【肩関節(肩甲帯)複合体】可動域と運動方向【イラストわかりやすい解剖運動学】

「肩関節」複合体としての動きや関節可動域について整理

【肩関節】とは体幹を起点に腕(上肢)を大きく広範囲に動かす関節で、人体の関節の中でも最も広範囲な可動域を持っています。

広範囲の可動域を維持しつつも、体幹に腕を安定して接続する安定性を確保するために「肩関節」は複数かつ広範囲の軟部組織構造にサポートされ、実質的には上腕骨・肩甲骨・鎖骨・胸郭(胸骨と肋骨)で構成される4関節の相互作用で働く複合関節として作用しています。

【肩関節(肩甲帯)】の解剖学構造と運動方向についてイラスト図解でわかりやすく解説しています。

「肩関節」には5種類の骨による4つの関節が含まれるよ!

目次

【肩関節(肩甲帯)】とは?4関節複合体の解剖学構造

【肩関節】は、上腕骨と上腕骨骨頭が直接関節面を作る肩甲骨関節との関節として説明されることが多いのですが、実際の運動においては、肩甲骨と関節を構成する鎖骨および胸郭など体幹部の骨を含めた複合関節になっています。

つまり、【肩関節】の動きを正確に理解するには、【肩関節】が上腕骨・肩甲骨・鎖骨・胸郭で構成される複合関節で、運動学的には以下の4つの関節の動きと相互作用が生じていることを含めて整理する必要があります。

関節名 関節窩上腕関節(GH) 肩鎖関節(AC) 胸鎖関節(SC) 肩甲胸郭関節(ST)
構造 上腕骨と肩甲骨 肩甲骨と鎖骨 鎖骨と胸骨(胸郭前面) 胸郭(肋骨後面)と肩甲骨
球関節 滑走関節 滑走関節 機能関節

「関節窩上腕関節(GH)」「肩鎖関節(AC)」「胸鎖関節(SC)」は上肢を胸郭(体幹)とつなげる解剖学上の関節ですが、「肩甲胸郭関節」は肩甲骨が胸郭上を動く構造なので厳密には「関節」ではありませんが、機能的に関節として特定の運動方向があります。

これら4関節に付着している筋肉、腱、靭帯が協調して動くことで、【肩関節(肩甲帯)】としての正常な運動が可能になり、【肩関節(肩甲帯)】の動きは、筋緊張、筋力、靭帯、骨構造の状態が相互に作用で決まります。

*「関節窩上腕関節」のみを【肩関節】と呼び、「肩鎖関節」「胸鎖関節」「肩甲胸郭関節」を【肩甲帯/胸帯/肩帯】と総称している場合もありますが、表現の違いにおいては「間違い」とは認識しないものとします。

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『関節』の種類と基本構造についてはこちら!

【関節】とは、どんな解剖学構造でどんな動きをするのかそのメカニズムについて、イラスト図解を使ってわかりやすく整理しています。

①【関節窩上腕関節】の基本構造と特徴

【関節窩上腕関節】とはいわゆる一般的に認識されている「肩関節」で、解剖学的には肩甲骨関節窩と上腕骨骨頭による球関節に分類され、上肢を体幹に接続した状態で多方向に動かせる上肢運動の自由度を優先した構造になっています。

【関節窩上腕関節】はお皿上の肩甲骨関節窩を球状の上腕骨骨頭が動く構造なので、人体の関節の中で最も可動性がある一方、最も不安定な骨構造の関節である(脱臼しやすい関節)という特徴があり、この不安定性を補強しながら多様な可動域を維持するために、複数の筋肉や靭帯などが付着して構造の弱点を補強しています。

英語では【GlenoHumeral (GH) Joint】と表記されます。

②【肩鎖関節】の基本構造と特徴

【肩鎖関節】は鎖骨外側と肩甲骨肩峰による平面関節で、肩甲骨を鎖骨(を介して胸郭:つまり体幹)と接続し、肩甲骨と直接関節面を作りながら連動して動く上腕骨(上肢)を体幹に連結するサポートすることが主な目的の関節です。

【肩鎖関節】があることで、【肩関節(肩甲帯)】運動において、「肩甲骨の回旋角度が増える」「腕の動きに連動して変化する胸郭の形状変化に応じて肩甲骨の位置を調整できる」「上肢から鎖骨へ外力が伝達される」などの機能を付加できます。

