筋膜の機能的なつながりである「アナトミートレイン」のうち、アームラインや下肢(脚と足)を体幹をつなぐように走行して運動のパフォーマンスアップに機能する【FL(ファンクショナルライン:機能線)】についてイラスト図解を用いてわかりやすく解説します。
目次
【アナトミートレイン】とは?
【アナトミートレイン(Aatomy Trains)】とは、Thomas Myers氏が開発した全身の筋膜のつながりを示すマッピングのことです。
筋膜の機能的なつながり【アナトミートレイン】を理解していると、肩こりや腰痛などの身体の不調の解消や運動パフォーマンスや姿勢改善に役立ちます。
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【FL(ファンクショナルライン:機能線)】とは?
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】は、「機能」線という名前の通り、特定の「機能(運動パフォーマンス)」において重要な役割をする筋膜ラインで、スポーツやアスリートの動作における動作の安定やバランス、外力への対応などにおいても重要な役割をします。
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】が体幹と腕(手)や脚(足)を連結させることで、体幹の運動と筋肉組織による推進力を腕(手)や脚(足)に伝達して強度を高めつつ、反対側では安定を維持することができます。
例えば、右での槍投げや野球のピッチングでは、左脚から腰を経由してためたパワーを右腕へ伝達して右腕からパワーとスピードを込めたボールや槍が放出されますが、このような時に【FL(ファンクショナルライン:機能線)】を意識できるとパフォーマンスが大きく変わります。
日本語では「機能線」と訳されていて、英語名の頭文字をとった「FL」も使われています。
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】経由地点(骨)と筋膜のつながり
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】は、アームライン(胸郭・肩・腕)を延長するように、体幹を横切って反対側の骨盤や脚まで(またはその逆に)つながる構造になっていて、機能および走行により以下の3ラインに分解できます。
名称 | 特徴 |
---|---|
後機能線(BFL) | 体幹後面でクロス(X)を作る |
前機能線(FFL) | 体幹前面でクロス(X)を作る |
同側機能線(IFL) | 肩から同側の膝内側をつなぐ |
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】の種類(分類)ごとに具体的な経由地点と走行をみていきましょう。
①後機能線(BFL)
「機能線(ファンクショナルライン:FL)」のうち、腕(アームライン)から体幹背面を走行するラインを【後機能線(バックファンクショナルライン:BFL)】と呼びます。
【後機能線(バックファンクショナルライン:BFL)】は、解剖学構造の観点では「広背筋」の停止部である上腕骨骨幹部から始まりますが、機能的には「AL(アームライン)」からつながっていると考えます。
骨 | 筋膜および筋肉 | |
---|---|---|
上腕骨骨幹部 | 1 | |
2 | 広背筋 | |
3 | 腰背筋膜 | |
4 | 仙骨筋膜 | |
仙骨 | 5 | |
6 | 大臀筋 | |
大腿骨骨幹部 | 7 | |
8 | 外側広筋 | |
膝蓋骨 | 9 | |
10 | 膝蓋下腱 | |
脛骨粗面 | 11 |
アームラインから連続する【後機能線(バックファンクショナルライン:BFL)】は、「上腕骨骨幹部」から「広背筋」に沿って下降して「仙腰筋膜」表層部分と結合した「腰仙関節」のあたりで正中線を横切り、「仙骨筋膜」を経由して反対側の「大臀筋」下部繊維(仙骨および仙結節)につながります。
「大臀筋」下部繊維は、「腸脛靭帯(ITT)」後縁(つまり「外側線(LL:ラテラルライン)」)深層を通過して大腿骨骨幹部外側縁1/3あたり(大臀筋粗面)に停止します。
「大腿骨外側面」では「大腿四頭筋」の一部である「外側広筋」筋膜とつながりがあるため、同じ方向に進み、「膝蓋骨」と「膝蓋下腱」を介して「脛骨粗面」に達します。
理論上【後機能線(バックファンクショナルライン:BFL)】は「脛骨粗面」にて途切れますが、機能的には脛骨粗面からは「SFL(スーパーフィシャルフロントライン)」のつながり、「前脛骨筋」と「前脛骨筋筋膜」を介して足の内側アーチまでつながった機能ラインとして作用します。
②前機能線(FFL)
「機能線(ファンクショナルライン:FL)」のうち、腕から体幹前面を走行するラインを【前機能線(フロントファンクショナルライン:FFL)】と呼びます。
【前機能線(フロントファンクショナルライン:FFL)】は、「大胸筋」付着部である「上腕骨骨幹部」から「大胸筋下端繊維」に沿って第5肋骨と第6肋軟骨までつながります。
「小胸筋」を含む「胸筋膜」も第5肋骨に付着していますので、機能的に【前機能線(フロントファンクショナルライン:FFL)】は「アームライン(SFALおよびDFAL)」の延長とみなします。
骨 | 筋膜および筋肉 | |
---|---|---|
上腕骨骨幹部 | 1 | |
2 | 大胸筋下縁 | |
第5肋骨と第6肋軟骨 | 3 | |
4 | 腹直筋外側鞘 | |
恥骨結節と恥骨結合 | 5 | |
6 | 長内転筋 | |
大腿骨粗線 | 7 |
