関節の動きと可動域

【肩関節複合体(肩甲帯)】可動域(ROM)と運動方向【イラストわかりやすい解剖運動学】

人体最大の可動域を持つ、「上腕骨」「肩甲骨」「鎖骨」「胸郭(胸骨と肋骨)」による4関節の複合関節【肩関節(肩甲帯)】解剖学構造と運動学(運動方向と可動域)についてイラスト図解でわかりやすく解説しています。

【肩関節複合体(肩甲帯)】とは?4関節の解剖学構造

【肩関節】は「上腕骨骨頭」と「肩甲骨関節窩」との球関節として説明されることが多いのですが、実際の運動においては、「肩甲骨」と関節を構成する「鎖骨」および「胸郭(肋骨・胸骨・胸椎)」を含めた体幹部と上肢の複合関節になっています。

つまり、【肩関節】の動きは、「上腕骨」「肩甲骨」「鎖骨」「胸郭」で構成される4関節の複合関節の相互作用によって決まります。

関節構成要素種類
関節窩上腕関節(GlenoHumeral (GH) Joint)「上腕骨」と「肩甲骨」球関節
肩鎖関節
(AcromioClavicular (AC) Joint)
「肩甲骨」と「鎖骨」平面関節
胸鎖関節
(SternoClavicular (SC) Joint)
「鎖骨」と「胸骨(胸郭前面)」平面関節
肩甲胸郭関節
(SternoClavicular (SC) Joint)
「胸郭(肋骨後面)」と「肩甲骨」機能関節

「関節窩上腕関節(GH)」「肩鎖関節(AC)」「胸鎖関節(SC)」は上肢を胸郭(体幹)とつなげる解剖学上の関節ですが、「肩甲胸郭関節」は「肩甲骨」が「胸郭」上を動く構造なので解剖学上「関節」ではありませんが、機能関節として他の関節と連動し、特定の運動方向があります。

【肩関節】の運動方向や可動域は、4関節にそれぞれに付着している筋肉、腱、靭帯の作用や状態によって決まります。

*「関節窩上腕関節」のみを【肩関節】と呼び、「肩鎖関節」「胸鎖関節」「肩甲胸郭関節」を「肩甲帯/胸帯/肩帯」と総称している文献等場合もありますが、このサイトはセルフケアをマスターするための参考書としてわかりやすくするため、【肩関節】を「上肢を体幹に接続するための4関節複合体」と考えます。

【関節窩上腕関節】基本構造と特徴

【関節窩上腕関節】とはいわゆる一般的に認識されている「肩関節」で、英語では【GlenoHumeral (GH) Joint】と表記します。

【関節窩上腕関節】解剖的には、お皿上の「肩甲骨関節窩」と球状の「上腕骨骨頭」をほぼ制限なく動ける「球関節」に分類され、人体関節の中で最も可動性がある一方、最も不安定な骨構造の関節である(脱臼しやすい関節)という特徴があります。

【肩関節】は上肢を体幹に接続した状態で安定して多様な方向に動かせる機能を持っていますが、【関節窩上腕関節】は上肢運動の自由度を優先した構造なので、【関節窩上腕関節】の不安定性を補強しながら多様な可動域を維持するために他の補助関節があり、また複数の筋肉や靭帯などが付着して構造の弱点を補強しています。

【肩鎖関節】基本構造と特徴

【肩鎖関節】は「鎖骨外側」と「肩甲骨肩峰」による「平面関節」で、英語では【AcromioClavicular (AC) Joint】と表記します。

【肩鎖関節】は「肩甲骨」を「鎖骨(を介して胸郭→つまり体幹)」と接続して「肩甲骨」と直接関節面を作りながら、「肩甲骨」に連動して動く「上腕骨(上肢)」を体幹に連結するサポートが主な目的の関節です。