英語では【AcromioClavicular (AC) Joint】と表記されます。

③【胸鎖関節】の基本構造と特徴

【胸鎖関節】は鎖骨内側と胸骨胸骨柄による平面関節で、【胸鎖関節】の片側である胸骨柄には肋軟骨を介して第一肋骨とも接続していて上肢を体幹軸に直接接続する唯一の関節です。

また、【胸鎖関節】は靭帯で強固に連結されているので人体で最も動きの少ない関節でもあり、【胸鎖関節】運動に直接作用する筋肉はありませんが、肩甲骨の動きに連動して動いたり、鎖骨に付着する筋肉を介して鎖骨が動きますので、【胸鎖関節】脱臼よりも鎖骨骨折の方が起こりやすい傾向があります。

英語では【SternoClavicular (SC) Joint】と表記されます。

④【肩甲胸郭関節】の基本構造と特徴

【肩甲胸郭関節】は肩甲骨が胸郭(肋骨)上を滑るように動く構造で肩関節における上腕骨運動に連動して安定性や可動性を高める重要な役割があります。

【肩甲胸郭関節】は、他の関節のように線維性・軟骨性・滑膜性組織による結合がないので、厳密には解剖学上の関節ではなく、【胸鎖関節】および【肩鎖関節】の構成要素でもある胸郭上を肩甲骨が動く場合、【胸鎖関節】と【肩鎖関節】のいずれかまたは両方の動きを伴います。

つまり、【肩甲胸郭関節】を運動機能で見ると、胸郭と【胸鎖関節】および【肩鎖関節】によるCKC(クローズド キネティック チェーン)と言え、これら3つの関節の動きは上腕骨に連動して動く「肩甲骨」の動きで評価します。

英語では【ScapuloThoracic joint (ST) Joint】と表記されます。

【肩関節(肩甲帯)】構造に含まれる5つの骨

【肩関節(肩甲帯)】複合体には、「肩甲骨」「上腕骨」胸郭の構成要素でもある「鎖骨」「胸骨」「肋骨」5つの骨が含まれます。

①【上腕骨】

【上腕骨】は上肢と体幹を繋ぐ「二の腕」の骨で、肩関節運動においては基本的に運動軸になります。

「二の腕」の骨

『上腕骨』の構造や機能について詳しくはコチラ!

【上腕骨】は肘関節および肩関節の構成要素で、肩、肘、手の運動に作用する筋肉が付着しています。

②【肩甲骨】

【肩甲骨】は、背中上部(肋骨上)に背骨を挟んで翼のように左右対称に存在し、背骨、胸郭、肩甲骨の相対的な位置関係は、背面(背中)から身体の状態や姿勢を評価する上で重要な指標になります。

【肩関節(肩甲帯)】における4つの関節うち、3つの関節(肩鎖関節、肩甲窩上腕関節、肩甲胸郭関節)を構成する骨要素でもあり、肩の運動においても重要な役割があります。

背中にある『天使の羽』

『肩甲骨』の構造や機能について詳しくはコチラ!

【肩甲骨】は、腕(上腕骨)を3次元空間で自由に動かす時の支点となる【肩関節】の主要構成要素で、実際に左右の腕を動かす【翼】のように動かすために機能しています。

③④⑤【鎖骨・胸骨・肋骨(胸郭構造の一部)】

「鎖骨」「胸骨」「肋骨」は高い安定性が特徴である胸郭の構成要素で、上腕骨を体幹と接続しながら動かす「肩関節複合体」の安定性に大きく貢献しています。

首とお腹の間にある骨空間!

『鎖骨・胸骨・肋骨(胸郭)』の構造や機能について詳しくはコチラ!

