脳と神経

「神経構造」「神経伝達の仕組み」「神経路(感覚・運動・反射)」「神経障害の分類と種類」まとめ

人体はコントロールセンターである「脳(神経の集合体)」と身体パーツをつなぐ神経経路による巨大なネットワークシステムのようなもの。

人体の連絡網である神経を細胞レベルまで分解し、神経伝達を理解する上で重要な「ニューロン」「シナプス」「神経伝達物質」「主要神経路」「反射機能」「神経障害の種類や分類」について整理して説明します。

「神経」情報伝達の仕組み

情報の伝達(報・連・相)は、仕事においても人間関係においても重要なものですが、人体の生命維持やあらゆる活動にも必要不可欠です。

人体は、脳を司令塔として複数の機能(臓器や器官などの役割)が相互に協力し合うことによって正常な状態を保っていて、内外部から得られた刺激や変化などの情報は脳に集まり、脳で処理統合されてから、必要な器官への指令が伝達されます。

人体において情報伝達の役割担うのが「神経」で、複数の神経細胞が中継しながら情報を伝達していく様は、郵便局や配達やさんのようなイメージです。

人体では複数の神経経路があり、常に情報伝達を行っています。

「神経細胞」解剖学構造

神経は「中枢神経系」と「末梢神経系」に分類されますが、いずれも構成要素になるものは神経細胞で、「中枢神経(脳と脊髄)」は「運動・知覚・知能・感情などの神経で伝達される情報が集まる中枢」として機能する神経細胞の塊です。

神経の構成をマクロな細胞単位でみると情報伝達を行う神経細胞と神経細胞を支えるグリア細胞により成り立っています。

種類特徴役割
神経細胞神経機能を司る神経伝達機能の主役
(細胞体 + 樹状突起 + 神経軸索)
運動の指令を出したり末梢からの知覚を認識する
グリア細胞
(神経膠細胞)
グリアとは「膠(にかわ)」の意味で神経細胞の約10倍の数がある
「星細胞(星状膠細胞)」「乏突起膠細胞」「上衣細胞」「小膠細胞(マイクログリア)」の4種類
グリア細胞からは多数の突起が出ている
灰白質(大脳皮質や大脳基底核など)の中で神経細胞や軸索を支えるように細胞間の隙間を埋めて神経細胞を構造的・機能的に支える
「星細胞(星状膠細胞)」は、神経細胞と血管の間に介在して神経細胞と血管の栄養や代謝物質のやりとりを仲介したり、関門(バリア)の役割も果たす

感覚器官が受け取った情報を脳に伝えたり、脳からの指令を末梢器官に伝達する「神経」の役割における主役である細胞が「神経細胞」で、脳の灰白質で神経細胞間の隙間を埋めて神経構造を支えているのが「グリア細胞」です。

「グリア細胞」のうち、「星細胞(星状膠細胞)」は、神経細胞と血管の間に介在して神経細胞と血管の栄養や代謝物質のやりとりを仲介したり、関門(バリア)の役割(神経細胞は直接血管に接することはないので、有害な物質が血管から直接神経細胞に入ることはない)もありますが、この仕組みは脳組織の中でもかなり独特で「血管脳関門」とも呼ばれています。

ちなみに、脳の神経細胞の数は生まれた時から決まっていて増えることはありません。

成長する(年齢を重ねる)毎に、できることが増えたり脳の重量が増えるのは、神経細胞から出ている樹状突起や神経軸索が伸展したり軸索を取り囲む髄鞘が増加するからです。

部位詳細
大脳皮質(灰白質)厚さ:約2.5mm
表面積:約2,000㎠
140億個の神経細胞
脳内の灰白質部分小脳皮質
大脳基底核
大脳髄質(白質)大脳や小脳の大部分を構成
神経細胞から出た神経軸索と軸索を取り巻く髄鞘からなる

ニューロン:神経伝達の細胞単位

人体では、情報となる電気信号を、隣にある神経細胞にバトンをするかのようにつないでいきますが、細胞体から出る多数の突起により構成される神経伝達を司る細胞単位を「ニューロン」と呼びます。

「ニューロン」は「多数の樹状突起(1~2ミクロンの小さな突起)」と「1本の長い神経軸索(一般的に神経線維と呼ばれる)」に分かれていて、「樹状突起」が他の神経細胞の細胞体や神経軸索と接触する部位となって「シナプス(神経細胞間での情報やりとり)」を行い、「神経軸索」は神経細胞で作られた情報(電気信号や神経伝達物質)を運ぶ役割をします。

部位特徴役割
樹状突起1~2ミクロンの小さな突起シナプス
(神経細胞間での情報やりとり)
神経軸索1本の長い繊維情報(電気信号や神経伝達物質)を運ぶ

情報を運ぶ「神経軸索」の中には無数の繊維(フィラメント)が縦軸方向に走行していて、電気信号や神経伝達物質を「神経終末部」に急速に輸送します。

細胞体が発電所とすれば、「神経軸索」は電気を送る電線のようなものなので、「神経軸索」が太ければ太い程神経の伝達速度は早くなり、訓練することでも神経伝達速度を上げることが可能です。

また、「神経軸索」には「髄鞘と呼ばれる鞘で取り囲まれたもの(有髄繊維)」と「髄鞘を持たないもの(無髄繊維)」があり、有髄繊維は「中枢神経」にも「末梢神経」にも存在します。

「髄鞘」は電線の周囲にまかれた絶縁テープのようなもので、有鞘繊維では髄鞘間に「ランビエの絞輪」と呼ばれる境目があるため絶縁テープが切れた状態になり、次のランビエの絞輪部まで電気がショートすることにより電気信号の伝導速度が早まります。

このように電気信号がピョンピョンと飛び跳ねながら伝わっていく様式を「跳躍伝導」といいますが、この「跳躍伝導」により有髄繊維は無髄神経より神経伝達速度が速くなります。

シナプス:神経細胞間での情報やりとり

「シナプス」とはニューロン同士の接合部構造のことで、「神経軸索」の末端である「神経終末」から他のニューロンに情報が伝達される方法は2種類あります。

種類仕組み
電気的伝達刺激神経細胞からの刺激がそのまま神経軸索や樹状突起を伝わっていく方法
科学的伝達刺激(情報)を科学的な物質(神経伝達物質)に変換して伝える方法

シナプス部には「シナプス間隙(かんげき)」と呼ばれるわずかな隙間があり、隙間があっても情報の受け渡しができる理由は「神経伝達物質」が介在して伝達をサポートしてくれるからです。

  • 神経伝達物質が神経細胞内で生成
  • 神経軸索内を輸送
  • 神経終末部のシナプス小胞に保存
  • 神経細胞から何か電気刺激が伝えられると神経伝達物質がシナプス間隙に放出
  • シナプスを形成している次のニューロンには、放出された神経伝達物質を受け入れるレセプターがあり、レセプターに神経伝達物質が取り込まれるとイオンチャンネルが開く
  • 次のニューロンに電気的な刺激が伝わっていく

神経伝達物質:シナプスのサポート

「神経伝達物質」とは、シナプス部での神経伝達をサポートする物質のことで、神経伝達物質が介在することでシナプス部に隙間があっても情報の受け渡しが可能になります。

神経伝達物質には、「アセチルコリン」「ドーパミン」「ノルアドレナリン」「γ―アミノ酪酸」などがあり、例えば、大脳の黒質や被蓋には「ドーパミン」をたくさん含んだ神経細胞が集まっていて、線条体(尾状核+被殻)にたくさんの神経線維を送り出し「ドーパミン」を輸送しています。