【肩鎖関節】があることで、【肩関節複合体(肩甲帯)】運動において、「肩甲骨の回旋角度が増える」「腕の動きに連動して変化する胸郭の形状変化に応じて肩甲骨の位置を調整できる」「上肢から鎖骨へ外力が伝達される」などの機能を付加できます。

運動方向
内側(前側)を向いている肩甲骨面に対する垂直軸上方回旋/下方回旋
垂直軸内旋/外旋
矢上面前傾/後傾

肩関節挙上(屈曲または外転)時に「肩甲骨」は「肩峰」に対して約30°上方回旋し、肩関節内転/伸展時に肩甲骨は肩峰に対して約30°下方回旋します。

肩甲骨プロトラクション時に【肩鎖関節】が内旋、肩甲骨リトラクション時に【肩鎖関節】が外旋し、肩甲骨挙上時は【肩鎖関節】が前傾、下制時は【肩鎖関節】が後傾することで、湾曲した胸郭(肋骨)に沿った肩甲骨(肩甲胸郭関節)運動になります。

【胸鎖関節】基本構造と特徴

【胸鎖関節】は「鎖骨内側」と「胸骨の胸骨柄」による「平面関節」で、英語では【SternoClavicular (SC) Joint】と表記されます。

【胸鎖関節】の片側である「胸骨柄」は「肋軟骨」を介して「第1肋骨」とも接続しているので、「鎖骨」を介して「上肢(肩甲骨を介する)」を「体幹軸」に直接接続する唯一の関節で、靭帯で強固に連結されている人体で最も動きの少ない関節です。

【胸鎖関節】運動に直接作用する筋肉はありませんが、「肩甲骨」の動きに連動して動いたり、「鎖骨」に付着する筋肉を介して「鎖骨」が動きますので、【胸鎖関節】に過剰な外力が加わった場合、脱臼よりも「鎖骨骨折」の方が起こりやすい傾向があります。

運動方向
矢状面前方回旋/後方回旋
前額面挙上/下制
水平面プロトラクション /リトラクション

頭上まで腕を上げた(肩関節屈曲)時に「肩甲骨」は40-50°回旋しますが、「鎖骨靭帯」を介して「鎖骨」も連動するように回旋します。

また、「肩甲骨の挙上/下制」に連動し、「胸骨」との関節面で「鎖骨」は上方回旋しつつ骨接合を維持するため下方向へ滑りますが、角度は靭帯や肩甲挙筋の張力によって決まる挙上は最大45°で、下制は最大10° 程度で靭帯および第一肋骨との接触によって制限されます。

プロトラクションおよびリトラクションは、「鎖骨」の遠位端で接している肩甲骨プロトラクション(外転)およびリトラクション(内転)に連動して生じますが、靭帯や骨接合によってかなり制限されています。

プロトラクションでは、鎖骨内側凹面が胸骨凸面を前に滑るように移動し、鎖骨外側を前方回旋し、リトラクションでは鎖骨外側を後方回旋します。  

【肩甲胸郭関節】基本構造と特徴

【肩甲胸郭関節】は「肩甲骨前面」が「胸郭後壁(肋骨)」上を滑るように動く構造で、英語では【ScapuloThoracic joint (ST) Joint】と表記されます。

肩関節における上腕骨運動に連動して安定性や可動性を高める重要な役割があります。

【肩甲胸郭関節】は、他の関節のように「線維性」「軟骨性」「滑膜性」組織による結合がないので、厳密には解剖学上の関節ではありませんが、【肩関節複合体】における上腕骨運動に連動して安定性や可動性を高める重要な役割があります。

【肩甲胸郭関節】における「肩甲骨」の動きは、解剖学的関節構造を持つ「肩鎖関節」および「胸鎖関節」に連動して生じます。

つまり、【肩甲胸郭関節】を運動機能で見ると、「胸郭」と「胸鎖関節」および「肩鎖関節」また両方によるCKC(クローズド キネティック チェーン)と言え、これら3関節の動きは「上腕骨」に連動して動く「肩甲骨」の動きで評価します。

