機能ユニット 骨盤とお尻の筋肉

【骨盤底筋とは?】ヨガとトレーニングのための【筋肉解剖学(作用と起始停止)】

骨盤底から腹腔(コア)を支える筋肉群である【骨盤底筋】の解剖学構造(起始停止、作用、神経支配)と正しくトレーニングする方法をイラスト図解を用いてわかりやすく解説します。

【骨盤底筋】とは?どこにあるどんな筋肉?

「骨盤底筋ヨガ」「骨盤底筋を鍛えるグッズ」など「骨盤底筋トレーニング」や「骨盤底筋体操」が女性のみならず男性にも人気ですが、【骨盤底筋】とはどんな問題を解決してくれるどんな筋肉なのでしょうか?

【骨盤底筋】とは、名前の通り「骨盤底(骨盤の底部)」に広がる筋肉群の総称です。

複数の筋肉が3層構造になって、前後「前側の恥骨から後部の尾骨まで」と左右「片方の坐骨結節からもう片方の坐骨結節まで」をハンモックのようにつなぎ、様々な組織とともに「骨盤底」にとても硬くて厚い層を構成しています。

 骨盤底筋の役割
男性「膀胱」と「腸」を支える
「膀胱→尿道」および「腸→肛門」の通路
女性「膀胱」と「腸」および「子宮」を支える」
「膀胱→尿道」「腸→肛門」「子宮→膣」の通路

「骨盤底」を支える【骨盤底筋】は排泄や生殖器と密接に連携していて、男性の場合は「膀胱」と「腸」を支えて「尿道」と「肛門」への通路となり、女性では更に「子宮」も支えて膣への通路となります。

【骨盤底筋】解剖学構造

【骨盤底筋群】は解剖学上3層に別れていますが、単独でのコントロールは難しく、腹腔を囲む「インナーユニット」や他の体幹の筋肉群と連動しながら、ほぼひとつの筋肉のように作用(収縮⇄弛緩)します。

筋肉名
表層球海綿体筋
表層坐骨海綿体筋
表層外肛門括約筋
中間層深会陰横筋
中間層浅会陰横筋
深層肛門挙筋
(恥骨直腸筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋)
深層尾骨筋

【骨盤底筋深層】「肛門挙筋」と「尾骨筋」

【骨盤底筋群】深層部には「肛門挙筋(恥骨直腸筋・恥骨尾骨筋・腸骨尾骨筋)」と「尾骨筋」があり、主に骨盤内臓の位置を下から保持する役割があります。

 恥骨直腸筋恥骨尾骨筋腸骨尾骨筋
起始恥骨結合両側の恥骨上枝恥骨
(恥骨直腸筋の外側)
内閉鎖筋筋膜(および肛門挙筋)の腱様弓
停止恥骨
(恥骨直腸筋の外側)
肛門尾骨靭帯
尾骨
腸骨尾骨筋縫線
尾骨
神経支配陰部神経
(S2〜S4)
陰部神経
(S2〜S4)
陰部神経
(S2〜S4)
 尾骨筋
起始坐骨棘
停止尾骨
神経支配陰部神経
(S2〜S4)

【骨盤底筋群(中間層と表層)】

【骨盤底筋群】中間層と表層の筋肉は、男性と女性で構造が異なりますが、主に尿道や膣の緊張など、生殖や排尿・排便コントロールを行う筋群です。

【骨盤底筋】役割

【骨盤底筋】は、骨盤底から腹腔を支える役割(男女共通)と、骨盤臓器から排泄および生殖器への通路になる役割(男女差あり)があります。

役割男性女性
骨盤臓器を支える膀胱
膀胱

子宮
排泄制御肛門
尿道
肛門
尿道
性機能勃起
射精
性行為快感制御
妊娠出産
インナーユニット底面姿勢
呼吸
腹圧制御
姿勢
呼吸
腹圧制御

【骨盤底筋】が適切に緊張することで、臓器の位置や排泄コントロールが正常に行えたり、性交渉の快感を高めることができますが、【骨盤底筋群】の筋力や機能が低下したり亢進すると、排泄や生殖器に問題が生じやすくなります。

