
肩甲骨烏口突起3 
 4上腕二頭筋
(烏口腕筋+上腕筋+回外筋)
橈骨粗面5 
 6橈骨骨膜前縁
橈骨茎状突起7 
 8橈側側副靱帯
母指球筋
舟状骨
菱形骨
9 
母指外側10 

「小胸筋」遠位端が付着する「烏口突起」では、「上腕二頭筋短頭」および「烏口突起」とも筋膜を介して強固に連結していて、特に「小胸筋」と「上腕二頭筋短頭」の筋膜接続は「烏口突起」を取り除いたときに一枚の筋肉に見えるくらい明確です。

機能

「上腕二頭筋」からは橈骨面を経由して「母指外側」まで筋膜でつながり、「懸垂など腕を上に上げた状態で体重を支えるとき」「四つ這い、ラグビーのスクラム、プランクなどで上半身の左右の動きや負荷を腕でコントロールするとき」「オープンチェーンではテニスのフォアハンドのように腕を伸ばしたり、手の角度や母指でのグリップ力を発揮する時」などに機能的に作用します。

ただし、「小胸筋」と「上腕二頭筋短頭」以遠が【アームライン(AL)】として連携して機能するのは腕を上げている時のみで、腕を下げてリラックスしている姿勢時にはそれぞれが別の作用の筋肉になります。

腕を下ろした状態で【ディープフロントアームライン(DFAL)】の近位端が短縮すると「烏口突起」が引かれて肩甲骨が前傾(プロトラクション)し、不良姿勢の典型である「猫背」につながります。

ローカルとエクスプレス

【ディープフロントアームライン(DFAL)】の上腕部は「上腕二頭筋」に沿って遠位部につながりますが、「上腕二頭筋部(上腕から前腕近位端)」をより正確に分解すると、「エクスプレス(「上腕二頭筋」)」と「ローカル(「烏口腕筋」+「上腕筋」+「回外筋」)」に別れています。

エクスプレス主な作用ローカル
「上腕二頭筋」
「烏口突起」から「橈骨」へ走行
上腕骨内転「烏口腕筋」
「烏口突起」から「上腕骨」に走行
「上腕二頭筋」
「烏口突起」から「橈骨」へ走行
肘屈曲「上腕筋」
「上腕骨(烏口腕筋付着部の隣)」から「尺骨」へ走行
「上腕二頭筋」
「烏口突起」から「橈骨」へ走行
前腕回外「回外筋」
「尺骨」から「橈骨」へ走行

「上腕二頭筋短頭」は「烏口突起」から「橈骨粗面」へ走行しているので、3つの関節(肩関節:肩甲骨と上腕骨の関節・肘関節:上腕骨と尺骨の関節・前腕:橈骨と尺骨の関節)に作用します。

「上腕二頭筋短頭」が収縮した時の作用には、「前腕回外」「肘屈曲」「肩屈曲(腕の挙上)」が主ですが、他の筋肉との連動や筋膜のつながりにより様々な腕の動きや腕の動きを含む姿勢に関与します。

そして、「上腕二頭筋」深層には「上腕二頭筋」と協調的に作用する3つの筋肉(「烏口腕筋」+「上腕筋」+「回外筋」)があり、「上腕二頭筋(エクスプレス)」に対する「ローカル」として【ディープフロントアームライン(DFAL)】に関与しています。

特に、姿勢筋(ポジションを維持する)作用は、「エクスプレス」よりも「ローカル」に依存しているので、筋膜リリースなどのアプローチをする際には合わせて意識する必要があります。

また、「上腕二頭筋短頭」と「回外筋」は「橈骨」に付着しますが、この「橈骨」付着部には反対の作用をする「回内筋」も付着し、「回外筋」「回内筋」は橈骨上で「V字」を形成します。

この2つの回旋筋の遠位端深層にある筋膜は「橈骨」や「尺骨」の骨膜および「橈骨」と「尺骨」をつなぐ骨間膜とも密接に結合していて、解剖でも剥離が非常に困難です。

この結合は、特に人類が二本足歩行を獲得する前(四本足動物として)に腕で体重を支える時に安定性を高めるために非常に重要だった機能構造で、プッシュアップやプランクなどのエクササイズをする時の腕の安定(DBALとDFALの連携)に貢献しています。

スーパーフィシャルフロントアームライン(SFAL)

