筋膜とアナトミートレイン

【スーパーフィシャルフロントライン(SFL:浅前線)】アナトミートレイン・イラスト図解解剖学②

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筋膜の機能的なつながりである「アナトミートレイン」のうち、足背から頭皮まで身前面を2本のラインでつなぐ【SFL(スーパーフィシャルフロントライン:浅前線)】についてイラスト図解を用いてわかりやすく解説します。

【アナトミートレイン】とは?

【アナトミートレイン(Aatomy Trains)】とは、Thomas Myers 氏が開発した全身の「筋膜」のつながりを示すマッピングのことです。

「筋膜」の機能的なつながりである【アナトミートレイン】を理解していると、「肩こり」や「腰痛」などの身体の不調の解消、運動パフォーマンスや姿勢改善に役立ちます。  

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【スーパーフィシャルフロントライン(SFL/浅前線)】とは?

【スーパーフィシャルフロントライン(SFL/浅前線)】とは、「つま先」から身体前面表層を上向して「頭蓋側面」まで至る「筋膜」のつながりです。

  • 頭皮筋膜
  • 胸鎖乳突筋
  • 胸郭
  • 腹直筋
  • 骨盤前側
  • 大腿直筋(大腿四頭筋)
  • 膝前側
  • 前脛骨部の筋肉群
  • 趾骨背面

【スーパーフィシャルフロントライン(SFL/浅前線)】は、「股関節伸展位(直立位)」でひとつの統合された「筋膜ライン」として機能しますが、厳密には「左右それぞれのつま先から骨盤まで」と「骨盤から頭部まで」と骨盤を介して二本のラインの連続になります。

SFL(浅前線)】経由地点(骨)

SFL(スーパーフィシャルフロントライン:浅前線)】はひとつの筋膜のつながりとして定義されていますが、「足背から骨盤まで」と「骨盤から頭皮まで」の2パーツに分かれ、「骨盤」以下は更に左右脚別々の2本に別れます。

つまり、「股関節伸展位」にて直立している時はひとつの連結したラインとなりますが、「股関節屈曲位」では「股関節」でつながりが途切れます。

 筋膜および筋肉
 15頭皮筋膜
乳様突起14 
 13胸鎖乳突筋
胸骨柄12 
 11胸骨
胸軟骨筋膜
第5肋骨10 
 9腹直筋
恥骨結節8 
下前腸骨棘7 
 6大腿直筋(大腿四頭筋)
膝蓋骨5 
 4膝蓋下腱
脛骨結節3 
 2前脛骨部の筋肉群
(趾伸筋群・第三腓骨筋・前脛骨筋)
趾骨背面1 

*筋膜は多くの骨格筋のように「骨」に直接付着しているのではなく、「骨」を覆う「骨膜」を経由して骨格構造に付着します。

【SFL(浅前線)】機能と特徴

身体前面表層を覆うように走行する【SFL(スーパーフィシャルフロントライン:浅前線)】には、二本足での直立姿勢を基本とする私たち人間の姿勢保持や運動を円滑にするための様々な機能があります。

直立姿勢保持(他筋膜ラインとの連携)

【SFL(スーパーフィシャルフロントライン:浅前線)】は「SBL(浅後線)」や「DFL(深前線)」と協調して作用することで、矢状面での姿勢バランス (A–P balance) :直立姿勢保持をサポートしています。

具体的には、重心線前方にある骨格(恥骨・胸郭・顔)を持ち上げたり、膝伸展位を維持する役割があります。

【SFL(スーパーフィシャルフロントライン:浅前線)】は足背つま先から始まるため、「全てがつながっている」という「筋膜」の原則からすると「つま先を介してSBLとつながっている」ことになりますが、【SFL(浅前線)】と抗重力筋が集まる「SBL(浅後線)」は互いに拮抗して作用することで、矢状面での直立姿勢バランス (A–P balance) が保持されます。

このバランス保持機能を筋肉の収縮の連鎖というよりも筋膜面のつながりとして見ると、ほとんどケースで「SBL(浅後線)」が背面を足先から頭頂へ引き上げる構造になっているのに対し、【SFL(浅前線)】は首から「骨盤」へ引き下げるような構造になっています。