骨盤臓器を支える

【骨盤底筋】は「腹腔(インナーユニット)」の底面を構成し、骨盤の底から骨盤臓器(男性:膀胱・腸、女性:膀胱・腸・子宮)を下から支える役割があり、【骨盤底筋】が収縮すると骨盤内臓が引き上がります。

排泄をコントロールする

【骨盤底筋】は、前側の「恥骨」から後部の「尾骨」までと片方の「坐骨結節」からもう片方の「坐骨結節」までを前後左右につないで厚みのある底面を構成し、「膀胱」と「腸」の開口部(膀胱からの尿道と腸からの直腸)の通路をしっかりと包み込んでいるため、収縮によって「排泄(尿、便、放屁)をコントロール」する役割があります。

【骨盤底筋】を収縮させると骨盤内臓が引き上がり、肛門と尿道(女性の場合は膣も)の開口部が引き締まりますが、【骨盤底筋】を弛緩させると開口部が開放されて排泄ができます。

【骨盤底筋】による排泄制御機能は、出産後や前立腺手術後などに「尿道括約筋」または「肛門括約筋」が正常に機能しない時には特に重要になります。

コア(体幹)機能を安定させる

【骨盤底筋】は「骨盤隔膜」とも呼ばれ、コア(腹腔)を構成する筋肉のひとつとして「インナーユニット」にも含まれます。

「インナーユニット」とは、骨で保護されていない体幹(腹腔)部分を覆う筋肉群(「横隔膜」「腹横筋」「多裂筋」「骨盤底筋群」)のことで、4つの筋肉で円柱を作るように腹部内臓を囲んでいます。

【骨盤底筋】は、腹腔を腹巻のように囲む腹部および背部深層の筋肉(姿勢筋)や胸腔と腹腔を隔てる「横隔膜(呼吸筋の主動作筋)」と協調的に作用し、姿勢、呼吸、腹圧コントロールに作用しています。

性機能を高める

【骨盤底筋】は男女共に性機能(生殖機能)にも重要な役割があります。

男性では勃起と射精に関与し、女性では自発的な収縮(圧迫)で性的快感を高めたり、妊娠中は赤ちゃんを支え、出産時はリラックスする必要があります。

【骨盤底筋】機能低下の原因

【骨盤底筋】の筋力が低下して適切な緊張を維持したりコントロールできなくなると、体幹の安定性が低下して力を入れた時に尿漏れや失禁が生じやすくなります。

逆に、【骨盤底筋】の弛緩がうまくできなくなると性交が痛みで困難または不可能になったり、骨盤や股関節周りの筋肉の痛み、腰痛、便秘、排便時痛、残便、失禁、排尿時痛、残尿感などの問題が生じます。

【骨盤底筋】に負担をかけて筋力低下や機能不全になる原因には以下のようなことがあります。

妊娠と出産(女性)や手術

女性の場合、妊娠中から【骨盤底筋】の弱化が始まっていると言われていますが、出産回数が多い、鉗子や吸引による分娩、3回以上の会陰裂傷、4kg超えの胎児の出産などで【骨盤底筋】は特に大きなダメージを受けて機能が低下しやすくなります。

また、子宮摘出術、前立腺手術、放射線治療などの治療を受けた場合、結果として【骨盤底筋】が弱くなる可能性があります。

骨盤や腹部の健康状態も骨盤底筋群に影響を与えて左右差を含む機能低下が生じる場合もありますが、普段から【骨盤底筋】を鍛えている人ほど回復が早くなります。

便秘や排泄時のストレス

便秘が原因でトイレでいきむ習慣でも【骨盤底筋】がダメージを受けますし、【骨盤底筋】の弱化により臓器が下がって腸や肛門を圧迫した状況でも排泄が妨げられるので便秘が起こりやすくなります。

