機能ユニット 関節の動きと可動域

【肩甲上腕リズム】肩関節における上腕骨(腕)と肩甲骨(体幹)の動きの関係

「肩関節複合体(肩甲帯)」作用(運動)における「上腕骨」と「肩甲骨」運動学的相互作用である【肩甲上腕リズム】を理解しておくことで、肩周りの筋肉や靭帯の負担軽減、姿勢改善、肩の痛みや可動域制限の予防や解消に役立ちます。

【肩甲上腕リズム】とは?

【肩甲上腕リズム】は、1930年代にCodmanが最初に発表した「上腕骨」と「肩甲骨」の運動学的な相互作用のことで、「上腕骨」と「肩甲骨」の動きの連動や関与割合の参考値が算出されているため、肩関節機能を最適化させるための評価指標として有効に活用できます。

例えば、肩関節屈曲(前方挙上)の最大参考可動域は180°程度ですが、この時の「関節窩上腕関節」の屈曲角度は100°〜120°で、肩甲骨が胸郭上を上方回旋して関節窩を50°〜60°上を向けることで、「肩関節複合体」として最大可動域の180°前方挙上を達成できます。

つまり、「肩甲骨関節窩上」を自由に動ける「上腕骨」でも肩甲骨の動きを伴わなければ、頭の上まで腕(手)を挙げられないということになります。

また、肩関節外転(側方挙上)の最大参考可動域も180°程度ですが、この時の「関節窩上腕関節」の側方挙上角度は90〜120°で、「肩甲骨」回旋運動が連動することで150〜180°側方挙上できます。

「肩甲骨はがし」や「肩甲骨ストレッチ」など「肩甲骨」を動かしたりケアするメソッドがたくさんありますが、背中のコリや猫背などによって「肩甲骨」の正常なアライメントや可動域が制限されることで、「腕が上がりにくい」「腕が回らない」など「肩関節複合体」の動きに制限がでる理由や原因分析も、【肩甲上腕リズム】を理解することで深まります。

【肩関節】構造とは?

【肩甲上腕リズム】を理解することで、【肩関節】解剖構造がなぜこれほど複雑になっているのかの理解にも役立ちます。

【肩関節】は4つの関節で構成される複合体ですが、主な作用として「上肢(上腕骨)」を体幹に接続したまま広範囲空間での作業を可能にすることです。

関節名構成要素種類
関節窩上腕関節(GH)「肩甲骨」と「上腕骨」球関節
肩鎖関節(AC)「肩甲骨」と「鎖骨」滑走関節
胸鎖関節(SC)「胸郭(胸骨)」と「鎖骨」滑走関節
肩甲胸郭関節
(ST)
「肩甲骨」と「胸郭(肋骨)」機能関節

【肩関節】運動で主に動くのは、「肩甲骨」と「上腕骨」の関節である「関節窩上腕関節(球関節)」における「 上腕骨」で、「上腕骨骨頭」が関節面を作る「肩甲骨関節窩」はお皿状で骨的な制限がほとんどありませんので、【肩関節】における「上腕骨」可動域は広範囲ですが非常に不安定です。

「関節窩上腕関節(球関節)」に対して安定性を確保するため他の3関節があり、更に周辺を複数の筋肉・腱・靭帯で囲むことで、「上腕骨」が「体幹(肩甲骨・鎖骨・肋骨を介して)」と強固に連結連動したまま広範囲の可動性を維持できます。

肩関節が単純な骨結合だけではない複合関節として作用していることで、私たちの腕は重力に引っ張られて床に落ちることもなく、空間を自由に動いて、頭の上などでも手を使った様々な活動ができます。

また、四方八方に自由に動く「上腕骨」の動きには「上腕骨」と関節面を作る「肩甲骨」の動きが必ず関与し、「上腕骨」の動きに連動して「肩甲骨」は「胸郭(肋骨)」上を多様な方向へ回旋します。

回旋方向運動方向名説明
前額面回旋上方回旋と下方回旋関節窩が上を向くまたは下を向く動き
垂直軸回旋外旋と内旋関節窩がより前額面、または矢状面を向く動き
矢状面回旋前傾と後傾関節窩が前方回旋または後方回旋
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【肩甲上腕リズム】:「肩甲骨」と「上腕骨」の連動(相互作用)

【肩甲上腕リズム】は、腕(上腕骨)を挙上する時の「肩甲上腕関節(上腕骨の動き)」と「肩甲胸郭関節(肩甲骨の動き)」の寄与比率として定義されています。

ほとんどの場合では、最終的な「肩関節挙上角度」を「上腕骨の挙上角度」と「肩甲骨の上方回旋角度」に分けることで割合を算出しています。

「肩甲骨」と「上腕骨」:運動方向と連動(組み合わせ)