いわゆる猫背姿勢に代表される不良姿勢は、「SBL(浅後線)」と【SFL(浅前線)】のアンバランスにより前後の対応する部位が水平面で一致しないために生じます。

また、直立位姿勢保持の観点での足部において、【SFL(浅前線)】は「下腿骨(脛骨と腓骨)」が後方へ移動しすぎないように抑制し、逆に「SBL」は前方へ行きすぎないように抑制しています。

身体前面に集中する重要器官の保護

直立位での二本足歩行を基本とする私たち人間は、4本足歩行をする動物が他者に見せないように隠している部分(顔、喉、胸郭、お腹(消化器)、鼠蹊部、生殖器など生命維持や様々な活動に欠かせない器官)を身体の前面に集中させたまま露出しています。

【SFL(スーパーフィシャルフロントライン:浅前線)】は、重要な器官が集まる身体の前面表層を覆うように走行するラインであり、緊張を維持することでこれらの臓器を保護するという役割もあります。

特に腹腔周りには骨による保護構造がないため、「お腹が痛いと自然と身体を丸めようとする」ように、消化器官や生殖器など重要な臓器を守り保護するために【SFL(浅前線)】連動して作用します。

多様な関節運動

【SFL(スーパーフィシャルフロントライン:浅前線)】全体としての運動機能は、「体幹屈曲」「股関節屈曲」「膝関節伸展」「足関節背屈」で、頸部では複雑で多様な頸部運動に作用します。

【SFL(スーパーフィシャルフロントライン:浅前線)】屈曲作用は身体の防御機能でもあるため、【SFL(浅前線)】を構成する筋肉は急激な収縮にも対応できるように速筋繊維が多く含まれる傾向にあります。

耐久性を重視する「SBL(浅後線)」に対して拮抗する位置にあるため、一方が収縮している時は、もう片方がストレッチされているという関係になります。

「足関節背屈」+「膝伸展」+「股関節屈曲」するいわゆる前屈ストレッチや前屈系のヨガポーズでは、【SFL(浅前線)】を収縮させて「SBL(浅後線)」をストレッチしています。

反対にブリッジや後屈系のヨガポーズでは、「SBL(浅後線)」を収縮させて、【SFL(浅前線)】をストレッチしています。

【SFL(浅前線)】代償姿勢や動作

【SFL(浅前線)】は主に矢状面での姿勢や動きを制御するラインなので、【SFL(浅前線)】機能に問題があれば基本的に「屈曲または伸展制限」が生じます。

【SFL(浅前線)】機能障害の例
  • 足首底屈制限
  • 膝の過伸展
  • 骨盤前傾
  • 骨盤前方移動
  • 呼吸における肋骨前面の制限
  • 頭が前に出る

例えば「腹直筋」の作用で見ると、「骨盤を胸郭に向かって引き寄せるように作用」するのではなく、「胸郭が骨盤に引き寄せるように作用する」などのように、筋肉付着部のうちより下部にある方により上位にある骨が引き寄せられるような筋収縮になります。

全体的な【SFL(浅前線)】の問題、つまり「SBL(浅後線)」とのアンバランスは、身体を真横から観察することで明らかになります。

また、ラインの性質上、「頸部」や「股関節以下」で左右差も出やすい構造ので、左右それぞれ横から確認しましょう。

【SFL(浅前線)】注目ポイント

【SFL(浅前線)】構造を要素ごとに重要なポイントを整理します。

起点:つま先から足首まで

【SFL(浅前線)】は「足趾背面先端の腱」から始まります。

【SFL(浅前線)】には、足部内在筋および下腿から5本の足趾へ走行する「足趾伸筋腱」を主体として、足部背屈に作用する外側の筋群(第5中足骨に停止する「第三腓骨筋」)と内側の筋群(第1中足骨に停止する「前脛骨筋」)を含めた合計7本の腱が含まれます。