【胸郭】とは、肋骨・胸骨・胸椎・横隔膜で作られる胸部に空間(胸腔)を作る構造で、胸腔には心臓や肺など、生命維持に重要な呼吸や循環の要となる臓器が収まっています。

【肩関節(肩甲帯)】運動の特徴

【肩関節(肩甲帯)】は、広範囲に動く人体関節最大の可動性を維持しつつも、空間で腕を止めたり、重いものを持ち上げたり、重力に対抗した高い位置での運動をするなど、高い安定性も両立しているハイブリット関節です。

可動性と安定性の両立とリスク

一般的に、「可動性」と「安定性」はトレードオフ(どちらかを優先すればどちらかが犠牲になる)関係にありますが、人体の関節には「可動性」と「安定性」をバランス良く両立するための優れた機能が標準搭載されています。

【肩関節(肩甲帯)】は、広範囲に動く人体関節最大の可動性を維持しつつも、空間で腕を止めたり、重いものを持ち上げたり、重力に対抗した高い位置での運動をするなど、高い安定性も両立しているハイブリット関節です。

この上腕骨を体幹(胸郭および肩甲骨)に安定させつつ広範囲に動くハイブリット構造を支えているのが、【肩関節(肩甲帯)】周囲に付着する複数の筋肉、腱、靭帯で、特に最深層部で肩甲骨と上腕骨をつなぐ走行をしている『ローテーターカフ』と呼ばれる腱板構造が【肩関節(肩甲帯)】の動的安定性を強固に支えています。

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【ローテーターカフ(回旋筋腱板)】について詳しく見る

肩関節は複数の関節による複合体で、様々な筋肉や靭帯で補強されることで広範囲で多彩な運動ができるようになっていますが、【ローテーターカフ(Rotator Cuff)】は、動きの範囲が最も大きい肩甲上腕関節の安定と可動性と両立させる重要な要素です。

【肩関節(肩甲帯)】は複雑で広範囲に動ける様々な機能や構造を備えていますが、それでも誤用や過用(疲労)で筋肉や靭帯にかかる負担も大きく、機能障害や怪我も起こりやすい関節でもあります。

【肩関節(肩甲帯)】複合体の運動方向(関節可動域:ROM)

【肩関節(肩甲帯)】複合体としての動きを正しく理解するために、各関節ごとの動きを整理していく必要がありますが、【肩鎖関節】【胸鎖関節】は鎖骨を介して肩甲骨を体幹に接続するのが主な役割なので、運動においては実質【肩甲胸郭関節】の肩甲骨の動きとしてまとめて評価します。

つまり、【肩関節(肩甲帯)】複合体の可動域は、「体幹(肩甲骨)に対する上腕骨の動き」と「胸郭上を動く肩甲骨の動き」を角度として算出しますが、上腕骨と肩甲骨の動きも相互連携しているため、その関係性を示した「肩甲上腕リズム」の理解も不可欠です。

上腕骨の動き【肩関節(肩甲帯)】運動方向(関節可動域:ROM)

【肩関節(肩甲帯)】は複数の骨連結による複合関節として、上肢(上腕骨)を体幹に安定させつつ広範囲に動かせます。

先ほども説明したように上腕骨の最大可動域を達成するには後で説明する「肩甲骨」の動きも含まれますが、まずは一番わかりやすい「身体を軸にした上腕骨の動きとして対になる(拮抗する)動き:5種類(10方向)」から整理しましょう。

運動面 運動方向名 説明
矢状面 屈曲(前方挙上) 伸展(後方挙上) 腕を前から挙げたり降ろしたりする動き
前額面 外転(側方挙上) 内転(体側に近づける) 腕を横から挙げたり降ろしたりする動き
横断面 外旋 内旋 腕を外側および内側にねじる動き
横断面 水平屈曲(水平内転) 水平伸展(水平外転) 肩関節90°外転位から床と水平方向の動き
全面 回転(分回し運動) 肩を回す運動

*実際の運動時はこれらの複数の運動方向が組み合わさって起こる場合がほとんどです。

*以下の記事で記載している正常関節可動域(このサイトでは参考ROM、最大可動域などとも表記している)は、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会による「関節可動域表示ならびに測定法」 による条件で測地した場合の参考値で、規定姿勢で測定した場合、筋肉の柔軟性や骨構造の個人差によって異なります。(このサイトのイメージ図は日常や普段の動きから関節の動きをイメージできることを優先して作成しているため、上記測定法の姿勢ではない場合もあります。)

①【矢状面:屈曲と伸展】肩関節運動ROMと作用する筋肉

【肩関節屈曲】と【肩関節伸展】は対になる(拮抗する)肩関節の運動方向で、腕を真っ直ぐ降ろした気をつけの姿勢を基準とし、腕を前後へ挙上する動きです。

運動方向 参考ROM 主に作用する筋肉
肩関節屈曲 180° 三角筋前部
大胸筋鎖骨部
肩関節伸展 45° 三角筋後部
広背筋
大円筋

【屈曲】は上腕骨を前方から頭の上まで半月を描くように上げる運動で、【伸展】は屈曲のリバースアクションですが、ニュートラルポジションよりも更に後方へ上腕骨を動かすこともできます。

