【病は気(心持ち)から】と昔から言われていますが、心も身体は物理的(医学的)にも密接な関連があります。
統合失調症やうつ病など心の病とも呼ばれる精神疾患の原因や身体機能への影響、正しい向き合い方(対策)についてまとめました。
精神疾患(心の病・精神病)とは?
「精神疾患(こころの病気)」は心の病と言われることもありますが、脳の正常な働きが何らかの原因によって制限されたり障害されたることで、感情や行動などに特徴的な症状が出て日常生活や社会生活が困難になる状態のことです。
代表的な病名に、「統合失調症」「うつ病」「双極性障害(躁うつ病)」などがあり、感情のコントロールや行動につながる脳機能の制御が正常に行えなっているため、運動麻痺や運動障害がなくても日常生活や社会生活がとても困難になることが特徴です。
精神疾患(精神障害)の原因
精神病の原因は大きく以下の3種類に分類できます。
目的 | 具体な求める変化 |
---|---|
①外因性精神疾患 | 脳挫傷・感染症・薬物など明らかな外的要因によって脳神経の働きが阻害されて症状が出るもの |
②心因性精神疾患 | 心理的なストレスが特定できる原因があり、ストレス障害や適応障害などの症状が出るもの |
③内因性精神疾患 | 統合失調症、気分障害(うつ病、双極性障害)など明確に原因が特定できないが特有の症状を呈するもの |
狭義には、「内因性精神疾患」だけを指して精神疾患や精神障害と定義する場合もあります。
精神疾患症状
「精神疾患」の症状は、異常な言動や感情が出現する「陽性症状」と本来あるべき言動や感情が出なくなる「陰性症状」に大きく分類できます。
「統合失調症」の場合は、思考・行動・感情などを目的に応じて「統合」する脳の働きに不具合が生じる病気で、初期には「陽性症状」が強く表れますが、その後うつ病のように無気力になる「陰性症状」が長く続く特徴があります。
種類 | 症状 |
---|---|
陽性症状 本来あるべきでないものが表に現れる状態 | 幻覚 妄想 思考や行動の異常 |
陰性症状 本来あるべきものが見られない状態 | 感情、意欲、興味関心の低下 社会交流や会話の低下 |
「統合失調症」の症状には、脳内で働く神経伝達物質であるドーパミンとセロトニンが関与していると言われて、本来私たちに備わっているコントロール機能が正常に作用していません。
通常、私たちは一時的にものすごく興奮してモチベーションが上がっても時間が経つといつも通り戻ったり、逆にすごく落ち込んだりしても翌日にはスッキリして気持ちが回復したりしますが、これは常に一定の状態を保とうとする機能(恒常性)を持っているからです。
この仕組みは、意欲・集中力などに関与するいわば「やる気スイッチ」であるドーパミンと、情緒・安心感などに関与するいわば「安全スイッチ」であるセロトニンが相互に抑制してバランスをとるように働いていることで成り立ちます。
「統合失調症」の陽性症状が出ているときは中脳辺縁系でドパミンが過剰な状態ですが、中脳皮質系ではドパミンが低下している部位もあり陰性症状の原因となっていると言われています。
「統合失調症」の対処療法として、ドパミンやセロトニンの阻害薬などを使った症状コントロールをしますが、根本解決は難しく、リハビリや心理的ケアを経て社会復帰するまでには長期間を要します。
心の病が発するSOS(心と身体の変化)
「心(ココロ)と身体(カラダ)はつながっている」という概念はヨガやマインドフルネスなどの人気もあって広く浸透してきていますが、アメリカの伝説的名医と言われたジョン・A・シンドラー博士も以下のように心と身体のつながりについて述べています。
「身体の病気の50%は心因性のものである」
「心(ココロ)と身体(カラダ)はつながっている」から、心(ココロ)と身体(カラダ)は切り離して考えることはできません。
それは、身体の仕組みを物理的(医学的)に紐解いていっても非常に納得できる事実で、心の辛さは気合いや根性などの精神論では解決しませんし、症状が出ている身体の部分だけ診ていても解決しません。
例えば、先ほど例に挙げた「統合失調症」では、発症前に以下のような兆候(SOS)が出ています。
概要 | 具体な変化 |
---|---|