この働きによって神経伝達がスムースになり、手足が顔面などの運動を細かく調整することができているのですが、なんらかの原因でドーパミンが黒質で作られなくなったり、線条体への神経線維が破壊されたりして線条体に「ドーパミン」が送り込まれなくなると、筋肉の強直やふるえ(振戦)が起こったりするパーキンソン病が発症します。

神経とパフォーマンス

状況を正確に判断して瞬時に、かつ適切に行動するには、脳と神経を含めた全身の機能を高める必要があります。

神経細胞同士が「神経軸索」という伝達ケーブルを伸ばし、外界からの情報を伝言ゲームのように隣の神経細胞に情報を伝えることで私たちは必要な運動や活動を行う事ができますが、この繰り返し行われる神経伝達の精度の高さ、安定性、スピードによりパフォーマンスに差が出ます。

つまり、「パフォーマンスが高い」とか「運動神経が良い」とか言われている人は、脳を中心とする身体の神経伝達ネットワークが安定していて高速通信ができるということで、スポーツになどより高いパフォーマンスを求めて競いあう分野では、特にネットワークの速さと正確さが重要です。

一般的に神経の情報を伝える「神経軸索」が太ければ太いほど神経の伝達速度は速くなり、一度に伝えられる情報も多くなります。

自然界でも、捕食の為に素早く動く必要があったり、逆に生命を守るために機敏に外界の情報をキャッチして逃げる必要がある動物はとても太い神経線維を持っていて、動きがとても俊敏なヤリイカの「神経軸索」が直径1ミリもあるんだそうです。

人間の「神経軸索」の太さと伝達速度は以下の通りです。

分類直径スピード種類
15μ100m/s骨格筋運動線維
筋紡錘求心線維
50m/s皮膚触覚
皮膚圧覚
20m/s筋紡錘運動線維
15m/s皮膚温度感覚
皮膚痛覚
B7m/s交感神経節前線維
C0.5μ1m/s皮膚痛覚
交感神経

「骨格筋(随意的な運動を司る繊維)」や「皮膚の触覚」など日常生活でよく使う経路において、特に太く神経伝達速度が速いのがわかると思います。

「反射」仕組みと役割

神経と言えば「反射神経が良い」とか「反射的に逃げた」とか反射という言葉は日常生活でも使われます。

反射とは生体に与えられる刺激(痛み・摩擦・光など)を感受し、それに対応して生体が示す一定の反応のことで、「反射神経」という神経はなく、「反射神経が良い」とか「反射的に逃げた」などの意味で使う反射のように迅速な動きは、脳も含めより広範囲の神経経路が関わります。

正常の神経経路によって生じる反射は、例えば熱いものを触ったときに何も考えなくても瞬間的に手を引っ込めたり、食事のときに気道を塞いで食べ物が肺に入らないようにするなど、生命維持や危険回避機能として人間に備わっているものです。

吸啜反射や把握反射など赤ちゃんのときに必要でも成長と共に不要になれば自然に消失する反射もありますが、何らかの理由で反射の神経経路に障害が起こると、正常な反射の消失や亢進が起こったり、通常は起こり得ない異常反射が発生したりします。

反射のメカニズム

反射の経路を反射弓といいます。

反射中枢は脊髄にあって脳は経由しないため、反射反応は無意識に生じますが、脳まで情報を届けて統合する時間を省き、生体として必要な反応(防御反応や逃避反応など)を迅速に起こすための神経経路です。

  • 生体に刺激が与えられる
  • 感覚受容器が刺激を感知する
  • 刺激が求心性伝導路を伝わって反射中枢(脊髄)へ届く
  • 反射中枢から運動指令が遠心性伝導路を伝わって目的の筋肉へ送られる
  • 筋肉の収縮が生じて反射反応が起こる

反射の種類

反射には正常なものや成長に応じてなくなるもの、病的に生じるものなど様々です。

反射検査は比較的簡単に行えて意識にコントロールされない反応としてスクリーニングに有効なため、臨床でも反射を神経学的検査としてよく用いますが、正常の反射反応を理解しておくことで、反射検査による正確なスクリーニングができます。

深部腱反射

腱や骨膜などを刺激する事で筋肉が急激に伸長する反射(腱反射・骨膜反射など)が起こります。

一定の強さの反応がある場合が「正常」で、反射弓(末梢神経)に障害がある場合は反射の減弱または消失し、反射中枢(中枢神経)に障害がある場合は反射の亢進が亢進するので、スクリーニングにも効果的です。

深部腱反射中枢(脊髄前角細胞)は、錐体路からの運動ニューロンだけでなく、錐体外路系ニューロンともシナプスを形成しています。

表在性反射

皮膚や粘膜に触覚刺激を加えると、筋肉が反射的に収縮を起こす反応のことで、「角膜反射」や原始反射のひとつである「手掌反射」「腹壁反射」「足底反射」などがあります。

正常では普通にみられる表在性反射が減弱または消失し、さらに深部腱反射が亢進した場合は錐体路障害が考えられます。

病的反射

約10ヶ月までの乳児を除いて正常者ではみられない反射のことで、神経系の器質的障害で錐体路が障害されて出現する反射なので「錐体路性反射」とも呼ばれます。

顔面の病的反射の例としては、「マイヤーソン徴候(鼻根部を叩打するとまばたき出現:パーキンソン病でみられる)」や「口とがらし反射(上口唇外側部を叩打すると口輪筋の収縮により口がとがる)」があります。

上肢の病的反射の例としては、「ホフマン反射(中指を固定し先端を抑えて下方へ屈曲させた後、急激に放すと母指と他の指が屈曲する)」や「トレムナー反射(中指を固定し先端の腹を上方に跳ね上げると、母指と他の指が屈曲する)」などがあります。

下肢の病的反射の例としては「バビンスキー反射(外側足底を後方から前方へこすると、母趾が背屈(母趾現象)して、各足趾が解離する(開扇現象)」「チャドック反射(足の外果外側を弧状にこすると母趾背屈がみられる)」「シェーファー反射(アキレス腱を強くつまむと母趾背屈がみられる)」などがあります。

理的反射

「自律神経反射」「嚥下反射」などの生理的反射もあります。

「神経路(情報の伝達経路)」役割と種類

「神経路(情報の伝達経路)」とは身体に張り巡らされた「神経」でつなぐネット回線のようなもので、脳と皮膚・目・耳・筋肉・関節などの各末梢器官が常に神経路を通じて互いに連絡を取り合っているから感覚機能や運動機能が正常に働き、日常生活が問題なく送れます。

神経路には目的別にいくつかの種類があります。

種類詳細
遠心性繊維
(下行性)
身体の中心にある中枢神経から末梢へと情報を運ぶ運動神経
求心性繊維
(上行性)
末梢から中枢神経へ情報を運ぶ感覚(知覚)神経
投射性繊維
(上行性・下行性)
大脳皮質 ⇄ 下位脳部(大脳基底核・脳幹・小脳)や脊髄を連絡する経路
大脳皮質運動野から内包に至る皮質脊髄路
皮質延髄路
視床から大脳皮質知覚領野に至る感覚経路
連合繊維同側半球の皮質間を連絡する
大脳皮質の神経細胞同士を結びつける連合的・統合的な機能
前頭葉前部と後頭葉や側頭葉を結ぶ上縦束
交連繊維反対側半球の皮質間を連絡する繊維
情報交換して各半球の機能を十分生かす
左右の大脳半球を広くつなぐ脳梁