肩関節屈曲に主に作用する筋肉は「三角筋前部」と「大胸筋鎖骨部」ですが、「烏口腕筋」や外旋位での「上腕二頭筋短頭」や「棘上筋」も補助的に作用します。

肩関節進展に主に作用する筋肉は「三角筋後部」「広背筋」「大円筋」ですが、「上腕三頭筋」も補助的に作用しています。

②【前額面:外転と内転】肩関節運動ROMと作用する筋肉

【肩関節外転】と【肩関節内転】は対になる(拮抗する)肩関節の運動方向で、腕を真っ直ぐ降ろした気をつけの姿勢を基準にし、腕を外側(体側から離す方向)または内側(体側へ戻すまたは反対側の体側へ向かう)へ挙上する動きです。

運動方向 参考ROM 主に作用する筋肉
肩関節外転 180° 三角筋中部
棘上筋
肩関節内転 45° 大胸筋
広背筋
大円筋

【外転】は、腕を体側から横方向へ離していく動きで、屈曲(前方挙上)との区別を明確にするために「側方挙上」と呼ばれることもあります。

【内転】は外転のリバースアクションですが、体側を横切って更に内転できます。

「肩関節外転(側方挙上)」に主に作用する筋肉は「三角筋中部繊維」と「棘上筋」ですが、外旋位での「上腕二頭筋長頭」や内旋位での「上腕三頭筋長頭」も補助的に作用します。

「肩関節内転」に主に作用する筋肉は「大胸筋」「広背筋」「大円筋」ですが、「肩甲下筋」「烏口腕筋」「上腕二頭筋短頭」も補助的に作用します。

③【横断面:水平屈曲(水平内転)と水平伸展(水平外転)】肩関節運動ROMと作用する筋肉

【肩関節水平屈曲(水平内転)】と【肩関節水平伸展(水平外転)】は対になる(拮抗する)肩関節の運動方向で、腕を90°外転(側方挙上)した腕を床と水平に後側または前側へ動かす運動です。

運動方向 参考ROM 作用する筋肉
水平屈曲(水平内転) 135° 三角筋(前部)
大胸筋
烏口腕筋
肩甲下筋
水平伸展(水平外転) 30° 三角筋(中部・後部)
広背筋
大円筋
棘下筋
小円筋

【肩関節水平屈曲(水平内転)】に主に作用する筋肉は、「三角筋(前部)」「大胸筋」「烏口腕筋」「肩甲下筋」で、【肩関節水平伸展(水平外転)】に主に作用する筋肉は、「三角筋(中部・後部)」「広背筋」「大円筋」「棘下筋」「小円筋」です。

④【横断面:外旋と内旋】肩関節運動ROMと作用する筋肉

【肩関節外旋】と【肩関節内旋】は対になる(拮抗する)肩関節の運動方向で、上腕骨が上腕骨自体を軸として回旋する運動です。

【肩関節外旋】は身体の中心から離れる方向への回転で、【肩関節内旋】は身体の正中線へ向かう方向の回転です。

運動方向 参考ROM 作用する筋肉
肩関節内旋 80° 大胸筋
肩甲下筋
大円筋
広背筋
肩関節外旋 60° 棘下筋
小円筋

【肩関節外旋】に主に作用する筋肉は「大胸筋」「肩甲下筋」「大円筋」「広背筋」ですが、「三角筋後部繊維」も補助的に作用します。

【肩関節内旋】に主に作用する筋肉は「棘下筋」「小円筋」ですが、「三角筋前部繊維」も補助的に作用します。

⑤【全面:回転(分回し)運動】肩関節運動ROMと作用する筋肉

「肩関節」は、上腕骨頭を関節面に安定させたまま腕全体を回転させて肘(もともと回転運動ができない関節)や手まで含めた上肢全体で円を描く「回転」運動もでき、広さや方向は自由に調整できます。

「肩関節の回転運動」は「外旋⇄内旋運動」と混同しがちですが、屈曲・伸展・外転・内転・内旋・外旋の複合運動なので、明確に区別できます。

【肩甲骨】の運動方向(関節可動域:ROM)