つまり、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」が連動することで、「肩甲骨」が単独で運動するのではなく、胸郭に沿って並進する自然な「肩甲骨(胸郭肩甲関節)」運動に調整ができる構造になっています。

【肩甲骨】が動いている、つまり「胸郭肩甲関節」の運動が生じている時は、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」が動いた結果なのですが、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」の動き(特に内旋/外旋と前傾/後傾)を観察・測定することは非常に難しいため、総合結果としての「肩甲骨(胸郭肩甲関節)」の動きを評価します。

【肩関節複合体(肩甲帯)】5つの骨

【肩関節(肩甲帯)】複合体には、「肩甲骨」「上腕骨」および「胸郭」構成要素でもある「鎖骨」「胸骨」「肋骨」5つの骨が含まれます。

上腕骨

【上腕骨】は「上肢」と「体幹」を繋ぐ「二の腕」の骨で、肩関節運動においては基本的に運動軸になります。

詳しくはコチラ!

肩甲骨

【肩甲骨】は、背中上部(肋骨上)に背骨を挟んで翼のように左右対称に存在し、「背骨」「胸郭」「肩甲骨」の相対的な位置関係は、背面(背中)から身体の状態や姿勢を評価する上で重要な指標になります。

【肩関節(肩甲帯)】における4関節うち、3関節(「肩鎖関節」「肩甲窩上腕関節」「肩甲胸郭関節」)の構成要素でもあり、肩や腕の運動における機能性や安定性に貢献しています。

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鎖骨・胸骨・肋骨(胸郭構造の一部)

「鎖骨」「胸骨」「肋骨」は高い安定性が特徴である「胸郭」構成要素で、「上腕骨」を「体幹」に接続しながら動かす「肩関節複合体」の安定性に大きく貢献しています。

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【肩関節複合体(肩甲帯)】運動方向と可動域の特徴

【肩関節複合体(肩甲帯)】は、人体関節最大の可動性を維持しつつも、空間で腕を止めたり、重いものを持ち上げたり、重力に対抗した高い位置で運動をするなど、高い安定性も両立しているハイブリット関節です。

可動性と安定性の両立とリスク

一般的に、「可動性」と「安定性」はトレードオフ(どちらかを優先すればどちらかが犠牲になる)関係にありますが、人体の関節には「可動性」と「安定性」をバランス良く両立するための優れた機能が多数標準搭載されています。

【肩関節複合体(肩甲帯)】も、広範囲の可動域と高い安定性を両立しているハイブリット関節です。

「上腕骨」を「体幹(胸郭および肩甲骨)」に安定して接続させつつも広範囲に動くハイブリット構造を支えているのが、【肩関節複合体(肩甲帯)】構造に加えて、周囲に付着する複数の筋肉、腱、靭帯で、特に最深層部で肩甲骨と上腕骨をつなぐ走行をしている『ローテーターカフ』と呼ばれる腱板構造が【肩関節複合体(肩甲帯)】の動的安定性を強固に支えています。

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【肩関節複合体(肩甲帯)】は、【肩関節複合体(肩甲帯)】の様々な機能や構造を備えていますが、それでも誤用や過用(疲労)でかかる負担が大きく、機能障害や怪我も起こりやすい関節でもあります。

運動評価要素:上腕骨と肩甲骨

【肩関節複合体(肩甲帯)】としての動きを正しく理解するために、各関節ごとの動きを整理していく必要がありますが、【肩鎖関節】【胸鎖関節】は「鎖骨」を介して「肩甲骨」を体幹に接続するのが主な役割なので、運動においては実質【肩甲胸郭関節】の「肩甲骨」の動きとしてまとめて評価します。

つまり、【肩関節複合体(肩甲帯)】の可動域は、「体幹(肩甲骨)に対する上腕骨の動き」と「胸郭上を動く肩甲骨の動き」を角度として算出しますが、「上腕骨」と「肩甲骨」の動きも相互連携しているため、「上腕骨」と「肩甲骨」の関係性を示した「肩甲上腕リズム」の理解も不可欠です。

