関節の動きと可動域

【脊柱(椎間関節)】運動方向(作用とROM)【イラスト図解でわかりやすい運動学と解剖学】

人体の大黒柱として身体を支えつつも上半身のしなやかで多彩な動きを作る【背骨(脊柱)】の「動く方向(作用)」「動く範囲(関節可動域:ROM)」「作用する筋肉」についてイラスト図解でわかりやすく説明しています。

【背骨(脊柱)】解剖学構造と特徴

【背骨(脊柱)】は1本の骨ではなく、約31〜34個の「椎骨」が積み重なっている椎間関節の集合体で、驚くほど精巧な構造で安定性と可動性を両立させている、人体の中でも特に複雑な関節のひとつです。

【背骨(脊柱)】全体としての運動方向、「頸椎」「胸椎」「腰椎」の構造の違いを理解した上での動きの特徴を理解することで、正しい姿勢評価やヨガなどの運動メニューが行えるようになります。

【背骨(脊柱)】運動方向と可動域(ROM)

【背骨(脊柱)】は、身体の軸として十分な耐久性を維持しつつ、3つの基本平面での十分な可動性も兼ね備えています。

運動面可動域
矢状面255°
前額面180°
横断面240°

通常、「可動性」と「安定性」は相反しますが(可動性を高めれば安定性が下がる)、【背骨(脊柱)】が身体の軸でありつつ、これだけ広範囲の可動性を維持できる構造の素晴らしさは知れば知るほど感動します!

【背骨(脊柱)】生理的湾曲(S字カーブ)

成人の【背骨(脊柱)】は「前額面」および「横断面」において真っ直ぐ(が理想)ですが、「矢上面」では4つのカーブ(生理的湾曲)があり、「生理的湾曲(S字カーブ)」が【背骨(脊柱)】の「可動性」と「安定性」の両立に非常に重要な役割を果たしている要素のひとつです。

湾曲の種類部位
前弯(二次)「頸椎」
後弯(一次)「胸椎」
前弯(二次)「腰椎」
後弯(一次)「仙骨尾骨領域」

「脊椎後弯」は「屈曲曲線(後方に凸で前方の凹となる湾曲)」で、 「脊椎前弯」は「伸展曲線(前方に凸で後方に凹となる湾曲)」です。

生まれた時の私たちの背骨は1本の大きな「後弯(一次湾曲)」ですが、首が座る時に「頸部の前弯(二次湾曲)」ができ、上半身を起こしてお座りができるようになるときに「腰椎の前弯(二次湾曲)」ができますので、【背骨(脊柱)】湾曲構造は、重力に対抗して首や上半身を起こして二本足歩行をする人間に特有な構造と言えます。

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【椎骨間関節(背骨の関節)】解剖学構造と特徴

【背骨(脊柱)】は「椎骨」が連なった構造で、「椎骨」ごとの関節である【椎骨間関節】には、2つの関節面があります。

名称分類構造
椎間関節軟骨性関節椎骨体と椎骨体の間を椎間板でつなぐ
突起間関節滑膜性関節椎骨の関節突起間をつなぐ

【椎間関節】解剖学構造と特徴

【椎間関節】の構成要素である「椎間板」は、「第一頸椎(C1)」と「第二頸椎(C2)」間を除く全ての「椎間」にある軟骨で、体重を支えつつ大きな可動域の運動をする【背骨(脊柱)】の負担軽減に重要な役割があります。

【突起間関節】解剖学構造と特徴

【突起間関節】は隣接する椎弓間の関節面により構成される関節で、 【背骨(脊柱)】全体としての動きは、各関節の動きの組み合わせ(連動)によって生じます。

頸椎」「胸椎」「腰椎」解剖学構造の違いと連動

 【背骨(脊柱)】の中で可動範囲が最も大きい部分は頭(目)を動かす運動をする「頸椎」ですが、胸郭の構成要素である「胸椎」や身体を支える役割が大きい「腰椎」は、運動範囲により大きな制限がかかるような構造になっています。

また、骨構造上の制限に加えて、姿勢や運動習慣による背骨周辺の「筋肉」や「靭帯」など軟部組織(椎間板など)の状態(柔軟性や筋力)次第で可動域に個人差が生じます。

【背骨(脊柱)】の運動方向や可動域を正しく理解するためには、椎骨(「頸椎」「胸椎」「腰椎」)それぞれの解剖構造の特徴違い、背骨の部位(「頸椎」「胸椎」「腰椎」)ごとの運動方向や可動性の特徴や違い、背骨全体として可動する時の「頸椎」「胸椎」「腰椎」それぞれの寄与割合を分解して考えられるようになる必要があります。

【頸椎の椎骨間関節】解剖学構造と運動特徴

【頸椎の椎骨間関節】は、「頭蓋」を支えつつ頭(目)を多様な方向へ広範囲に動かすことが主な目的なので、「胸椎」以下の椎骨間関節よりも可動範囲が広いという特徴があります。