肩関節の運動において「肩甲骨」は上腕骨の動きに連動しますが、肩甲骨の運動方向を対になる動きをセットにして詳細をまとめています。

運動 運動方向名 説明
複合(肩甲骨と胸郭が並進) 挙上 下制 胸郭と並進して上方または下方へ移動する運動
複合(肩甲骨と胸郭が並進) プロトラクション リトラクション 胸郭と並進して肩甲骨が脊柱から離れたり元の位置に戻る動き
前額面 内転 外転 肩甲骨が肋骨上を左右にスライドして、背骨に近づいてたり離れたりする動き(実質的には「プロトラクション/リトラクション」の一部)
矢上面 前傾 後傾 関節窩が前に傾いたり、後ろに傾いたりする運動
複合 内旋 外旋 「胸鎖関節」のプロトラクションおよびリトラクションの際に「肩鎖関節」が連動せずに湾曲した胸郭に沿って肩甲骨が動く運動
複合 上方回旋 上方回旋 関節窩が上または下を向く方向に肩甲骨が胸郭上を動く運動

「肩甲胸郭関節(機能関節)」における肩甲骨の動きは、解剖学上の関節である「肩鎖関節」および「胸鎖関節」との複合運動によって生じていて、「肩甲骨」の単独運動ではないこと、「胸郭」に沿った動きであることを理解することがとても重要です。

 ⓪ 基準となる肩甲骨の位置

【肩甲骨】周囲には、複数の筋肉、腱、靭帯が付着しており、肩関節の動きや姿勢(胸郭)の変化に応じて肋骨面に沿って多様な方向へ動きますが【肩甲骨】は静止位で、概ね以下の位置にあります。

目安位置
内側縁と背骨間の距離 6cm程度外側
長さ 第2〜第7肋骨(T2〜T7-T9棘突起レベルで個人差あり)
前額面回旋 30° 〜45°内旋
矢上面傾斜角度 10°〜20°前傾
上方回旋角度 背骨を垂直軸として2°〜 3°

ただし、かなり個人差がありますので、あくまで参考となります。

①【挙上と下制】肩甲骨運動方向と作用する筋肉

【肩甲骨挙上】と【肩甲骨下制】は、静止位での肩甲骨の位置から胸郭と並進して上方または下方へ移動する運動のことです。

【肩甲骨挙上および下制】は「肩鎖関節」および「胸鎖関節」との複合運動によって生じますが、胸鎖関節が鎖骨を挙上する動きに追従して「肩鎖関節」で前傾/後傾や内旋/外旋による微調整が加えられることで、胸郭と接したまま肩甲骨が上方または下方に移動できます。

運動方向 特徴 作用する筋肉
肩甲骨挙上 胸郭と並進した上方移動 僧帽筋(上部)
肩甲挙筋
菱形筋
肩甲骨下制 肩甲骨挙上のリバースアクション(胸郭と並進した下方移動) 僧帽筋(下部)
小胸筋

【肩甲骨挙上】はいわゆる「肩をすくめる動き」に含まれる肩甲骨運動で、肩こりの原因筋としても有名な「僧帽筋(上部)」「肩甲挙筋」「菱形筋」が主動作筋になります。

【肩甲骨下制】は【肩甲骨挙上】のリバースアクションで、「僧帽筋(下部)」「小胸筋」「鎖骨下筋」など意識しにくいまたは小さい筋肉が主動作筋なので、「広背筋」や「大胸筋」も補助的に作用しています。

【肩甲骨下制】はバーベルなど重いものを持ち上げた後やドリフターズのヒゲダンスの時に生じる肩甲骨の動きに含まれますが、普段の生活では意識しにくい運動で意識しても動作が難しいため、肩甲骨が挙上した状態が固定化し、肩こりなどに悩む人が多い傾向があります。

②【内転と外転】肩甲骨運動方向と作用する筋肉

【肩甲骨内転】と【肩甲骨外転】は肩甲骨が肋骨上を左右にスライドするような動きで、身体の中心となる背骨に近づいていたり背骨から離れたりします。

運動方向 特徴 作用する筋肉
肩甲骨内転 肩甲骨が脊柱に近く 菱形筋
僧帽筋
肩甲挙筋
肩甲骨外転 肩甲骨が脊柱から離れる 前鋸筋
小胸筋

肩甲骨が背骨に近づく【肩甲骨内転】運動には「菱形筋」「僧帽筋」「肩甲挙筋」が主に作用し、反対方向の【肩甲骨外転】には「前鋸筋」「小胸筋」が主に作用し、「大胸筋」も補助的に作用します。