①睡眠パターンの変化 | 不眠、昼夜逆転など |
②頻回な身体症状の訴え | 頭痛、腹痛など |
③性格や行動の変化 | 周りが違和感を覚えるほど、性格、会話、行動が変化している |
④パフォーマンス低下 | 仕事や勉強に集中できず、成績が目に見えて下がる |
⑤好みの変化 | 抽象的なテーマを好むようになる |
ここで注目して欲しいのは、「統合失調症」のSOSは、一時的な疲労やストレスや生活習慣の乱れなどが原因で誰にでも起こりうる変化であるということです。
例えば、「キレる」など理性を超えた短絡的な行動、幻聴や幻覚などは、脳のエネルギー不足(つまり食事がおろそかになる)だけでも起こりえますし、慢性的なエネルギー不足が原因で意欲低下や能力低下も起こりえます。
これらの状態を自分、または周りが気づいて早期に生活習慣の改善やストレスを緩和する環境調整などをしていれば「精神疾患」にまではならない可能性が高く、心の生活習慣病ともいえる精神疾患も早期発見と早期対処が重要です。
心と身体は絶対に間違えない
ストレスの多い現代社会では、誰もが「こころ」に悩みを抱えていますし、自分ではどうにもコントロールできない状態(精神疾患)になってしまうリスクを抱えています。
ただ、負担が大きすぎて正常に機能できなくなった心と身体は、SOSを送っていますので、そのサインをちゃんと受け止め、生活を変えていくことがとても重要です。
新潟大学医学部名誉教授であり、免疫学の世界的権威でもある安保徹先生の著書:「疲れない体をつくる免疫力」の中にこんな名言があります。
カラダは間違えない。
間違っているのは「生き方」のほう。
SOSを送っている、不調を出しているあなたの身体自体は間違っていない。
間違っているのは、無理をし過ぎたり、不自然な状態を強いたり、サプリメントや薬を多用して身体を過剰な負担をかける一方で本来ある機能を怠けさせていたりしているあなたの生き方(生活習慣)の方です。
本来あるべき状態から逸脱した環境が続くと身体は正直に反応し、体調不良というSOSを出していますので、体調不良を放置して生活を改善しないと、病気になり、病気を放置すると死ぬ可能性もあります。
一方、身体の仕組みを正しく知り、身体の声にちゃんと耳を傾けて柔軟に自分の生活を変えられるようになれば、健康で楽しい豊かな人生が送れるようになります。
健康な肉体には健全な精神が宿る
心と身体は密接に連携しているという前提(「こころ」も「からだ」も脳がコントロールしている)を理解すると、現代社会特有の様々な問題を解消する方法やより穏やかな気持ちで豊かな人生を生きるヒントも見えてきます。
時代に合わせてひとりひとりが適切な健康管理ができるように医学に対する常識を変えたいという強い思いがあって『わたしがわたしのお医者さん』を運営していますが、習慣や常識を変えるというのは正直とても大変なことで不屈の精神が必要だと日々実感しています。
そんな時、ふと、「不屈の精神」って英語でなんていうのかな?と疑問がわいて調べていたら、インド独立の父、マハトマガンジーさんのすごい言葉に出会ってしまいました。
“Strength does not come from physical capacity. It comes from an indomitable will.” – Mahatma Gandhi
日本語訳:強さは身体的能力によるものではなく、不屈の意志(精神)によるものだ。
世界を変えるのは、変えてきたのはいつも不屈の意志(精神)からであることは歴史を振り返ってみても間違いのない事実。
そう考えていたら医学的に考えた時の心と身体のつながりが妙に腑に落ちてきました。
人間のこころと身体、どちらも制御しているのは脳と神経です。
心は脳の働きであり、すべての運動を制御するのも脳です。
健康な肉体には健全な精神が宿ると昔から言われていますが、健康で本来あるべき姿の肉体であれば、身体の機能が正常に働いているため、あらゆるストレスに強くもなりますし、気持ちの余裕も頑張る意欲もやり続ける行動力も出てきます。
もちろんけんかが強くなるとか、筋力増強するとかいう意味での身体の強さではなく、健康である身体にこそ本当の強さといえる精神が宿るのでないかと思います。
自分の身体と向き合う時間を作ろう!