肩関節機能を評価する時に観察する「肩甲骨」と「上腕骨」の動きの組み合わせは以下のようになります。

上腕骨肩甲骨
屈曲(前方挙上)⇄伸展上方回旋⇄下方回旋
外転(側方挙上)⇄内転上方回旋⇄下方回旋
外旋⇄内旋内転⇄外転

【肩甲上腕リズム】平均比率

【肩甲上腕リズム】における「肩甲上腕関節(上腕骨の動き)」と「肩甲胸郭関節(肩甲骨の動き)」の寄与比率の平均は 2:1です。

例えば、肩関節屈曲または外転90度を肩甲上腕リズムで説明すると、「関節窩上腕関節」で60度、「肩甲胸郭関節」で30度挙上していることになります。

ただ、「肩甲骨」の関与比率は一定(常に 2:1)ではなく、挙上角度や方向によっても変化しますし、個人差が大きいこともわかっています。

例えば、屈曲(前方挙上)の場合は60°までは「関節窩上腕関節」の関与が大きく、肩甲骨の動きには一貫性が見られないとする研究があったり、肩甲骨面での肩関節外転運動において平均43°の回旋運動が見られましたが、上腕骨挙上90°〜120°で回旋角度が最大であったとする研究があります。

【肩甲上腕リズム】挙上角度での変化

「肩甲上腕リズム」における「関節窩上腕関節:つまり上腕骨の動き」と「肩甲胸郭関節:つまり肩甲骨の動き」の比率は、挙上30°を境として大きく変わります。

「上腕骨」挙上角度肩甲骨の関与
0-30°までほとんどない
(あっても一貫性なし)
30°以降30-60°まで
30-60°まで特に側方挙上で「肩甲骨」の関与が始まる
60°以降前方挙上でも「肩甲骨」の関与が大きくなる

挙上30°までは「関節窩上腕関節」主体の動きで、「肩甲骨」の関与はほとんどないかあっても一貫性がありません。

挙上30°を超えると、平均 2:1の寄与比率で、「肩甲上腕関節(上腕骨)」:「肩甲胸郭関節(肩甲骨)」が同時に動き始める「肩甲上腕リズム」が機能し始めますが、腕に大きなストレス(外力)が加わっている場合は「肩甲骨」の関与が増える場合があります。

【肩甲上腕リズム】運動面での変化

【肩甲上腕リズム】は運動面でも差があり、「矢状面」では他の面に比べて、より「関節窩上腕関節」の寄与比率が大きく(肩甲骨の回旋の寄与が小さく)なります。

【肩甲上腕リズム】個人差

【肩甲上腕リズム】は体型や利き手などによっても変化します。

利き手による差

例えば、「前額面」と「肩甲骨面」で「上腕骨」挙上時に利き手と非利き手を比較すると、利き手側でより「関節窩上腕関節」の寄与比率が大きく(肩甲骨の回旋の寄与が小さく)なることを示した研究があります。

特に、「肩甲骨面」で「上腕骨」挙上時の「肩甲骨上方回旋」において大きな優位差があり、「矢状面」では利き手と非利き手の差がでなかったそうです。

大人と子供による差

大人と子供で肩甲上腕リズムの差を調べた研究もあり、「肩甲骨面」での運動で肩甲上腕リズムで以下のような差があり、子供の方が「肩甲骨(体幹側)」の動きに依存する傾向が大きいことがわかります。

 比率
大人2.4:1
子供1.3:1

また、この研究では「腕を降ろしている時は子供の方が関節窩上腕関節の寄与比率が大きく(肩甲骨の回旋の寄与が小さく)なる」「挙上25°〜125°で肩甲骨面での上方回旋角度が子供の方が大きい」など優位な差があったそうです。

体型による差

BMIの高い人の方がBMIが低い人よりも、「上腕骨」挙上時の「肩甲骨上方回旋角度」が大きいことを示した研究もあります。

身体機能による差

スポーツアスリートの場合は、特有の動きをするため、左右(利き手側と非利き手側)の肩関節で動きに大きく差が出る場合があります。

また、肩甲骨上方回旋角度と肩甲上腕リズムの比率が、利き手と反対で優位差があることも報告されていますので、スポーツ選手などの場合は、競技への適応を考慮されるべきなので、一般理論は当てはまりません。