足首から下腿前面経由で膝まで

足趾背面先端の腱から始まった【SFL(浅前線)】は、「伸筋支帯」の下を通過して前脛部(スネ)を膝に向かって上行します。

【SFL(浅前線)】には脛骨および脛骨の骨膜、脛骨外側の筋肉群である「前脛骨筋」や「長母趾屈筋」も含むため、骨間膜より表層にある下腿前面の組織はほぼ【SFL(浅前線)】に含まれることになり、下腿前面から【SFL(浅前線)】を取り除くとほとんど組織が残りません。

下腿前面で一番大きな力を発揮する筋肉は「前脛骨筋」で、下腿前面の筋肉群の主な作用は「足関節背屈(底屈抑制)」です。

「伸筋支帯」は下腿筋膜表層の肥厚部のようなもので、「足部と下腿の間でほぼ直角に曲がって上行する腱が関節運動の度に皮膚を押し上げないように固定させる役割」「腱を包み込む潤滑組織によって趾伸筋腱を固定しながらも、下腿前面の筋肉の作用をつま先に直接伝える滑車の役割」があります。

そのため、足首から下腿前面への筋膜の流れにおいては、角度のある構造と「伸筋支帯」による圧迫が運動や姿勢の制限に大きく影響します。

例えば「膝が足首より前に出る前傾姿勢になっている」場合、ふくらはぎの筋肉は引く伸ばされた状態で固定されて硬く凝り、「スネ(前脛部)の筋肉」は求心性収縮により短縮したまま固定して硬く凝っています。

これ解消するには、下腿前面の筋肉の短縮をリリースして【SFL(浅前線)】を引き上げる(相対的にSBLを引き下げる)必要がありますが、下腿前面のリリースは足の背屈運動に合わせて「伸筋支帯」や筋膜の流れに沿ってゆるい握り拳で圧をかけることで劇的な改善が見られます。

膝から骨盤まで

下腿前面を上行した【SFL(浅前線)】は、「脛骨結節」を経由して「膝蓋下腱」と「大腿四頭筋」につながって上行して「骨盤前面」に達します。

「下腿骨(脛骨・腓骨・骨間膜)」に付着している筋肉群から大腿前面にある「大腿四頭筋」へ「筋膜」の流れが移行する経由点(骨)は「脛骨結節」で、「脛骨結節」から「膝蓋下腱」と「大腿四頭筋」が【SFL(浅前線)】を引継ぎます。

「大腿直筋」の停止部には個人差があり、「上前腸骨棘(ASIS)」まで筋膜を伸ばしている人もいます。

「大腿四頭筋」とは、「大腿骨」を内側・中間・外側からカバーする3つの広筋(「内側広筋」「中間広筋」「外側広筋」)と最表層で「骨盤」まで走行する「大腿直筋」と4つの筋肉を含み、4つの筋肉が「膝蓋骨」を含む共同腱となって「脛骨」に付着していますので、運動機能的には「大腿四頭筋」全体がグループとして作用します。

ただし、「骨盤」まで「筋膜」をつなぐのは「大腿直筋」のみなので、【SFL(浅前線)】に含まれるのは厳密には「大腿四頭筋」のうちの「大腿直筋」のみになり、「大腿直筋」が「股関節」と「膝関節」両方に作用する2関節筋であることも重要なポイントです。

「大腿直筋」は太もも前面においては最表層を走行していますが、「骨盤」の付着部である「下前腸骨棘(上前腸骨棘のやや下内側)」では「大腿筋膜張筋」や「縫工筋」の深層にあり、股関節上部を包む重要な構成要素です。

また、【SFL(浅前線)】には「大腿四頭筋」膝伸展作用の効率を高める役割をしている最大の種子骨である「膝蓋骨」が含まれることで、膝関節支点から【SFL(浅前線)】を離して「大腿四頭筋」膝伸展作用の効率を高める機能も持っています。

【SFL(浅前線)】を意識したトレーニングやエクササイズ

【SFL(浅前線)】を意識することで、機能的でパフォーマンスの高い姿勢を維持できるようになります。

問題点を明確にして、適切な筋膜リリース、ストレッチ、筋力トレーニングをしましょう。

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