どんどん忙しくなる現代の生活、めまぐるしく進化していく産業や技術、どれが正しいのかわからなくなるほど大量に溢れる情報の中、頑張り屋のあなたはきっと自分の身体のことなど省みず、一生懸命仕事や勉学に励んでいると思います。
「この位なら大丈夫」と自分に鞭を打ちながら。
でも、その結果あなたの身体がどんどん蝕ままれているとしたら、気がついた頃には取り返しのつかない重病になってしまっていたとしたら、大切な家族や仲間を失うことになってしまったとしたら、なんの為に今まで頑張ったのかと後悔することになります。
健康であればなんでもできますが、健康を失ってしまったら社会生活は大きく制限されてしまいます。
自分の人生の最初から最後まで100%関わり続けるものは、自分の身体以外には何もないのに、自分の身体について正しく知ろうとしないのは人生を豊かに楽しくすることを放棄しているのと同じです。
どんなに頑張り屋のあなたでも対処できるストレスには限度があり、無理が続けば身体は正直にSOSを出していますので、「身体は絶対に間違えない」という前提を持って、自分の身体に向きあう時間を取ることを強くおすすめします。
人間の身体が本来あるべき姿でいられるように、安定した綺麗なエネルギー源を脳に送るためにバランスの良い食事をし、姿勢を整え、睡眠をしっかり取り、脳と神経の働きを含めて全身のバランスをとることに普段から意識を向けるようにしてみましょう。
心と身体はつながっているので、自分の身体の仕組みを理解し、普段から自分の身体を労る気持ちを持つだけでも精神病のリスクは大きく減らせます。
また、自分の身体と向き合う時間を作ることは心の健康状態を高める上でも非常に効果的なので、この習慣を作ることで心も身体もどんどん健康になっていくという好循環が作れます。
特に、朝起きてから「自分のためだけに使う」時間をあえて確保して、自分の体に向き合ってマッサージをするなど、「自分を満たす運動」を取り入れることで、気持ちに余裕が生まれ、自分を心地よい状態に保つことができます。
1日の「入」の時間に気分よくすごすことができれば、日中何が起こっても短時間でグッドコンディションに戻しやすくなりますし、脳科学的な観点から見ても「運動」は最高の「やる気スイッチ」になります。
大脳基底核にある「側坐核(そくざかく)」と呼ばれる神経核は、「体を動かす」ことによって刺激されて快感のホルモンで行動の動機付けを促す快感のホルモンであるドーパミンを分泌します。
「側坐核(そくざかく)」は、前頭前野のすぐ後ろの奥の大脳基底核にある神経核で、前頭前野、大脳辺縁系、大脳基底核と緊密な神経連絡しているため、気持ちをポジティブな方向へ変える効果もあります。
ストレスが強すぎることで側坐核が機能障害を起こせば、そのコントロールにより前頭前野が萎縮して、あらゆる行動がおっくうになりますが、実際、うつ病ではこのドーパミンが減っていることがわかっています。
運動がなかなか始められないという人は、簡単なことや自分の好きなこと、心地よいと思うことからでいいので、自分の身体に目を向けて、体を動かす習慣を身につけましょう。
気分がいいときは物事のプラスの面が見えやすくなり、気分が悪いときは物事のマイナスの面が見えやすくなる「気分一致効果」がありますので、何かを始めたり、頑張ったり、続けたりするときに、ダメなところを直そうとするとどうしても続けられませんので、ひとつでも好きな部分を見つけて、その自分をもっとよくしようと変化を楽しむようにしましょう。