【スーパーフィシャルフロントアームライン(SFAL)】は、「大胸筋」および「広背筋」の付着部から腕の前面表層を経由して「手指掌側面」までつながる筋膜のつながりです。

 筋膜および筋肉
鎖骨の内側1/3
肋軟骨
下位肋骨
胸腰筋膜
腸骨稜
1 
 2大胸筋
広背筋
上腕骨内側3 
 4内側筋間中隔
上腕骨内側上顆5 
 6手根屈筋群
 7手根管
手指掌側面8 

ディープバックアームライン(DBAL)

【ディープバックアームライン(DBAL)】は、「僧帽筋」深層にある「菱形筋」および「肩甲挙筋」から肩関節安定に大きく貢献する「ローテーターカフ(回旋筋腱板)」から始まり、腕の後面を下降して「小指外側」までつながる筋膜のつながりです。

 筋膜および筋肉
下部頸椎〜上部胸椎棘突起
C1-C4横突起
1 
 2菱形筋
肩甲挙筋
肩甲骨内側縁3 
 4ローテーターカフ(回旋筋腱板)
上腕骨頭5 
 6上腕三頭筋
尺骨肘頭7 
 8尺骨骨膜周辺の筋膜
尺骨茎状突起9 
 10尺側側副靭帯
三角骨
有鈎骨
11 
 12小指球筋群
小指外側13 

スーパーフィシャルバックアームライン(SBAL)

【スーパーフィシャルバックアームライン(SBAL)】は、「僧帽筋」から始まる背面表層の筋膜のつながりです。

 筋膜および筋肉
後頭骨隆起・項靭帯・胸椎棘突起1 
 2僧帽筋
上腕骨三角筋粗面3 
 4外側筋間中隔
上腕骨外側顆5 
 6手根伸筋群
手指背側面7 

【アームライン(AL)】機能と特徴

【アームライン(AL)】は、体幹軸に腕を付属させるような解剖学構造になっていますが、機能面では体幹や下肢とのつながりを考慮してみていく必要があります。

姿勢機能

上肢(腕)は、解剖学的には体幹軸に「付随」する構造なので【アームライン(AL)】が直接的な姿勢軸にはなりませんが、腕の重さや体幹や下肢と筋膜連結により姿勢に影響を与えています。

【アームライン(AL)】に起因する典型的な姿勢不良パターンは、主に肩関節の問題から始まり、腕や手の関節にも影響を与えますし、肩関節複合体(肩甲帯)には胸郭(体幹)も含まれるため、胸郭部の不良姿勢が【アームライン(AL)】に影響を与えている場合も多くあります。

そのため、体幹軸や基本姿勢に影響する筋膜のつながりである「スパイラルライン(SPL:らせん線)」や「ディープフロントライン(DFL:深前線)」などと一緒に機能を評価する必要があります。

例えば、運転、パソコン仕事、勉強などの机上作業で「肩こり」や「腰痛」を感じる人が多いですが、腕の緊張だから背中中部に直接的に影響し、「肩こり」や「腰痛」を引き起こす不良姿勢や「胸郭や頸部の圧迫による呼吸不全にもつながります。

運動機能

私たちは、普段のあらゆる日常生活活動やスポーツにおいて上肢(腕や手)を目と協調しながら使っていますので、【アームライン(AL)】の運動機能を評価するには「視線」の動きも同時に評価する必要があります。

安定した姿勢(体幹や下肢)を前提として行うパソコン仕事や勉強など机上作業や食事などの日常生活動作はもちろん、体幹や脚の力(「LL:外側線」「SPL:ラセン線」「FL:機能線」などとのつながり)を使って物を押したり、引いたり、持ち上げたり、安定させたり、位置を調整させたりする活動でも【アームライン(AL)】は機能していて、腕立て伏せやヨガの逆転のポーズ、懸垂やぶら下がりなどで体重を支えるときにも重要な役割をします。

【アームライン(AL)】の過用や誤用により過剰な負荷が加えられ続けると、「手根管症候群」「肘関節や肩関節でのインピンジメント」「慢性的な筋肉の痛み」につながり、これらの損傷は近位部よりも遠位部から生じやすい傾向があります。

【アームライン(AL)】を意識したトレーニングやエクササイズ

【アームライン(AL)】を意識することで、機能的でパフォーマンスの高い姿勢を維持できるようになります。

問題点を明確にして、適切な筋膜リリース、ストレッチ、筋力トレーニングをしましょう。

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