【肩甲上腕リズム】の機能的役割

【肩甲上腕リズム】には2つの重要な目的があります。

  • 肩関節周囲筋の長さと張力を調整して可動範囲を広げる
  • 上腕骨と肩甲骨突起の衝突を防ぐ

肩関節可動域を広げる

筋肉が伸び縮みして張力を発揮することで私たちは姿勢を保持したり様々な活動をするための関節運動を起こすことができますが、筋肉の長さが変化できる範囲は決まっています。

複数の筋肉に作用され「胸郭」の上を自由に動ける「肩甲骨」を「上腕骨」の動きに連動させることで、「上腕骨」に作用する肩関節周りの筋肉の長さや張力を調整できます。

これにより、関節としての安定性を保ちつつ、広い運動方向と範囲がカバーできます。

肩関節での骨衝突を予防する

「上腕骨骨頭」と「肩甲骨関節窩」は、「股関節(大腿骨と寛骨臼)」のように骨と骨がぴったりはまるような骨構造ではなく、平面に近い「肩甲骨関節窩」を球状の「上腕骨骨頭」が滑るように動く構造です。

そのため、大きく広範囲に動くことができるのですが、何らかの動きの制限がなければ、「肩甲骨」の突起部と「上腕骨」が衝突して正常な関節運動を妨げてしまいます。

「上腕骨」挙上に連動して「肩甲骨」が同時に動くことで、骨同士が衝突しないように動きを制限することにつながっています。

【肩甲上腕リズム】評価方法

「肩関節複合体」における「肩甲骨」の役割を考えると、「肩甲骨」と「上腕骨」の共同運動(肩甲上腕リズム)の変化は、臨床評価の指標として意味があると言えます。

【肩甲上腕リズム】は肩関節周りの筋肉の状態や肩関節の解剖学構造のコンディションを評価する指標のひとつで、肩関節外転運動時に「上腕骨」の挙上角度に対する「肩甲骨」の位置(背骨に対する下角を触診)で確認します。

「上腕骨」挙上時における「肩甲骨」には3つ運動方向パターン【上方回旋(前額面):後傾(矢状面):内旋または外旋(運動面や挙上角度で変化)】がありますので、「肩甲骨」と「上腕骨」が正常な位置関係にない場合は【肩甲上腕リズム】が崩れます。

【肩甲上腕リズム】に影響する疾患や損傷

【肩甲上腕リズム】だけで特定の疾患を鑑別できる訳ではありませんが、「肩甲骨」の動きが制限されたり、【肩甲上腕リズム】を乱す疾患や障害はたくさんあり、大きく以下のグループに分類できます。

問題傷病名など
骨の問題過度な胸椎後弯や鎖骨骨折など
関節の問題肩甲上腕関節や肩鎖関節が軟部組織損傷などで不安定
神経の問題頸部の神経根、長胸神経、脊髄副神経などの損傷や麻痺
柔軟性の問題肩関節周囲筋や軟部組織が硬化したり短縮することによる制限など
筋肉の問題「前鋸筋」や「僧帽筋」の機能低下などによる肩甲骨の不安定性や運動制限

「肩甲骨」が正常に動かない原因の68〜100%は肩の解剖学構造の損傷で、具体的には「肩関節を支える組織の機能低下」「回旋腱板(ローテーターカフ)の損傷」「肩周りの靭帯や組織の損傷」などです。

一般的に「肩甲骨」の貢献度が増加している時は、「関節窩上腕関節」の動きに制限が出ています。

矢状面と肩甲骨面での挙上において、「回旋腱板(ローテーターカフ)」の損傷があると「肩甲骨上方回旋角度」の貢献度が大幅に増加することを示した研究もあります。

【肩甲上腕リズム】を支える筋肉群

【肩関節複合体(肩甲帯)】は広範囲に動く可動性を維持しつつも、空間で腕を止めたり、重いものを持ち上げたり、重力に対抗した高い位置での運動をするなど、高い安定性も求められる関節です。

【肩関節複合体(肩甲帯)】には複数の筋肉、腱、靭帯が付着していて、特に「肩甲骨」と「上腕骨」を直接つなぐ走行をしている「ローテーターカフ」と呼ばれる機能ユニットが【肩関節複合体(肩甲帯)】の動的安定性を強固に支えています。

肩関節を支える縁の下の力持ち!【ローテーターカフ(Rotator Cuff)】とは、4つの筋肉:「棘上筋」「棘下筋」「小円筋」「肩甲下筋」で肩甲上腕関節を包み込むような腱板構造のことです。

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