正常の神経路を理解しておくことで、障害や病状の理解にも役立ちます。

例えば、経路の交叉の前で障害された場合は傷害側と麻痺側は反対になりますが、脳卒中の際に右脳の傷害で左の手足に麻痺が出るのはこのような神経路の構造によるものです。

また、障害部位が「上位運動ニューロン」か「下位運動ニューロン」かによっても出てくる症状が全く違うので症状からの損傷部位も予測できます。

感覚を伝える求心性経路

「感覚を伝える求心性経路」は、皮膚や関節などの身体中にある感覚器官を通じて得た情報を脳に伝える経路のことで、末梢から中枢に向かう経路のため求心性(中心に向かう)経路と呼ばれます。

運動神経(遠心性経路)とは逆で、末梢の感覚受容器がある部位が第1次ニューロンとなります。

第1次ニューロン感覚受容器で感覚刺激を感知し脊髄の後根を通って脊髄内へ
第2次ニューロン脊髄後角:温度覚・痛覚
脊髄後策:位置覚・振動覚
第3次ニューロン視床を経由して大脳皮質知覚領野

皮膚からの「触圧覚」「温度覚」「痛覚」、筋肉や関節からの「深部感覚」のほか、「内臓感覚(便意、尿意、悪心、口渇感、飢餓感、満腹感、内臓痛など)」などが脳へ伝達されます。

痛覚と温度覚(温痛覚)の神経伝導路(外側脊髄視床路)

痛覚と温度覚は同じ経路ですが、四肢体幹と顔面で経路が異なります。

四肢体幹の温痛覚経路
第1次ニューロン温痛覚の受容器→脊髄神経節→後根→脊髄後角で第2次ニューロンとシナプスを形成
第2次ニューロン1~2髄節上行した後中心管の前方を通過し、白交連で交叉して反対側の脊髄側策前方を上行(外側脊髄視床路)して第3次ニューロンにシナプス
第3次ニューロン視床→大脳皮質知覚領野
顔面の温痛覚経路
第1次ニューロン温痛覚の受容器→三叉神経節神経細胞→橋(2次ニューロンにシナプス)
第2次ニューロン三叉神経脊髄路核(延髄)で交叉し第3次ニューロンにシナプス
第3次ニューロン視床→大脳皮質知覚領野

触覚・深部覚の神経伝導路

触覚の種類に応じて別の経路を通ります。

四肢・体幹の微細触覚・深部覚:脊髄延髄路
第1次ニューロン脊髄神経節→後根→同側の後策に達して上行し第2次ニューロンとシナプスを形成
第2次ニューロン延髄下部の後策内(薄側核・楔状束核)で反対側へ交叉→内側毛帯を上行して第3次ニューロンにシナプス
第3次ニューロン視床→大脳皮質知覚領野
四肢・体幹の粗大触覚・圧覚:前脊髄視床路
第1次ニューロン受容器→脊髄神経節→後根→数髄節上の脊髄後角で2次ニューロンにシナプス
第2次ニューロン白交連(交叉)→脊髄前策(前脊髄視床路を上行)で第3次ニューロンにシナプス
第3次ニューロン視床→大脳皮質知覚領野
顔面の微細触覚・粗大触覚・深部覚
第1次ニューロン受容器→三叉神経節神経細胞→橋で2次ニューロンにシナプス
第2次ニューロン三叉神経主知覚核で第3次ニューロンにシナプス
第3次ニューロン視床→大脳皮質知覚領野

運動指令を伝える遠心性経路

運動指令を伝える経路は、運動領野から身体の各部位に運動の指令を送る神経伝道路のことで、中枢から末梢に向かう経路のため遠心性(中心から離れる)経路と呼ばれます。

運動指令は大脳皮質の中心前回(運動領野)と呼ばれる中心溝のすぐ前方にある脳の隆起(脳回)が統括していて、運動領野は大脳円蓋部に沿って内側面から「下肢」→「体幹」→「上肢」→「顔面」→「舌」→「咽喉頭」の順番でそれぞれの領域を支配している神経細胞が分布しています。

それぞれの領域から出た指令が最終器官(筋肉)まで到達する経路も目的別に複数存在します。

錐体路(皮質脊髄路と皮質延髄路)と錐体外路

「錐体路」とは、「意図的な運動(随意運動)を四肢、体幹、顔面、咽頭などに 起こさせるインパルスを伝達する中枢神経系の主要な伝導路」のことで、狭義では「皮質脊髄路」を指しますが、広い意味では「皮質延髄路」も「錐体路」に含めます。

さらに「錐体路」の上位運動ニューロンは、「錐体外路」と呼ばれる神経路とともに下位運動ニューロンに対し反射や運動が過剰にならないように抑制する働きもあります。

「錐体外路」とは「錐体路」と同じ場所から出て同じ場所に至る経路で、錐体路による随意運動を微妙に調整して円滑で正確な動きができるように指令を伝達しています。

「錐体路」が障害されると複雑な動きを巧みに行ったり、意図的な動きができなくなったり、腱反射が亢進したりします。

「皮質延髄路」に関連する神経は運動神経(第3:動眼神経・第4:滑車神経・第5:三叉神経・第6:外転神経・第7:顔面神経・第9:舌咽神経・第10:迷走神経・第11:副神経・第12:舌下神経)で、純粋な「知覚神経(第1:嗅神経、第2:視神経、第8:聴神経)」は、「皮質延髄路」に関係しません。

四肢や体幹へ指令を伝達する経路:皮質脊髄路(錐体路)
上位運動ニューロン大脳白質を経て内包の後半分→中脳大脳脚中央部→橋→延髄(腹側にある錐体を通過)→ 延髄と頸髄の境界部で神経繊維の大部分(約80%)が交叉し反対側へ(錐体交叉)→脊髄側索を下降(外側皮質脊髄路)または白交連で交叉(前皮質脊髄路)→目的の脊髄髄節の脊髄前角
下位運動ニューロン直接運動器の筋肉に指令を送るニューロン(脊髄前角細胞)とシナプスを形成
顔面・口腔・咽頭へ指令を伝達する経路:皮質延髄路
上位運動ニューロン皮質脊髄路と並んで内包へ→内方膝部を通過し中脳へ→脳幹の中で皮質脊髄路と分れて反対側に交叉→中脳、橋、延髄内にあるそれぞれの神経核へ
下位運動ニューロン関連する器官のニューロンとシナプスを形成
錐体外路:調整機能
上位運動ニューロン大脳皮質→大脳基底核(線条体(被殻と尾状核)赤核・黒質・中脳網様体など)→脳神経核・脊髄前角の神経細胞→錐体路同様内包を通過
下位運動ニューロン錐体路とほぼ同じ経路を通るが錐体は通らず、延髄オリーブを通って脊髄前角の神経細胞へ

小脳を含む神経経路:脊髄小脳路

姿勢の調節運動における個々の筋の精密な協調のために必要な情報の伝達する神経路で、末梢からの感覚情報が以下の経路で小脳に届けられます。

脳血管障害などで、小脳機能に障害が生じると、筋肉運動すべての協調性が乱れるため、「巧緻性低下:細かい動作ができない」「随意性低下:思った通りに体が動かせない」「協調性低下:ぎこちない動きになる」「構音障害:言葉を思い通りに発したり、声量の調整が難しく、話す言葉が聞き取りにくくなる」「起立動作や歩行が困難、運動開始までに時間がかかったり、思ったタイミングで止まれないなど意図的な運動がコントロールできない」「振戦:手足が勝手に震える」「眼球運動障害によるめまいや眼振」「高次脳機能障害」「記憶障害」などが生じます。