肩甲上腕リズム:上腕骨と肩甲骨の相互連携

【肩甲上腕リズム】は、1930年代にCodmanが最初に発表した「上腕骨」と「肩甲骨」の運動学的な相互作用のことで、「上腕骨」と「肩甲骨」の動きの連動や関与割合の参考値が算出されているため、肩関節機能を最適化させるための評価指標として有効に活用できます。

例えば、肩関節屈曲(前方挙上)の最大参考可動域は180°程度ですが、この時の「関節窩上腕関節」の屈曲角度は100°〜120°で、肩甲骨が胸郭上を上方回旋して関節窩を50°〜60°上を向けることで、肩関節複合体として最大可動域の180°前方挙上を達成できます。

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【上腕骨】運動方向(関節可動域:ROM)

【肩関節複合体(肩甲帯)】は、複数の骨連結による複合関節として「上肢(上腕骨)」を「体幹」に安定させつつ広範囲に動かせます。

実際の運動では、「上腕骨」が最大可動域を達成するには「肩甲骨」の動きも含まれますが、まずは一番わかりやすい「身体を軸にした「上腕骨」の動きとして対になる(拮抗する)動き:5種類(10方向)」から整理しましょう。

運動面運動方向名説明
矢状面屈曲(前方挙上)

伸展(後方挙上)
腕を前から挙げたり降ろしたりする動き
前額面外転(側方挙上)

内転(体側に近づける)
腕を横から挙げたり降ろしたりする動き
横断面外旋⇄内旋腕を外側および内側にねじる動き
横断面水平屈曲(水平内転)

水平伸展(水平外転)
肩関節90°外転位から床と水平方向の動き
全面回転(分回し運動)肩を回す運動

*実際の運動時はこれらの複数の運動方向が組み合わさって起こる場合がほとんどです。

*以下の記事で記載している正常関節可動域(このサイトでは参考ROM、最大可動域などとも表記している)は、日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会による「関節可動域表示ならびに測定法」 による条件で測地した場合の参考値で、規定姿勢で測定した場合、筋肉の柔軟性や骨構造の個人差によって異なります。(このサイトのイメージ図は日常や普段の動きから関節の動きをイメージできることを優先して作成しているため、上記測定法の姿勢ではない場合もあります。)

矢状面:屈曲⇄伸展

【肩関節屈曲】と【肩関節伸展】は対になる(拮抗する)運動方向で、腕を真っ直ぐ降ろした気をつけの姿勢を基準とし、腕を前後へ挙上する動きです。

運動方向参考ROM主に作用する筋肉
肩関節屈曲180°三角筋前部
大胸筋鎖骨部
肩関節伸展45°三角筋後部
広背筋
大円筋

【屈曲】は「上腕骨」を前方から頭の上まで半月を描くように上げる運動で、【伸展】は屈曲のリバースアクションですが、ニュートラルポジションよりも更に後方へ「上腕骨」を動かすこともできます。

「肩関節屈曲」に主に作用する筋肉は「三角筋前部」と「大胸筋鎖骨部」ですが、「烏口腕筋」や外旋位での「上腕二頭筋短頭」や「棘上筋」も補助的に作用します。

「肩関節伸展」に主に作用する筋肉は「三角筋後部」「広背筋」「大円筋」ですが、「上腕三頭筋」も補助的に作用しています。

前額面:外転⇄内転

【肩関節外転】と【肩関節内転】は対になる(拮抗する)運動方向で、腕を真っ直ぐ降ろした気をつけの姿勢を基準にし、腕を外側(体側から離す方向)または内側(体側へ戻すまたは反対側の体側へ向かう)へ挙上する動きです。