また、仕事環境や公衆トイレを使いたくないなどの理由でトイレを我慢する傾向がある人は、【骨盤底筋】が過緊張になりやすくリラックスがうまくできなくなる場合がよくあります。

長時間(期間)続く咳

「喘息」「気管支炎」「喫煙」による呼吸機能低下などで咳が続く場合も、【骨盤底筋】が疲労して緊張が低下しやすくなります。

重いものの持ち上げや負荷の大きい運動

運動や日常の作業で重い物を持ち上げる機会が多い人や両足が同時に地面から離れている時間があるような衝撃の強い運動(バスケットボール、ランニング、ジャンプなど)をよくする人も【骨盤底筋】へのストレスが強くなりすぎて機能低下を誘発する可能性があります。

反対に、筋トレなど緊張する時間が長く、意識的にリラックスさせていない場合には過緊張によるトラブルの原因になりますが、この時は「梨状筋」「内閉鎖筋」「尾骨筋」「ハムストリング」など骨盤および股関節周囲筋の緊張も伴っていることが多いことが特徴です。

加齢や肥満

年齢を重ねると筋力が低下しやすくなりますが、【骨盤底筋】も同じです。

特に女性は、更年期になりエストロゲンが減少することで、他の筋肉と同様に【骨盤底筋】も弱くなりますし、肥満で【骨盤底筋】が支える重さが増えることも【骨盤底筋】に負担をかけて機能低下を促進します。

恐怖やストレスが続く

子犬が怖がって逃げる時に尻尾を足の間に置いて逃げますが、人間も恐怖やストレスで逃げたいと思っている時は、尾骨が下に引き込まれるような反応が生じます。

【骨盤底筋】は尾骨に付着しているため、ストレス状態が続くことでも【骨盤底筋】が短縮して硬くなり、正常な収縮ができなくなります。

【骨盤底筋】トレーニングを正しく実践するための基本

【骨盤底筋】も筋肉なので、筋肉の解剖学構造を意識して正しいトレーニングをすることで、適切なコンディションに調整することができます。

正しいトレーニングで筋力低下や機能低下を予防すれば、加齢による泌尿器系のトラブルや妊娠・出産・更年期に関連する不調を緩和する効果が期待できますし、緊張(収縮)と弛緩(リラックス)をコントロールする意識を持つことで、姿勢や呼吸を含めて身体機能を一番深層部から高めることができます。

【骨盤底筋】は深層にあり直接触れたり、動きを確認することができないので、正しいトレーニングは以下の3つのステップで行います。

ステップ内容
1【骨盤底筋】解剖学構造を理解する
2【骨盤底筋】の動きイメージ(セルフチェック)できるようになる
3【骨盤底筋】を意識してトレーニングをする

【骨盤底筋】の構造がイメージできれば、【骨盤底筋】トレーニングはいつでもどこでも気が向いた時に気軽にできるようになります。

【骨盤底筋】セルフチェック方法

【骨盤底筋】の解剖学構造をイメージしながら、以下の方法で自分の【骨盤底筋】が正常に機能できているか確認してみましょう。

トイレで確認

トイレで排尿するときに、【骨盤底筋】の収縮を調整して途中で尿の流れを止めたり排尿のスピードを遅くできるか確認できます。

排尿を自在にコントロールできるなら、【骨盤底筋】の機能が正常と言えます。

ただし、これらはトレーニングではなくあくまでセルフチェック方法で、頻回に行うと【骨盤底筋】機能が低下してしまう場合がありますので、週に1回程度あくまで機能確認のためにだけ実践しましょう。

いつもの姿勢で確認

好きな姿勢で両脚を肩幅程度に開き、太もも、お腹、お尻の筋肉をリラックスさせます。

尿を止める時のように尿道(前通路)周りの筋肉を、おならを止めるように肛門(後通路)周りの筋肉をを締めるように収縮させた時に、お尻の穴周りの筋肉を骨盤の内側に上向きに吸い込まれるようなイメージができると【骨盤底筋】が正しく機能しています。