特に、「頭蓋骨」と直接的な関節を構成する「第一頸椎」と「第二頸椎」は、第3頸椎以下の椎骨とも基本構造が大きく異なります。

関節名種類構成要素
環椎後頭関節顆状関節後頭骨と環椎(C1)
環軸関節車軸関節環椎(C1)と軸椎(C2)

頭蓋の一部である「後頭骨」と「環椎(第一頚椎)」で構成される【環椎後頭関節】と「環椎(第一頚椎)」と「軸椎(第二頚椎)」で構成される【環軸関節】の動きの範囲はほとんど骨的な制限がないので、第3頸椎以下の頸椎間関節に比べてもかなり広範囲です。

【環椎後頭関節】は背骨に対して頭をあらゆる方向に動かすための構造で、【環軸関節】は子供のいやいやの動作のように首を左右に大きくふる運動を可能にする関節です。

運動面環椎後頭関節環軸関節
矢状面屈曲⇄伸展 
前額面側屈 
横断面(首/頭)を回す首を左右に降る

特殊な2つの関節を含めて、「頸椎全体」としても頭(目)の位置を変えるために広範囲の可動域を持ちます。

例えば、 頸椎屈曲時は首の前面の筋肉が収縮して背面の筋肉が弛緩し(伸展はリバースアクション)ますし、頸椎側屈は左右片方の筋肉の収縮(弛緩)で生じますし、「胸椎(胸郭)」を固定した状態では「頸椎」を選択的に右または左に回旋もできます。

「頸椎」は他の椎骨に比べて骨的な制限は少ない(可動域が広い)ですが、「頸椎」付着する靭帯や筋肉の柔軟性によって制限される要素が多く、可動範囲に個人差が出やすい部位でもあります。

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【胸椎の椎骨間関節】解剖学構造と運動特徴

【胸椎】は「胸郭」の構成要素でもあるので、【胸椎】の動きを考える際には「胸郭」の解剖学構造の理解も不可欠です。

「胸郭内関節」は呼吸運動において重要な可動性を持っていますが、「胸椎(背骨)運動」においてはどちらかといえば過剰な動きを制限する要素になります。

【胸椎】を含む関節と運動制限要素

「胸郭」とは、7つの「胸椎骨」と「胸骨」およびそれらを繋ぐ12対の肋骨(下5対は直接または全く胸骨に接していない)で構成される骨構造です。

そのため、【胸椎】では「椎間関節」および「突起間関節」だけでなく、「肋骨」との関節面(肋椎関節:「肋横突関節」と「肋骨頭関節」)もありますし、関節的には「肋骨」と「胸骨」の関節や「胸骨」内関節も、【胸椎】の動きに制限を加えます。

関節名種類構成要素
【胸椎と肋骨の関節】
肋横突関節平面関節肋骨と横突起(胸椎)
肋骨頭関節平面関節肋骨と椎体(胸椎)
【胸骨と肋骨の関節】
第1胸肋関節軟骨性関節肋軟骨と胸骨
第2胸肋関節以降平面関節肋軟骨と胸骨
肋軟骨関節関節包なし肋軟骨と肋硬骨
軟骨間関節平面関節肋軟骨間の関節
【胸骨間関節】
胸骨柄結合軟骨結合胸骨柄と胸骨体
剣状突起結合軟骨結合胸骨体と剣状突起

「胸肋関節」は上位7肋骨と「胸椎」による関節で、第1胸肋関節は動きのない「軟骨性関節」ですが、2番目以降はごくわずかに動く「平面関節」です。

「肋軟骨関節」は形状こそ「平面関節」ですが、関節包がないためほとんど動かきません。

「軟骨間関節」は繊維性結合ですが、平面関節として可動します。

2つある「胸骨間関節」は「軟骨性」ですが、成人以降は完全に結合している場合もあり動きはほとんどありません。

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【胸椎(胸郭)】運動方向

【胸椎】は、胸郭を含めたワンセット(ユニット)として、以下の方向での運動ができます。

運動面運動方向特徴
矢状面伸展⇄屈曲胸郭が前後に移動する
前額面側屈胸郭が左右に移動する
横断面回旋胸郭が回旋する

【腰椎の椎骨間関節】解剖学構造と運動特徴

【腰椎】は「胸椎」の下にある5つの椎骨で、一番下の「腰椎」は「骨盤」の構成要素である「仙骨」と関節(腰仙関節)を構成します。

運動面運動方向特徴
矢状面伸展⇄屈曲腰が丸くなったり反ったりする
前額面側屈横腹のあたりから左右に曲げる
横断面回旋上半身全体が回旋する

「骨盤」が固定している時は「胸椎(胸郭)運動」を補助するように可動し、「背骨(脊柱)」を固定させた場合は「骨盤」を動かします。

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【背骨(脊柱)】運動方向と可動域(ROM)