運動方向参考ROM主に作用する筋肉
肩関節外転180°三角筋中部
棘上筋
肩関節内転45°大胸筋
広背筋
大円筋

【外転】は、腕を体側から横方向へ離していく動きで、屈曲(前方挙上)との区別を明確にするために「側方挙上」と呼ばれることもあります。

【内転】は外転のリバースアクションで、体側を横切って更に内転できます。

「肩関節外転(側方挙上)」に主に作用する筋肉は「三角筋中部繊維」と「棘上筋」ですが、外旋位での「上腕二頭筋長頭」や内旋位での「上腕三頭筋長頭」も補助的に作用します。

「肩関節内転」に主に作用する筋肉は「大胸筋」「広背筋」「大円筋」ですが、「肩甲下筋」「烏口腕筋」「上腕二頭筋短頭」も補助的に作用します。

横断面:水平屈曲(水平内転)⇄水平伸展(水平外転)

【肩関節水平屈曲(水平内転)】と【肩関節水平伸展(水平外転)】は対になる(拮抗する)運動方向で、腕を90°外転(側方挙上)した腕を床と水平に後側または前側へ動かす運動です。

運動方向参考ROM作用する筋肉
水平屈曲(水平内転)135°三角筋(前部)
大胸筋
烏口腕筋
肩甲下筋
水平伸展(水平外転)30°三角筋(中部・後部)
広背筋
大円筋
棘下筋
小円筋

【肩関節水平屈曲(水平内転)】に主に作用する筋肉は、「三角筋(前部)」「大胸筋」「烏口腕筋」「肩甲下筋」で、【肩関節水平伸展(水平外転)】に主に作用する筋肉は、「三角筋(中部・後部)」「広背筋」「大円筋」「棘下筋」「小円筋」です。

横断面:外旋⇄内旋

【肩関節外旋】と【肩関節内旋】は対になる(拮抗する)運動方向で、「上腕骨」が「上腕骨」自体を軸として回旋する運動です。

運動方向参考ROM作用する筋肉
肩関節内旋80°大胸筋
肩甲下筋
大円筋
広背筋
肩関節外旋60°棘下筋
小円筋

【肩関節外旋】は身体の中心から離れる方向への回転で、【肩関節内旋】は身体の正中線へ向かう方向の回転です。

【肩関節外旋】に主に作用する筋肉は「大胸筋」「肩甲下筋」「大円筋」「広背筋」ですが、「三角筋後部繊維」も補助的に作用します。

【肩関節内旋】に主に作用する筋肉は「棘下筋」「小円筋」ですが、「三角筋前部繊維」も補助的に作用します。

全面:回転(分回し)運動

「肩関節」は、「上腕骨頭」を関節面に安定させたまま腕全体を回転させて肘(もともと回転運動ができない関節)や手まで含めた上肢全体で円を描く「回転」運動もでき、広さや方向は自由に調整できます。

「肩関節の回転運動」は「外旋⇄内旋運動」と混同しがちですが、「回転運動」は3面での複合運動なので明確に区別できます。

【肩甲骨】運動方向(関節可動域:ROM)

【肩関節複合体(肩甲帯)】運動において「肩甲骨」は「上腕骨」の動きに連動します。

「肩甲胸郭関節(機能関節)」における「肩甲骨」の動きは単独運動ではなく、解剖学上の関節である「肩鎖関節」および「胸鎖関節」との複合運動によって生じていて、「胸郭」に沿った動きであることを理解することがとても重要です。

運動運動方向名説明
複合挙上⇄下制「胸郭」と並進して上方または下方へ移動する運動
複合プロトラクション⇄リトラクション「胸郭」と並進して「肩甲骨」が「脊柱」から離れたり元の位置に戻る運動
前額面内転⇄外転「肩甲骨」が「肋骨」上を左右にスライドして「背骨」に近づいたり離れる運動
(実質的には「プロトラクション/リトラクション」の一部)
矢上面前傾⇄後傾「関節窩」が前または後ろに傾く運動
複合内旋⇄外旋「胸鎖関節」のプロトラクションおよびリトラクションの際に「肩鎖関節」が連動せず湾曲した「胸郭」に沿って「肩甲骨」が動く運動
複合上方回旋⇄上方回旋「関節窩」が上または下を向く方向に「肩甲骨」が「胸郭」上を動く運動