胸筋繊維は「外腹斜筋」や「腹直筋」を包む腹部腱膜と筋膜(半月線)でつながり、「腹直筋外側縁」および「腹斜筋筋膜の内側縁」に沿って下降して恥骨に達します。
その後、恥骨および恥骨結合の繊維軟骨を通過して反対側の「長内転筋」腱につながり、下外後方へ走行して「大腿骨粗線外側」に停止します。
「大腿骨粗線」からは「大腿二頭筋短頭」が接続しているので、機能的に「スパイラルライン(ラセン線)」の外側下腿コンパートメント(腓骨筋群)につながりますが、「大内転筋」で筋膜のつながりは遮断されているので、アナトミートレインとしての【前機能線(フロントファンクショナルライン:FFL)】は「大腿骨粗線」で途切れます。
③同側機能線
「機能線(ファンクショナルライン:FL)」のうち、肩から身体の外側を通って同じ側の膝内側までをつなぐラインを【同側機能線(イプシラテラルファンクショナルライン:IFL)】と呼びます。
他の2つの機能性が体幹を経由したクロス構造になっているのに対し、【同側機能線(イプシラテラルファンクショナルライン:IFL)】は同側を下降します。
骨 | 筋膜および筋肉 | |
---|---|---|
上腕骨骨幹部 | 1 | |
2 | 広背筋外側縁 | |
第10-12肋骨端 | 3 | |
4 | 外腹斜筋 | |
上前腸骨棘 | 5 | |
6 | 縫工筋 | |
鵞足・脛骨内側顆 | 7 |
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【FL(ファンクショナルライン:機能線)】機能と特徴
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】は、名前の通り運動「機能面」で効率よく大きな力を発揮することに特化したラインで、他のアナトミートレインのように静止立位保持への影響はほとんどありません。
言葉を変えると、静止立位保持に作用するアナトミートレインが正常に機能していることが、【FL(ファンクショナルライン:機能線)】を生かす前提になっています。
運動時の姿勢調整機能
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】は静止姿勢保持には直接的に作用していませんが、運動において対側とのバランスを取りながら特定の姿勢を維持調整するために重要な働きをしています。
特に、「野球の投球」や「テニスのバックハンド」など、腕や脚が体幹をクロスするように全身を連携して使う場面では、姿勢安定にも大きな役割を果たしています。
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】の機能問題で不良姿勢(静止姿勢でのアンバランス)が生じると、片側の肩が反対側の股関節に近づくような姿勢になります。
ただし、静止姿勢変化には他の姿勢保持に作用するライン(「スパイラルライン(SPL:ラセン線)」「ラテラルライン(LL:外側線)」「ディープフロントライン(DFL:深前線)」など主要な姿勢保持の筋膜ラインの方がより直接的に姿勢保持関与しているため、それらのラインが整っていれば、【FL(ファンクショナルライン:機能線)】による不良姿勢は生じにくく、生じても自然と改善します。
運動機能
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】は、スポーツなど大きな動きや筋力を発揮する場面で、安定性を高めたり、拮抗力となったり、身体の反対側からパワーを集約する必要がある時によく働きます。
身体を横切って反対側の四肢とつなぐことでレバーを長くできるため、「床を踏み込む力を上肢に伝える野球の投球」「腕の重さを使ったキック」「骨盤の動きによるテニスのバックハンド」などの運動における精度やパワーを高めたりするときに活躍しています。
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】は構造上、腕の動きに対して常にラセン(クロス)で作用しますので、「スパイラルライン(SPL:ラセン線)」の追加機能、または「AL:アームライン」の体幹への延長として機能しているとも解釈できます。
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】の典型的運動パターンは、「利き手側やスポーツなどの特定の動きによる回旋で、片側の肩が反対側の股関節に近づくような動き」や「ヨガポーズや頭上での作業など上肢を体幹に安定させる必要がある姿勢」などで、負荷を下部に伝達したり、上肢を安定させるサポート基盤を整えて上向きの安定性を提供します。
また、サッカーのキックなど、下腿を使った動きの安定性やバランスなどでも同様の原理で作用します。
もちろん、スポーツの特殊な動きだけでなく、普段何気なく行っている歩行時の肩と対側股関節とのバランスにも貢献しています。
実際の運動において張力が発生しているラインは常に変化していて、例えば投球の前後では、投げる前の助走姿勢と投げた後の姿勢では、収縮するラインと伸張するラインが逆転しています。
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】を意識したトレーニングやエクササイズ
【FL(ファンクショナルライン:機能線)】を意識することで、機能的でパフォーマンスの高い姿勢を維持できるようになります。
問題点を明確にして、適切な筋膜リリース、ストレッチ、筋力トレーニングをしましょう。
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