実際の運動において【肩甲骨内転】と【肩甲骨外転】のように肩甲骨が独立して動くことはほとんどなく、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」と連動して胸郭上を肋骨の形に沿って動くため、【肩甲骨内転】は【肩甲骨プロトラクション 】、【肩甲骨外転】は【肩甲骨リトラクション 】に含まれる運動要素のひとつとなります。

③【プロトラクションとリトラクション】肩甲骨運動方向と作用する筋肉

【肩甲骨プロトラクション】は、「肩鎖関節」と「胸鎖関節」の水平面における回旋運動の結果、胸郭と並進して肩甲骨が脊柱から離れる動きです。

【肩甲骨リトラクション】はプロトラクションのリバースアクションで、いずれも「肩甲骨」単独運動(外転/内転)ではなく、背骨(胸椎)の動きも伴う「肩鎖関節」と「胸鎖関節」の結果であることが非常に重要なポイントです。

運動方向 特徴 作用する筋肉
プロトラクション 肩甲骨が胸郭に沿って背骨から離れる 小胸筋
前鋸筋
リトラクション プロトラクションのリバースアクション 菱形筋
僧帽筋

仮に肩甲骨が単独で背骨から離れる運動をする場合、肩甲骨の内側縁のみが胸郭に接して関節窩は横向きのまま外側に移動することになりますが、実際の運動、つまり【肩甲骨プロトラクション】では肩甲骨前面全体が胸郭に接したまま背骨から離れるように移動し、最終可動域では関節窩は前方を向きます。

肩関節複合体としての機能を包括的に見ると、「胸鎖関節」プロトラクションに追従するように【肩甲骨プロトラクション】が起こり、「肩鎖関節」の内旋/外旋と「胸鎖関節」のプロトラクション /リトラクションを伴うことで、肩甲骨(肩甲胸郭関節)は肋骨の形状に沿った並進運動になっていて、「胸鎖関節」プロトラクションにより前方のリーチ範囲が拡大します。

【肩甲骨プロトラクション】は、身体の前で腕を組む時、手を伸ばしたりパンチする時、うずくまったり何かに抱きつく時などに生じる動きとしてとても重要ですが、 スマホやパソコンを使っている時になりやすい姿勢(巻き肩)で生じやすい運動方向でもあるので、意識しながら姿勢を整える(リトラクションする)ことで、猫背・首こり・肩こりなどを予防できます。

【肩甲骨リトラクション】はプロトラクション のリバースアクションで、左右の肩甲骨を背骨に近づける方向への運動なので、物を自分の方へ引き寄せる時、手を後ろで組む時などに重要な動きです。

④【上方回旋と下方回旋】肩甲骨運動方向と作用する筋肉

【肩甲骨上方回旋】と【肩甲骨下方回旋】とは、肩関節(上腕骨)を挙上または下制する時に重要な動きで、【肩甲骨上方回旋】および【肩甲骨下方回旋】運動には、「胸鎖関節」の挙上/下制と後傾/前傾、「肩鎖関節」の上方回旋/下方回旋の複合運動によって生じます。

肩関節において上腕骨挙上角度に合わせて肩甲骨の動きが一定の法則を持って連動することを【肩甲上腕リズム】といいますが、肩甲上腕リズムを理解する上でも重要な肩甲骨の動きです。

上腕骨骨頭と肩甲骨関節窩が作る関節窩上腕関節は、肩関節複合体で主体となる動きをする関節ですが、上腕骨の挙上角度に合わせて肩甲骨上方回旋または下方回旋することで関節面が最適化され、挙上角度や関節の安定性を高めています。

運動方向 特徴 作用する筋肉
肩甲骨上方回旋 前額面で関節窩が上を向く 前鋸筋
僧帽筋上部繊維
肩甲骨下方回旋 前額面で関節窩が下を向く 菱形筋
僧帽筋下部繊維

【肩甲骨上方回旋】は関節窩が上を向く方向に肩甲骨が胸郭上を動くこと(下角が外側に移動しつつ肩峰が上方傾斜)です。

肩関節(腕)挙上時に、最大約60°程度と広い可動域を持っている【肩甲骨上方回旋】加わることで、関節窩に上腕骨骨頭を安定させながら肩関節において腕の挙上角度(可動域)を増やして頭上(肩関節180°挙上位)での上肢活動が可能になります。