後脊髄小脳路

主に下半身の深部感覚を伝える神経路で、脊髄に入り後索をやや上行した後か直接に後角の胸髄核に達します。

第1次ニューロン感覚受容器で感覚刺激を感知→脊髄の後根を通って脊髄内へ
第2次ニューロン同側の側索の後外側部の表層を後脊髄小脳路として上行(非交叉性)
第3次ニューロン下小脳脚→小脳
前脊髄小脳路

主に下半身の深部感覚を伝える神経路で、姿勢や下肢の運動の全般的協調に関与しています。

第1次ニューロン感覚受容器で感覚刺激を感知→脊髄の後根を通って脊髄内へ
第2次ニューロン脊髄の後角内から白交連を通って反対側に交叉して側索の表層近くを前脊髄小脳路として上行(交叉性)
第3次ニューロン小脳
副楔状束核小脳路

主として上半身(上肢と体幹上部)からの深部感覚を伝える神経経路です。

第1次ニューロン感覚受容器で感覚刺激を感知→脊髄の後根を通って脊髄内へ
第2次ニューロン脊髄の後索を上行して延髄の後索核(副楔状束核)で中継(非交叉性)
第3次ニューロン下小脳脚→小脳

運動障害を起こす原因と神経経路

筋肉の動きに障害がある場合、「筋自体に原因があるもの」「筋を動かす作用を持つ神経系に原因があるも」「筋肉と神経の接合部に原因があるもの」に分類できます。

障害部位障害名原因例症状の特徴
筋肉ミオパチー遺伝性
炎症
自己免疫
筋萎縮と筋力低下(近位部で顕著)
筋痛、筋痙攣、筋の短縮による関節拘縮など
神経接合部神経接合部疾患
(重症筋無力症など)
自己免疫筋肉に力が入らなくなったり疲れやすくなったりする
目の症状だけの眼筋型
全身に症状が出る全身型
呼吸筋が麻痺する重症例も
神経上位運動ニューロン障害
下位運動ニューロン障害
(ニューロパチー・末梢神経障害)
糖尿病
圧迫性
遺伝
感染
自己免疫

栄養障害
薬物
中毒
神経の支配領域に沿った神経症状

ミオパチー(筋原性筋疾患)

全身の全て合わせれば人体最大の臓器になる「筋肉」自体に原因があって起こる骨格筋疾患を「ミオパチー(筋原性筋疾患)」といいます。

ミオパチー(筋原性筋疾患)は原因や症状の特徴により大きく4つに分類でき、姿勢保持や活動(運動)に不可欠な筋肉がやせたり、力が弱くなっていくため日常生活維持が困難になります。

原因原因特徴
先天性ミオパチー遺伝性 進行が目立たない
筋ジストロフィー遺伝性進行性が明瞭 
炎症性ミオパチー(筋炎) 炎症 
代謝性ミオパチー代謝  

「筋ジストロフィー」と「先天性ミオパチー」はどちらも遺伝性の疾患で、とくに進行性が明瞭なものを「筋ジストロフィー」、それほど進行が目立たないものが「先天性ミオパチー」とおおまかに分類しています。

主な症状は「筋萎縮」と「筋力低下」ですが、疾患によっては筋痛、筋痙攣、筋の短縮による関節拘縮を起こすこともあります。

ミオパチー(筋原性筋疾患)の「筋萎縮」や「筋力低下」は近位部で症状が強い傾向があり、筋萎縮が遠位部で顕著で筋萎縮の程度にくらべて筋力が保たれている傾向がある「ニューロパチー(神経原性筋疾患)」とは異なる特徴があります。

また、ミオパチー(筋原性筋疾患)では血清中のCKの特異的に上昇するという検査所見も特徴です。

神経筋接合部に原因がある筋肉機能低下

神経経路や筋肉自体に問題がなくても、神経と筋肉が直接連絡する「神経筋接合部」が障害された場合も筋肉の機能低下が生じます。

人間が動くため(随意運動)には、大脳皮質からの指令が末梢神経線維を経て骨格筋へと伝わる必要がありますが、この際、神経終末と筋肉側の受容体とから構成されている神経筋接合部にて「アセチルコリン(神経伝達物質)」による情報伝達が行われています。

神経筋接合部は末梢神経の興奮を筋肉に伝えて筋収縮をおこす情報を伝達する役割を果たしていますが、神経の終末から「アセチルコリン(神経伝達物質)」が放出され、筋の表面にあるアセチルコリン受容体に結合することによって筋内のカルシウムを介した筋収縮の機構が働きますので、「アセチルコリン(神経伝達物質)」受信側または発信側いずれの問題でも伝達障害が生じます。

神経接合部でのアセチルコリンの放出障害は「イートンランバート症候群」、筋肉側のアセチルコリンの受入障害は「重症筋無力症」が代表例です。

「重症筋無力症」は、脳からの指令を筋肉に伝える末梢神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)において、筋肉側の神経からの指令を受け取る筋肉側のアセチルコリン受容体の働きを妨げる抗体(抗アセチルコリン受容体抗体)が自己免疫が原因で作られるため受容体が破壊されてしまう自己免疫疾患です。

「重症筋無力症」では、筋肉側が神経からの運動指令を正しく受け取れない状態になってしまうため、全身の筋力低下や疲れやすさ(易疲労性)や眼瞼下垂や複視などの目の症状が生じたり、免疫系を司る胸腺肥大が認められます。

胸腺は心臓の前方にある免疫に関係する器官で、通常成人になると小さくしぼんでいきますが、重症筋無力症の患者では、高い確率で胸腺が肥大(過形成)してリンパ球が多く含まれる病変が認められるほか、特異的な病気のマーカーである自己抗体(アセチルコリン受容体抗体、MuSK抗体)の測定も診断基準になります。

「重症筋無力症」は、目の症状だけの眼筋型、全身に症状が出る全身型に大きく別れますが、重症例では呼吸筋麻痺で呼吸困難になるケースもあります。

目の周りの筋肉での特徴的な症状は「まぶたが落ちてくる」「ものが二重に見える」「斜視」「目が疲れる」「まぶしい」などで、口の周りの筋肉での特徴的な症状は「噛みにくい」「飲み込みにくい」「唾が溢れる」「食べたり飲んだりするとむせる」「しゃべりにくい」「鼻声になる」などがあります。

顔の筋肉全体に広がると「表情がうまくつくれない」「笑おうとしても怒ったような顔になる」、手足の筋肉に広がると「持ったものを落す」「字が書けない」「立てない」「歩けない」「階段が昇れない」「洗濯ものがほせない」「おふろで頭が洗えない」などの症状が出て日常生活や社会生活が困難になります。

約2/3が眼の症状(眼瞼下垂・眼球運動障害・複視)から発症し、咀嚼・嚥下・構音障害などの口咽頭障害からの発症は全体の1/6程、筋力低下からの発症は10%程度です。

また、眼瞼型(眼症状のみにとどまる)患者は約10%ほどで、1年以内に全身型に進行するのが約50%、2~3年以内に全身型に進行するのは約30%と言われています。

重症筋無力症の治療は、主に症状に対する対処療法と免疫に対する治療(「コリンエステラーゼ阻害薬:神経から筋肉への信号伝達を増強する薬剤」「早期拡大胸腺(腫)摘出術」「免疫抑制剤」「ステロイド剤」「血漿交換療法」「免疫グロブリン大量療法」)が行われます。

早期診断や早期治療が行われるようになったことで予後は比較的良好で、ステロイド薬や免疫抑制薬を服用中であっても、少ない量で病状がコントロールされていれば発症前とほぼ同じ生活を送れます。