女性の場合は膣の周りの筋肉も意識に追加し、タンポンを使用したことがある場合は、タンポンを膣のより高い位置に押し上げるように膣を押し込むことをイメージします。

収縮が確認できたら、その後必ずリラックスしましょう。

男性の場合は、裸で鏡の前に立ち【骨盤底筋】を強く引き込み保持すると、陰茎の根元が引き込まれて陰嚢が持ち上がるのことでも正しく【骨盤底筋】を収縮させられたかどうかを確認できます。

【骨盤底筋】基本トレーニング

【骨盤底筋】の基本エクササイズ(収縮⇄弛緩)は、坐位、立位、臥位など姿勢を問わず、いつでもどこでもできます。

トレーニングのやり方もシンプルで、【骨盤底筋】を収縮させた状態を8-10秒保持したら、完全にリラックスして8-10秒休むまでを1回として、8〜10回繰り返すを1セットとします。

正しくやるためのポイントは、太もも、お腹、お尻の筋肉をリラックスさせたまま【骨盤底筋】を意識して締め上げるように収縮させることですですが、代償でお尻の筋肉に力が入りやすいので注意します。

【骨盤底筋】と連動する下腹部(おなか)は少し凹みますが、おへその上はすべてリラックスさせて自然な呼吸を継続してください。

また、収縮後は筋肉を完全にリラックスさせてしっかり回復させることが重要です。

姿勢は問わないので、坐位、立位、臥位など一番やりやすい(【骨盤底筋】を意識しやすい)姿勢を自分で調整しながら探しましょう。

これを1日3セット継続すると【骨盤底筋】の良いコンディションが維持できますが、食事の時間や歯磨きの時間などのいつも当たり前にやる活動にリンクさせて日常生活に組み込むと継続しやすくなります。

【骨盤底筋】応用トレーニング

【骨盤底筋】はインナーユニット構造を中心とする体幹の筋肉と連動して作用します。

【骨盤底筋】の解剖学構造を理解して【骨盤底筋】の収縮⇄弛緩を意識すると、腹圧を深層から高めて安定したコア(運動の軸)を作れますので、普段行っているエクササイズやトレーニングの効果を大きく高めることができます。

【骨盤底筋】を意識してヨガ、トレーニング、体操、スクワットなどを実践し、運動効果、ダイエット効果、姿勢改善効果を高めましょう!  

【骨盤底筋】とインナーユニット

【インナーユニット】とは、腹腔(骨格で囲まれていない体幹部分)を上下左右から囲むように覆う機能構造単位(機能ユニット)のことで、「横隔膜」「腹横筋」「多裂筋」「骨盤底筋群」の4筋で構成されます。

 筋および筋グループ
上面横隔膜
側面腹横筋(内腹斜筋後部線維も含む場合あり)
後面多裂筋(最長筋と腸肋筋の腰部も含む場合あり)
下面骨盤底筋群

【インナーユニット】は、腹部にある大切な臓器(消化器や生殖器など)が正常に働ける空間を作る壁となるだけでなく、可動性を保ちながら体幹(コア)を安定させて、身体に負担の少ない正しい姿勢(背骨の正しいアライメント)を維持する役割があります。

腹腔をぐるりと腹巻やコルセットのように囲む構造の「腹横筋」は背中の筋肉(背筋群)を取り巻く結合組織(胸腰筋膜)に接続し、「腹横筋」が収縮することで体重を支える腰椎が安定します。

【インナーユニット】を構成する筋肉群の詳細構造(起始停止・作用・神経支配など)は、筋肉解剖学のページで詳細を解説しているので確認してみてください。

【インナーユニット】について詳しくはコチラ!
【インナーユニットとは?】正しいコア(体幹)トレーニング(鍛え方)のためのイラスト図解でわかりやすい筋肉解剖学

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