【肩甲骨下方回旋】は、【肩甲骨上方回旋】のリバースアクションとして挙上した腕を下ろす時に生じる肩甲骨の動き(下角が内側に移動しつつ肩峰が下方傾斜)で、肩甲骨の下端部を胸郭からわずかに持ち上げることもできるため、後ろポケットに手を入れるような動作が可能になります。

⑤【前傾と後傾】肩甲骨運動方向と作用する筋肉

【肩甲骨前傾】と【肩甲骨後傾】は、矢上面で関節窩が前に傾いたり、後ろに傾いたりする動きです。

運動方向 特徴 作用する筋肉
肩甲骨前傾 矢上面で関節窩が前に傾く
肩甲骨後傾 矢上面で関節窩が後ろに傾く

「胸鎖関節」前方回転/後方回転を伴う「肩鎖関節」の動きによって生じるので、「肩甲骨」の動きとして目視するのは難しいですが、肩関節(肩甲帯)の運動において、肩甲骨を胸郭上に接続したままにするために重要な役割をしている運動です。

「肩鎖関節」での制御が乱れると過度な【肩甲骨前傾】が生じて肩甲骨下角が目立つようになり、神経損傷が疑われます。 また、極端な不良姿勢でも異常な【肩甲骨前傾】が生じる場合があります。

⑥【内旋と外旋】肩甲骨運動方向と作用する筋肉

【肩甲骨内旋】と【肩甲骨外旋】は、「胸鎖関節」のプロトラクションおよびリトラクションの際に「肩鎖関節」が連動せずに湾曲した胸郭に沿って肩甲骨が動く運動で、臨床診断において重要な動きです。

運動方向 特徴 作用する筋肉
肩甲骨内旋 「肩鎖関節】が連動しない「胸鎖関節」プロトラクションに連動する肩甲骨の動き(肩甲骨の内側縁が胸郭から浮く)
肩甲骨外旋 肩甲骨内旋のリバースアクション

【肩甲骨内旋】では肩甲骨の内側縁が胸郭から浮くので、過度な【肩甲骨内旋】は【翼状肩甲】とも呼ばれ、神経障害や前鋸筋麻痺などが疑われます。

【肩甲骨外旋】は【肩甲骨内旋】のリバースアクションです。

肩甲骨(肩甲胸郭関節)の動きを作る【肩鎖関節】と【胸鎖関節】の動き連動

4つの関節からなる「肩関節複合体(肩甲帯)」における【肩甲骨】の動きは肩関節(腕)運動にとても重要で、【肩甲骨】が動くことで、肩関節(肩甲帯)の広範囲で安定した運動が可能になります。

【肩甲骨】は胸郭(肋骨)上を動きますので、胸郭後壁と肩甲骨前面による関節を「胸郭肩甲関節」と呼び、肩関節複合体(肩甲帯)を構成する関節のひとつ(機能関節)とみなしますが、「胸郭肩甲関節」は関節の解剖学的特徴である線維性、軟骨性、または滑膜組織による結合がなく、解剖学的関節構造を持つ「肩鎖関節」および「胸鎖関節」に連動して生じるものであり、言い方を変えると、肩甲骨の胸郭上での動きは「肩鎖関節」および「胸鎖関節」または両方に影響するCKC(クローズド キネティック チェーン)です。

つまり、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」が連動することで、肩甲骨が単独で運動するのではなく、胸郭に沿って並進する自然な「肩甲骨(胸郭肩甲関節)」運動に調整ができる構造になっています。

【肩甲骨】が動いている、つまり「胸郭肩甲関節」の運動が生じている時は、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」が動いた結果なのですが、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」の動き(特に内旋/外旋と前傾/後傾)を観察・測定することは非常に難しいため、総合結果としての「肩甲骨(胸郭肩甲関節)」の動きを評価します。

肩鎖関節(AC)