神経原性(上位または下位運動ニューロン)の運動障害

筋肉は神経に支配されて作用しますので、筋肉自体に問題がなくても、糖尿病・圧迫・遺伝・感染・自己免疫・癌・栄養障害・薬物・中毒など様々な原因で、筋肉に指令を送る神経(神経細胞体・軸索・髄鞘)が障害された場合も筋肉機能は低下します。

筋肉に指令を送る神経は「中枢神経(上位運動ニューロン)」と「末梢神経(下位運動ニューロン)」に分類されますので、神経経路のどこで障害されるかによって症状の特徴は異なり、神経の支配領域に沿った症状が生じます。

神経原性の中でも「下位運動ニューロン」障害による筋肉機能低下の主症状は、ミオパチーと類似する筋緊張低下、弛緩性麻痺、筋萎縮、筋力低下などですが、神経の支配領域に沿った神経症状を伴って遠位部に優位な萎縮が起こるなどミオパチーとは異なる特徴があります。

特に、感覚神経や自律神経障害を併発する場合も多く、多発ニューロパチー、単ニューロパチー、多発性単ニューロパチーなど障害が発生する部位や範囲は神経の支配領域によって異なります。

上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの違い

神経が中枢神経と末梢神経に分けられるのに付随してニューロンも上位と下位に分類され、機能や構造にも違いがあります。

上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの違いを簡単にまとめてしまうと、「上位運動ニューロンは中枢神経(脳と脊髄)」のことで、「下位運動ニューロンは末梢神経(脳と脊髄以外の全身に分布する神経)」のことです。

より詳しく解剖学的に説明すると、「上位運動ニューロンは脊髄前角細胞や脳幹の脳神経核まで」で、「下位運動ニューロンは脊髄前角細胞や脳幹の脳神経核より末梢」の部分です。

中枢神経系(脳・脊髄)と末梢神経では役割が全く異なるため、損傷部位が中枢(上位運動ニューロン)か末梢(下位運動ニューロン)かで麻痺(運動障害)の特徴も全く異なりますし、具体的にどの部位が損傷されているかによっても症状が異なりますので、正常の神経経路と照らし合わせると症状から損傷部位を想定することもできます。

上位運動ニューロン障害下位運動ニューロン障害
損傷部位上位運動ニューロン
脊髄前角細胞や脳幹の脳神経核まで
下位運動ニューロン
脊髄前角細胞や脳幹の脳神経核より末梢
麻痺の部位障害側と反対側の上下肢顔面など損傷部位により多様
(障害される神経経路により異なる)
損傷部位同側で損傷部以下
筋緊張亢進(痙性麻痺)
初期は弛緩→次第に痙性 (痙直:筋肉の緊張(抵抗感)が増強した状態 やジャックナイフ現象など異常筋緊張が出現
減弱または消失(弛緩性麻痺)
深部腱反射亢進減弱~消失
表在反射消失減弱~消失
病的反射ありなし
筋委縮軽度~なし
(二時的に廃用委縮は起こる)
筋委縮が早期からあり
3か月以内に70~80%が減少
繊維性筋攣縮なしあり
麻痺の種類多様損傷部以下の機能低下

また、中枢性麻痺では、損傷部位により麻痺の出方も多様です。

名称特徴
単麻痺一側下肢の痙性麻痺が多い
同側上肢にもごく軽度障害を合併することもあり
対麻痺両側下肢のみに麻痺あり
痙直型であることが多い
片麻痺一側の上下肢体幹、および顔面に麻痺を呈する
上肢の方が下肢より麻痺の程度が強い(痙縮型、アテトーゼ型)
三肢麻痺両側上肢と一側下肢の痙性麻痺であることが多い
四肢麻痺四肢体幹すべてに同程度の麻痺がある
左右差があっても、同側上下肢の麻痺の程度が同じであればこの型とする
両麻痺四肢体幹すべて、ときに顔面にも麻痺がみられる
上肢より下肢で麻痺の程度が強いもの
両側片麻痺四肢体幹すべて、ときに顔面にも麻痺がみられる
下肢より上肢で麻痺の程度が強いもの

中枢性麻痺【上位運動ニューロン障害】

「上位運動ニューロン障害」とは「中枢神経(上位運動ニューロン)」の障害によって生じる麻痺などの機能障害のことです。

中枢(制御や統合)機能の障害なので、単純に機能が低下や消失するというよりもあるはずのないものが出てくるなどの異常所見が特徴です。

また、中枢神経(脳や脊髄)には機能分担がありますので、損傷される部位によって特徴的な症状は異なります。

大脳皮質・大脳白質の障害

大脳皮質は脳の最表層にある神経細胞の集まりで、大脳白質は神経細胞から出た神経軸索ですが、大脳皮質と白質のどちらが障害されても運動麻痺が起こります。

運動機能に関係する大脳皮質は、中心前回(ブロードマン第4野)と前運動領野(ブロードマン第6野)でそれぞれ支配領域が異なりますが、隣接しているので単独障害は少なく、4野と6野と同時に障害されると典型的な中枢性麻痺の症状が出現します。

第4野単独障害第6野単独障害第4野・6野同時障害
麻痺のタイプと重症度不全片麻痺不全片麻痺完全片麻痺
麻痺の内容微細な運動の障害より大きな協調運動障害全般的な随意運動障害
筋肉の緊張弛緩性剛直性痙性
深部反射減弱中等度亢進亢進
病的反射バビンスキー(母趾現象)反射
チャドック反射
バビンスキー(開扇現象)反射
ホフマン反射
バビンスキー(母趾開扇現象)反射
ホフマン反射
チャドック反射

その他にも、前頭(第8野)頭頂(第3野)も関与していると考えられていて、大脳皮質の運動領野障害時に出現する症状がいくつかあります。

症状特徴
焦点性(ジャクソン型)痙攣大脳皮質の運動機能局在に一致した身体部位に限局して始まり、全身に広がっていく痙攣発作
例)円蓋部髄膜腫が手の運動機能を支配している頭頂部の大脳皮質を圧迫した場合:異常な電気性興奮(てんかん焦点)が発生して、腫瘍と反対側の手だけに痙攣が生じるが、周辺の大脳皮質に波及して指→手→腕→上肢全体→顔面→足のように全身へ広がる
(ジャクソン型進展)
失語症優位半球前頭葉下部の言語中枢が損傷
:運動性失語や語健忘などの言語障害が生じる
反対側失認症非優位半球の頭頂葉の皮質が損傷
:麻痺側の存在を無視する症状が生じる

内包の障害

広範囲の大脳皮質から出る「錐体路」の神経線維は狭い内包部に集束しているため、内包やその周囲の障害では症状の現れる範囲は広範囲でかつ重篤になります。

内包部や隣接するレンズ核や視床を栄要する血管には、前脈絡叢動脈、レンズ核線状体動脈、視床穿通動脈などがあります。

視床の障害

知覚に関するすべての刺激は視床に集まる(交叉済み)ため、一側視床が障害されると反対側の全知覚障害が生じます。

視床膝状体動脈の出血、閉塞による視床症候群(デジュリン・ルーシー症候群)では、反対側の知覚障害、異常な自発痛(灼熱痛、視床痛)、不全片麻痺、運動失調、同名半盲などの症状を呈します。

脳幹部の障害

脳幹部とは、「中脳」「橋」「延髄」のことで、第3(動眼神経)~第12(舌下神経)の脳神経核がある場所です。

皮質延髄路に関係する脳神経(第3~7、9~12脳神経)は脳幹部で交叉、皮質脊髄路の上位運動ニューロンは延髄下部の錐体交叉部で交叉していますので、障害されると病変と同じ側の脳神経障害反対側の手足の麻痺(交代性片麻痺)が生じます。