【背骨(脊柱)】は、「頸椎(頭部)」「胸椎」「腰椎」それぞれが連動し、「矢状面」「前額面」「横断面」それぞれに広範囲の可動性を持ちます。

運動面運動方向可動域
矢状面屈曲⇄伸展255°
前額面右側屈⇄左側屈180°
横断面右回旋⇄左回旋240°

「頸椎(頭部)」「胸椎」「腰椎」でそれぞれ椎体の形や湾曲構造など解剖学構造が異なるので、運動面や椎体構造によって可動域にもそれぞれ特徴があります。

【矢上面】運動方向と可動域(ROM)

【背骨(脊柱)】矢上面の運動方向は「体幹(背骨)の屈曲および伸展」ですが、どこを支点とするかで動きが大きく変わります。

支点運動方向イメージ
股関節(大腿骨と骨盤)屈曲⇄伸展骨盤に対して背骨全体を前に曲げたり後ろに反らす運動
腰仙関節(腰椎を仙骨)屈曲⇄伸展骨盤(仙骨)に対して背骨(腰椎)を丸めたり伸ばしたりする運動
胸椎椎骨間関節(胸椎間)屈曲⇄伸展胸を反らせたり猫背になる運動
頚椎椎骨間関節(頸椎と胸椎)屈曲⇄伸展頭(目)の位置を上下に動かす運動

股関節から屈曲⇄伸展

体位前屈やもも裏(ハムストリング)ストレッチに代表されるように、「股関節」を支点とする「骨盤を含む背骨全体」の運動はとてもわかりやすい動作です。

「背骨全体」を屈曲伸展するときは、「股関節運動(大腿骨固定)」屈曲伸展と作用する筋肉は同じで、「骨盤(仙骨)」を含めた背骨全体を屈曲⇄伸展します。

「腰仙関節(腰椎)」屈曲⇄伸展

「骨盤(仙骨・尾骨)」に対して「腰椎」より上位の背骨全体を屈曲⇄伸展する場合は、「腰仙関節」における腰椎運動となり、「腰を丸める」ような運動になります。

「胸椎」屈曲⇄伸展

胸を反らしたり(胸椎伸展)、猫背になったりする(胸椎屈曲)時の背骨の運動です。

【胸椎】は生理的に後弯しており、椎骨解剖学構造状も伸展運動がやりにくい構造になっているので、正しい理解で運動をしないと、「頚椎」や「腰椎」の過剰伸展による代償で肩こりや腰痛を悪化させてしまうことがよくあります。

「頸椎」屈曲⇄伸展

「頸椎」での屈曲⇄伸展は、主に頭(目の位置)を変える時に生じる運動です。

「頸椎」伸展は下から上を見る時の運動で、「頸椎」屈曲は上から下を見る時に行う運動ですが、

「頸椎」と「頭蓋骨」の間の運動(うなずきや目の動きの調整)と「頸椎」間での運動で屈曲伸展(首の屈伸)の違い(作用する筋肉や関節が違います!)を抑えておくのも重要なポイントです。

【前額面】での運動方向と可動域(ROM)

【背骨(脊柱)】前額面の運動方向は、体幹の側方屈曲⇄伸展で、片方が屈曲している時、もう片方は伸展します。

【背骨(脊柱)】側屈に作用する筋肉の走行により、胸部と腰部を完全に分離して側屈することは難しいですが、胸部以下の背骨を安定させて「頸部(頭部)」だけを選択的に側屈することは可能です。

【横断面】での運動方向(回旋)と可動域(ROM)

【背骨(脊柱)】横断面の運動方向は回旋で左右回旋を合計すると最大で240度程度の可動域がありますが、ひとつの椎間関節が240度回旋する訳ではありません。

回旋角度は椎骨の構造などにより「頸椎」「胸椎」「腰椎」で大きく異なり、安定性や重要な「腰椎」ほど可動域が少なく、目の届く範囲に直接影響する「頸椎」の回旋角度が一番大きくなっています。

脊椎の部位回旋角度(可動域)
頚椎(第1)40°
頚椎(第2-第7)40°
胸椎35-40°
腰椎

例えば、正中位から右に回旋しようとする場合、【背骨(脊柱)】全体では最大120度程度回旋できますが、そのほとんどが「頸椎」の回旋(つまり顔を回旋させているだけ)です。

腹部をシェイプアップするために、ツイスト運動などをする場合は、「頸椎」を回旋させてやった気になってしまう間違いがよくあります。

ターゲットとなる椎骨とその構造や可動域を正しく意識しながら、エクササイズを行うと結果に大きな違いが出ます!

【背骨(脊柱)】運動に作用する筋肉(骨格筋)まとめ

【背骨(脊柱)】は身体の軸として安定性を維持しつつも広範囲の可動性も兼ね備えるため、複数の筋肉(骨格筋)が層のように重なり合い、連携しあって精巧な仕組みを機能させています。

【背骨(脊柱)】が30数個の椎骨の連なりのひとつひとつをカバーする構造になっている「背骨周りの筋肉(骨格筋)」も合わせて理解を深めることで、しなやかで美しい姿勢やブレないコアを効果的に作れるようになります。

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-関節の動きと可動域