【肩鎖関節】は鎖骨外側と肩甲骨肩峰による平面関節で、肩甲骨を鎖骨(を介して胸郭:つまり体幹)と接続し、肩甲骨と直接関節面を作りながら連動して動く上腕骨(上肢)を体幹に連結するサポートすることが主な目的の関節です。

運動方向
内側(前側)を向いている肩甲骨面に対する垂直軸 上方回旋/下方回旋
垂直軸 内旋/外旋
矢上面 前傾/後傾

肩関節挙上(屈曲または外転)時に肩甲骨は肩峰に対して約30°上方回旋し、肩関節内転/伸展時に肩甲骨は肩峰に対して約30°下方回旋します。

肩甲骨プロトラクション時に【肩鎖関節】が内旋、肩甲骨リトラクション時に【肩鎖関節】が外旋し、肩甲骨挙上時は【肩鎖関節】が前傾、下制時は【肩鎖関節】が後傾することで、湾曲した胸郭(肋骨)に沿った肩甲骨(肩甲胸郭関節)運動になります。

胸鎖関節(SC)

【胸鎖関節】は鎖骨内側と胸骨胸骨柄による平面関節で、【胸鎖関節】の片側である胸骨柄には肋軟骨を介して第一肋骨とも接続していて上肢を体幹軸に直接接続する唯一の関節です。

運動方向
矢状面 前方回旋/後方回旋
前額面 挙上/下制
水平面 プロトラクション /リトラクション

頭上まで腕を上げた(肩関節屈曲)時に肩甲骨は40-50°回旋するので、鎖骨靭帯を介して鎖骨も連動するように回旋します。

肩甲骨の挙上/下制に連動し、胸骨との関節面で鎖骨は上方回旋しつつ骨接合を維持するため下方向へ滑りますが挙上は最大45°で角度は靭帯や肩甲挙筋の張力によって決まり、下制は最大10° 程度で靭帯および第一肋骨との接触によって制限されます。

プロトラクションおよびリトラクションは、鎖骨の遠位端で接している肩甲骨プロトラクション(外転)およびリトラクション(内転)に連動して生じますが、靭帯や骨接合によってかなり制限されています。

プロトラクションでは、鎖骨内側凹面が胸骨凸面を前に滑るように移動し、鎖骨外側を前方回旋し、リトラクションでは鎖骨外側を後方回旋します。  

上腕骨と肩甲骨の相互連携:肩甲上腕リズム

【肩甲上腕リズム】は、1930年代にCodmanが最初に発表した上腕骨と肩甲骨の運動学的な相互作用のことで、「上腕骨」と「肩甲骨」の動きの連動や関与割合の参考値が算出されているため、肩関節機能を最適化させるための評価指標として有効に活用できます。

例えば、肩関節屈曲(前方挙上)の最大参考可動域は180°程度ですが、この時の「関節窩上腕関節」の屈曲角度は100°〜120°で、肩甲骨が胸郭上を上方回旋して関節窩を50°〜60°上を向けることで、肩関節複合体として最大可動域の180°前方挙上を達成できます。

上腕骨と肩甲骨の運動学的相互作用!

『肩甲上腕リズム』について詳しくはこちら

【肩関節】解剖学構造に加えて、【肩甲上腕リズム】を理解しておくことで、肩周りの筋肉や靭帯の負担軽減や姿勢改善、肩の痛みや可動域制限の予防や解消に役立ちます。

肩関節運動に作用する筋肉と機能評価

【肩甲骨】の運動方向は肩関節(肩甲帯)や姿勢(背骨や胸郭)の動きと相互作用するため、実際の運動を起こす際には様々な筋肉が相互に関与しています。

肩の痛みやこり、肩こりや腕の上がりにくさの原因は、肩甲骨周りの筋肉にある場合、肩甲骨の動きを評価することで、問題の原因を特定して、効果的なコンディショニングができます。

肩甲骨および肩関節の解剖学構造を理解することで、肩甲骨はがしや肩甲骨マッサージを自分でも効果的に行えるようになります。

上肢運動に関与する骨と体幹軸を繋ぐ構造で肩甲帯の安定と運動に作用する筋肉群!

『肩関節』のハイブリッド構造を支える筋肉群について詳しくはコチラ!

【肩関節(肩甲帯)の筋肉】を一覧にまとめ、解剖学(起始停止、作用、神経支配)や筋トレやマッサージなどのやり方は、筋肉詳細ページで説明しています。

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