例えば、左側の中脳腹側に出血が生じると、左動眼神経核、左動眼神経(末梢神経)、皮質脊髄路に障害が生じ、左側の眼球運動障害、右側の運動麻痺(皮質延髄路も同時に障害されると、右側脳神経麻痺(5~7、12脳神経)も)が生じますし、第9~11脳神経(舌、咽頭、喉頭)は両側性支配のため、一側だけの障害では 症状がでにくいなどの特徴があります。

損傷部位疾患例症状の特徴
中脳(腹側)交代性麻痺を呈する症候群「動眼神経麻痺」+「反対側運動麻痺(顔含む)」
橋下部(腹側)ウェーバー症候群「顔面神経麻痺」+「反対側運動麻痺(顔を除く)」
橋下部(背側)ミヤール・キュブレール症候群「顔面神経」+「外転神経麻痺 + 反対側運動麻痺(顔を除く)」
延髄フォビーユ症候群「舌咽神経、迷走神経、副神経、舌下神経 」+ 「反対側運動麻痺と温痛覚脱失(顔を除く)」
ジャクソン症候群

脊髄の障害

脊髄が損傷すると損傷部以下の運動麻痺、知覚麻痺、膀胱直腸障害が生じますが、横断面でみた脊髄部位のどこか損傷されるかによっても神経経路への影響が変わるため、症状の出方が異なります。

脊髄の部位障害される神経路症状疾患例
脊髄後索の障害深部知覚と微細触覚を伝える神経線維の通路位置覚・振動覚・識別覚・立体認知が障害
ロンベルク試験陽性となり痛覚過敏が生じる
・脊髄癆
・後脊髄動脈の閉塞(外傷など)
脊髄後角の障害温痛覚や粗大触覚の神経線維が次のニューロンに接続する部位障害髄節が司る温痛覚だけが障害
粗大触覚が事実上保持される(知覚解離)
(障害として認識されにくい)
 
脊髄灰白質の障害脊髄の中心管を取り囲む脊髄中心部 障害部位に対する体節性の症状
・前角/前根障害:弛緩性運動麻痺 筋委縮などの下位運動ニューロン障害
・後角障害:温痛覚障害
・後根障害:全感覚の障害、神経根痛
・脊髄中心部病変:温痛覚は障害されるが、振動覚は保たれる(解離性感覚障害)
・後索の選択的障害:固有感覚障害、温痛覚保持、仙部回避(尾側からの脊髄視床路の繊維ほど脊髄表面に位置する配列のため、脊髄内部に病変があれば仙髄支配の感覚は保たれることがある)
・前脊髄動脈の閉塞
・脊髄空洞症
・脊髄内腫瘍
・脊髄出血
脊髄白質の障害長い連絡路が障害 障害部位のレベル以下に症状を呈する
・側索障害:(錐体路徴候)と同側性の運動麻痺、痙縮、健反射亢進、病的反射
・後索障害:同側性の触覚、振動覚、位置覚の障害
・前側索障害:反対側の音痛覚障害(脊髄視床路)
 
横断性脊髄障害脊髄が横断されるように損傷 脊髄髄節以下すべての知覚障害と運動麻痺、膀胱直腸障害が生じる
横断面は1cmにも満たない構造で、左右の仕切りもないので、外部からの圧迫性病変により容易に両側性の障害をきたす
・運動障害(錐体路障害) 急性発症は弛緩性→次第に痙性麻痺になる
・感覚障害 上行性感覚路:後索、脊髄視床路の障害 対応する皮膚分節以下の全感覚脱失
・膀胱直腸障害、陰委、発汗障害(下行性運動路、交感神経など)
・障害部位の分節性の筋委縮と弛緩性麻痺(脊髄前角など)
-上部頸髄の障害(第1~4頸髄):呼吸麻痺や四肢麻痺(痙性麻痺)
-下部頸髄の障害(第5~8頸髄):呼吸不全(肋間筋麻痺)や四肢麻痺(下肢・体幹:痙性麻痺、上肢:弛緩性麻痺)
-胸髄の障害:対麻痺(下肢:痙性麻痺)やはさみ足歩行(両下肢伸展、尖足、内旋位)
-腰髄の障害:対麻痺(下肢:弛緩性麻痺)
 
半側性の脊髄障害一側半分の脊髄が破壊 【知覚障害】
・病変部より上のレベルの脊髄後根から入る知覚神経は、病変部を通過しないので問題なし
・病変のある髄節が司るデルマトームでは全知覚脱失
・温度痛覚障害:病変部およびその下1~2髄節下で後根から脊髄に入る繊維と、病変の反対側から脊髄内に入り交叉してから病変部を通過する繊維があるので、病変部(正確には病変部とその下1~2髄節)で両側温痛覚障害が生じ、病変部以下では病変の反対側だけに温痛覚障害が生じる
・深部知覚・微細触覚:反対側は全く影響なく同じ側の病変のある髄節以下で障害
・粗大触覚:経路から温度痛覚と同様に考えることができるが、微細触覚が正常に働いているため症状として自覚しにくい
【運動障害】
・障害部の病変側以下に錐体路障害あり
・上部頸髄の障害(第1~4頸髄):同側片麻痺(痙性麻痺)
下部頸髄の障害(第5~8頸髄):同側片麻痺(痙性麻痺)(下肢・体幹:痙性麻痺、上肢:弛緩性麻痺)
胸髄以下の障害:同側下肢麻痺(下肢:痙性麻痺)
ブラウンセカール症候群 
(特徴的な知覚障害と運動麻痺)
円錐部症候群・馬尾症候群第3仙髄以下(円錐)下肢の麻痺はないが、膀胱直腸障害、陰委が著名で、肛門周囲の感覚障害を呈す
馬尾が障害されると、サドル麻痺(殿部、大腿後面、会陰部感覚障害)、非対称性対麻痺 膀胱直腸障害が生じる
・腫瘍
・脊柱管狭窄症
・椎間板ヘルニア
・くも膜炎
・骨折

末梢性麻痺【下位運動ニューロン障害】

「下位運動ニューロン障害」とは「末梢神経(下位運動ニューロン)」の障害によって生じる麻痺などの機能障害のことで、末梢の伝達機能障害なので単純に損傷部以下で機能が低下や消失する症状が基本的な特徴です。

末梢神経にも機能分担がありますので、損傷される部位によって麻痺などの症状が出る場所が異なります。

末梢神経が障害されて2~3日経過すると神経が変性(ワーラー変性)しますが、50~60%は神経再生で回復します。(*中枢神経は回復しません。)

脊髄前角細胞・脊髄前根部の障害

下位運動ニューロン障害では、脊髄前角細胞、脊髄前根部の障害も含まれ、代表的疾患としては、ポリオ(ポリオウィルスによる急性脊髄前角炎)、進行性脊髄性筋委縮症(アラン = ドゥシェンヌ型)などがあります。

脊髄前角細胞・脊髄前根部が、損傷された前角細胞、前根を通るニューロンが支配している筋群にのみ麻痺が起こり、脊髄前角細胞そのものが損傷されている場合には、麻痺の筋肉がピクピクと痙攣する繊維束攣縮が生じます。

神経根の障害

神経根の障害が障害されると、障害された脊髄後根のデルマトームに沿って痛み(放散痛)や知覚障害を引き起こします。

変形性脊椎症、椎間板ヘルニア、腰椎の石灰化や突出した椎間板によって脊髄(L4-5、S1-2)から出たばかりの神経根(後根)が圧迫されその神経の支配領域の皮膚に疼痛(電激痛)をきたす坐骨神経痛などがあります。

脊髄神経節の障害

皮膚や筋肉の受容器から出発した知覚の第1次ニューロンの神経細胞(脊髄神経節細胞)が含まれた後根の膨隆部の障害で、単純ヘルペスヘルペスウィルスによる感染症で神経節の支配領域に、電激痛と発赤、水疱形成がみられるなどが代表例です。

所定の筋肉群へ向かう脊髄神経の障害

各髄節レベルの支配筋領域は以下のようになっていますので、損傷レベルによる症状の出る部分が異なります。

レベル支配領域
C1-C4頸部
C3-C5横隔膜
C4-C8
C5-C8上腕
C5-Th1前腕
C7-Th1
Th2-Th12体幹
L1-S1臀部
L4-S2大腿
下腿
足部
S3-S4会陰
C5~Th1腕神経叢(正中神経、撓骨神経、尺骨神経など)
Th12~L4腰神経叢(大腿神経など)
L4~S4仙骨神経叢(坐骨神経:総腓骨神経・脛骨神経など)

末梢神経が単独で障害されるのか、隣接する部分や網目状になっている神経叢部分で障害されるのかによっても、症状の範囲や重症度が異なります。

単神経障害

ある末梢神経障害に単独で生じる単神経障害(単神経炎とも呼ばれる)で、障害された神経の支配領域の運動麻痺と感覚障害が同時(末梢神経なので、運動神経と知覚神経混在)に現れます。

外傷、神経線維の周囲軟部組織による圧迫や絞扼、代謝性疾患(糖尿病・膠原病)などが原因で、正中神経、撓骨神経、尺骨神経、総腓骨神経で起こりやすい特徴があります。

代表的な疾患としては手根管症候群(肥厚した横手根靭帯による圧迫による正中神経麻痺)があり、正中神経の支配域の知覚および運動障害、筋萎縮、前腕・手指の激痛、母指、示指の屈曲困難(握りこぶしをれない)、母指球の萎縮(母指と手のひらが同じ面を向く:猿手)などの症状が見られます。

尺骨神経の障害(肘管症候群)では、小指球と骨間筋の萎縮による鷲手(フロマン兆候陽性)がみられます。

撓骨神経の障害では肘・手関節・中手指節関節伸展が困難となる下垂手がみられ、長時間の腕枕や酔っ払いがベンチの背に腕をかけて寝込んだ場合などにも起こります。

総腓骨神経麻痺は足根管症候群とも呼ばれます。

神経叢の障害

神経叢とは、多数の末梢神経が絡み合ったもので、単神経障害より、広範囲に知覚・運動麻痺が発生します。

第4頸髄から第1胸髄までの脊髄神経根が合流して網の目状に走行している腕神経叢は、神経根が単独で障害されても症状は比較的経度ですが、代表的疾患としては、肩や上腕の強打、引き抜き損傷、肺尖部の腫瘍(パンコースト症候群)、前斜角筋症候群、胸郭出口症候群などがあります。

C5-C6の障害で肩から肘の運動障害、C8-Th1の障害で肘伸展困難などの運動障害と知覚の異常や低下を呈します。

多発性ニューロパチー

多発性ニューロパチーは、支配領域が近い末梢神経が四肢末梢部で多発性に障害されたもので、麻痺と知覚障害が四肢末梢部から同時に始まり、知覚障害は、左右対称性に末梢から中枢へ進行(手袋、靴下型)します。

多発性ニューロパチーは、糖尿病などの代謝性障害、血液疾患、ウィルス・細菌感染、中毒(水銀、ヒ素)などが原因で起こりますが、正中神経、撓骨神経、尺骨神経、総腓骨神経の多発性ニューロパチーは、糖尿病や膠原病が原因でよく生じます。

 「上位運動ニューロン障害」と「下位運動ニューロン障害」の区別

「上位運動ニューロン障害」と「下位運動ニューロン障害」で症状が似ている場合もありますが、症状の特徴をよく見ていくと、「上位運動ニューロン(中枢神経)」と「下位運動ニューロン(末梢神経)」の働きの違いが明確になります。

「構音障害」と「失語症」の違い

「構音障害」と「失語症」の違いから、「上位運動ニューロン障害」と「下位運動ニューロン障害」の違いを整理してみましょう。

構音障害失語症
定義構音機能の障害
(下位運動ニューロン障害)
言語を司る大脳皮質の障害
(上位運動ニューロン障害)
症状会話の内容や了解には全く問題がないのにしゃべりずらさが出る 認知機能としての言語機能が障害される
付随する症状呂律障害
嚥下障害
高次脳機能障害

語音を正しく作りだすためには声帯や口蓋・舌・口唇などを適切な形に変化させることが必要で、この音声の通路にある諸器官の運動により語音を作りだすことを「構音」といい、脳の指令による随意的な運動です。

口から言葉を出す際の音声の組み立てや調節に異常がある場合に起こり、滑らかに言葉を発することができない状態のことを「構音障害」といいます。

構音を機能的に生じさせるには、「口・舌・咽頭・口蓋などの発声に必要な構音器官が言語中枢からの指令で適切に動くこと」と「小脳や大脳基底核で滑らかな運動になるように調節する機能が正常であること」がいずれも必要で、大脳皮質運動野(顔面・口腔・咽喉頭器官の部分)から出た指令は、皮質延髄路、内方膝部、大脳脚、脳幹を経て構音に関係した以下の脳神経核へ届きます。

神経核作用範囲
顔面神経核
顔面神経
顔面の表情筋
口唇の運動
一側性支配
疑核
舌咽神経(運動枝)
咽頭筋の運動
舌と咽頭の知覚
両側性支配
疑核
迷走神経
咽頭筋や声帯の運動両側性支配
舌神経核
舌下神経
舌の運動一側性支配

また、構音障害の中でも、舌の動きが不自由になる状態を特に呂律障害と言いますが、発音に関わる神経や筋肉は飲み込み運動(嚥下)に関わるものと一部は同じなので、飲み込みにくさを伴うこともあります。

言葉の理解も発する言葉の内容も正常であることが「失語症(上位運動ニューロン障害)」との明確な違いは、会話の内容や了解には全く問題がないのにしゃべりずらさが出るため相手は聞き取りにくくなります。

失語症(高次脳機能障害)について詳しくはコチラ!

「球麻痺」と「仮性球麻痺」の違いとは?

「球麻痺」と「仮性球麻痺」の違いも、「上位運動ニューロン障害」と「下位運動ニューロン障害」の違いを理解するとてもよい例です。

「構音障害(しゃべりにくい、呂律がまわらない)」や「嚥下障害(食べ物や飲み物が飲み込みにくい)」が出る病態に「球麻痺」がありますが、よく似た名前の「仮性(偽性)球麻痺」という病態もあります。

この2つの違いは一体何でしょうか?

「球麻痺」と「仮性(偽性)球麻痺」の違いは、問題のある場所(原因)が、中枢(上位運動ニューロン)か末梢(下位運動ニューロン)かの違いで、言葉で書くと同じように聞こえますが、全く異なる病態です。

球麻痺
(Bulbar Palsy)
仮性球麻痺
(Pseudobulbar Palsy)
定義延髄の運動神経核の障害(下位運動ニューロン障害)
延髄にある脳神経の運動神経核の障害によって生じる発語、発声、嚥下、呼吸、循環などの障害
両側性の皮質脊髄路の障害(上位運動ニューロン障害)
大脳皮質と下位運動脳神経核を結ぶ経路(皮質核路)の両側性障害により起こる軟口蓋、咽頭、喉頭、舌などの運動麻痺
由来延髄を外側から見ると球(ボール)のようにみえるため、「延髄の麻痺」= 「球麻痺」という名前に
臨床上は運動麻痺に限定される
球麻痺に症状が似ているため
病理延髄にあるⅨ(舌咽神経)Ⅹ(迷走神経)ⅩⅡ(舌下神経)の運動神経核が両側性に障害

神経支配領域である咽頭、口蓋、喉頭を動かす筋肉の運動が障害(咽頭や舌の筋肉が委縮)

嚥下障害、構音障害、舌の運動障害が生じる
皮質脊髄路の障害

舌咽(Ⅸ) 迷走(Ⅹ) 副(ⅩⅠ) 舌下(ⅩⅡ)の神経支配領域である咽頭、口蓋、喉頭、舌を動かす筋肉の運動が障害

嚥下障害、構音障害、舌の運動障害が生じる
(言葉が滑らかに出ない)
症状・同時に口輪筋麻痺、咀嚼筋麻痺も伴うことが多い
・急性、慢性がある
・舌委縮が特徴的所見
・呼吸障害、唾液分泌亢進、心調律異常なども起こりえる
・固形物の嚥下障害が顕著
・左右差がある場合が多い
・下顎反射亢進、錐体路症状、反射異常を伴うことが多い
・舌委縮は起きない
・下位脳神経核の多くは両側性支配のため、通常一側性の皮質核路の障害では生じない
(大脳皮質性の場合は、片側でも起こりえる)
・水様物のむせが顕著
代表的な疾患 ・筋委縮性側索硬化症
・ギランバレー症候群
・多発性硬化症
・重症筋無力症
・延髄梗塞/延髄出血
・延髄腫瘍

・多発性脳血管障害(特に前頭葉ラクナ梗塞)
・進行性核上性麻痺(神経変性疾患)
・脳炎
・梅毒
・脳腫瘍
・小脳障害(脊髄小脳変性症・小脳梗塞・小脳腫瘍)
各音節の感覚や大きさが不均一かつ不明瞭で、時に爆発性(酔っ払いのよう)になる
・パーキンソン病:発語筋の硬直、短調で抑揚が乏しい、小口、早口、語尾が聞き取りにくい

構音障害は、進行性筋ジストロフィー(筋肉そのものが侵される)によっていも生じ、
パ行 ⇒ バ行(口唇音の変化)、ラ行 ⇒ ダ行(舌音の変化)ガ行 ⇒ 鼻声(軟口蓋筋麻痺)などが見られます。

ALS(上位運動ニューロンと下位運動ニューロンが同時に障害)

原因不明の難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」では、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンのどちらも障害されます。

ALSをひとことでまとめると、身体を動かすための神経系(運動ニューロン)が変性する病気で、以下のように定義されています。

上位運動ニューロン、下位運動ニューロンが選択的かつ進行性に変性、消失していく原因不明の疾患

ALSの定義

運動ニューロンが変性することで発生していることはわかっているのですが、選択的に運動ニューロンが変性する原因そのものについては現在も不明の難病です。

上位運動ニューロン障害下位運動ニューロン障害
運動機能障害
(麻痺)
巧緻性低下球麻痺
(第Ⅸ、Ⅹ、Ⅻ脳神経の両側性障害)
筋緊張痙縮
(折りたたみナイフ現象)
筋弛緩
筋痙攣 筋痙攣
繊維束性収縮
筋委縮猿手
鷲手
垂れ足

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」は、50代から70代前半の年齢層に好発し、一番多い年代は65~69歳、男女比はおよそ1.5:1の割合で男性に多く、職業や生活環境とは無関係に発生すると言われています。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」の症状は個々により様々ですが、症状が限局的にはじまり、全身に波及していくという特徴があり、初発症状は、「手先・足先の力が入りにくくなる(細かい運動ができなくなる)タイプ」と「しゃべったり、飲み込んだりなど口の中が先に動かなくなるタイプ」のいずれかに分かれます。

「箸が持ちにくい」「重いものを持てない」「手や足が上がらない」「走りにくい」「疲れやすい」「手足の腫れ」「筋肉のピクツキ」「筋肉の痛みやつっぱり」など手先の細かい動きができなくなることから始まるタイプは全体の3/4を占め、「舌の動きが思いどおりにならない」「ことばが不明瞭(とくにラリルレロ、パピプペポの発音が困難)」「食べ物や唾液(つば)を飲み込みにくくなり、むせることが多くなる」など「しゃべったり、飲み込んだりなど口の中が先に動かなくなるタイプ」が残りの1/4を占めます。

初期症状の出方には複数のパターンがありますが、ほとんどが「手足から始まる場合は、手先・足先など体幹から遠い部分の筋肉が弱く・細くなる」→「2~4年で、全身の筋力低下・呼吸困難なども出てくるため、人工呼吸器が必要になったり、日常生活にも介助が必要な状態になる」のよう順序で徐々に全身に広がっていき、以下の症状は出にくいという特徴があります。

障害されにくい(機能が残存しやすい)機能
眼球運動(眼球を動かす筋肉)
肛門括約筋
排尿機能(失禁が起こりにくい)
感覚および知覚
認知機能

ほとんどのケースで認知機能は正常に保たれるため、全身の筋力が低下していてもアイコンタクトやなんらかの手段でコミュニケーションが可能であるということも大きな特徴のひとつです。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」では、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンのどちらも障害されますが、初期においては特定診断が困難です。

また、特異的に診断する検査方法はなく、症状の経過を追い、様々な検査結果から他の疾患の可能性を除外しながら、特定診断となる場合がほとんどであるため、手足の先の方の筋肉が徐々に低下して動かしにくくなり、その他の部位にゆっくり拡大進行する際に可能性が疑われます。

筋肉の表面が小さく痙攣する症状(筋線維束攣縮)も診断基準のひとつになりますし、しゃべりにくい、飲み込みにくいなどの舌や口の中の筋肉の動かしにくさ(球症状)も見られたり、腱反射の亢進などもみられるようになるとほぼ「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」と特定されます。

つまり、実際にはかなり進行してやっと診断が確定すると言うのが現状です。

ただ、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」の場合は、まだ症状が出ていない手足や舌の筋肉でも、筋電図にて異常(下位運動ニューロン障害)を認めるので診断のひとつとして有効ですし、血液検査で、血液中のCKが経度上昇する症例もみられます。

その他、筋電図以外に血液検査、脊髄・脳のMRI、髄液、場合によっては筋生検などを行い、変形性頸椎症、脊髄空洞症、ミオパチーなどその他の可能性を検討する為の検査は並行して行われます。

ビルゲイツやレディーガガ、スピルバークなど世界を騒がす著名人までをも巻き込んだアイスバケツチャンレンジは、難病「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を支援するチャリティーのひとつでアメリカで始まり、世界中に病名が広く病名が知られるようになりました。

日本では、美容家佐伯チズさんの公表でも注目されたこともありました。

アイスバケツチャンレンジは、あまりに衝撃的で大きな広がりをみせたので、本来の意図とかけ離れ批判の声もありますが、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」を知るひとつのきっかけになったというのはとても大きな意味を持っていると思います。

「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」に限らず、神経難病の患者さんはその病状の過酷さに加えて、孤独感、孤立感はとても簡単に説明できるものではありませんが、理解してくれるだけで救われる部分って誰にでもあると思います。

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