【肩甲骨】が動いている、つまり「胸郭肩甲関節」の運動が生じている時は、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」が動いた結果なのですが、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」の動き(特に内旋/外旋と前傾/後傾)を観察・測定することは非常に難しいため、総合結果としての「肩甲骨(胸郭肩甲関節)」の動きを評価します。

 基準となる【肩甲骨】ニュートラルポジション

【肩甲骨】は「上腕骨」の動きや姿勢(胸郭)の変化に応じて肋骨面に沿って多様な方向へ動きますが、運動や姿勢評価の基準となる【肩甲骨】ニュートラルポジションをまずおさえておきましょう。

 目安位置
内側縁と背骨間の距離6cm程度外側
長さ第2〜第7肋骨(T2〜T7-T9棘突起レベルで個人差あり)
前額面回旋30° 〜45°内旋
矢上面傾斜角度10°〜20°前傾
上方回旋角度背骨を垂直軸として2°〜 3°

ただし、かなり個人差がありますので、あくまで参考となります。

挙上⇄下制

【肩甲骨挙上】と【肩甲骨下制】は、【肩甲骨】ニュートラルポジションから「胸郭」と並進して上方または下方へ移動する運動のことです。

【肩甲骨挙上および下制】は「肩鎖関節」および「胸鎖関節」との複合運動によって生じますが、「胸鎖関節」が「鎖骨」を挙上する動きに追従して「肩鎖関節」で「前傾/後傾」や「内旋/外旋」による微調整が加えられることで、「胸郭」と接したまま「肩甲骨」が上方または下方に移動できます。

運動方向特徴作用する筋肉
肩甲骨挙上胸郭と並進した上方移動僧帽筋(上部)
肩甲挙筋
菱形筋
肩甲骨下制肩甲骨挙上のリバースアクション
(胸郭と並進した下方移動)
僧帽筋(下部)
小胸筋

【肩甲骨挙上】はいわゆる「肩をすくめる動き」に含まれる運動で、肩こりの原因筋としても有名な「僧帽筋(上部)」「肩甲挙筋」「菱形筋」が主動作筋になります。

【肩甲骨下制】は【肩甲骨挙上】のリバースアクションで、「僧帽筋(下部)」「小胸筋」「鎖骨下筋」など意識しにくいまたは小さい筋肉が主動作筋なので、「広背筋」や「大胸筋」も補助的に作用しています。

【肩甲骨下制】はバーベルなど重いものを持ち上げた後やドリフターズのヒゲダンスの時に生じる肩甲骨の動きに含まれますが、普段の生活では意識しにくい運動で、意識しても動作が難しいため、「肩甲骨」が挙上した状態が固定化して「肩こり」などに悩む人が多い傾向があります。

内転⇄外転

【肩甲骨内転】と【肩甲骨外転】は「肩甲骨」が肋骨上を左右にスライドするような動きで、身体の中心となる「背骨」に近づいていたり「背骨(脊柱)」から離れたりします。

運動方向特徴作用する筋肉
肩甲骨内転「肩甲骨」が「背骨(脊柱)」に近く菱形筋
僧帽筋
肩甲挙筋
肩甲骨外転「肩甲骨」が「背骨(脊柱)」から離れる前鋸筋
小胸筋

「肩甲骨」が「背骨(脊柱)」に近づく【肩甲骨内転】運動には「菱形筋」「僧帽筋」「肩甲挙筋」が主に作用し、反対方向の【肩甲骨外転】には「前鋸筋」「小胸筋」が主に作用し、「大胸筋」も補助的に作用します。

実際の運動において【肩甲骨内転】と【肩甲骨外転】のように「肩甲骨」が独立して動くことはほとんどなく、「肩鎖関節」および「胸鎖関節」と連動して胸郭上を肋骨の形に沿って動くため、【肩甲骨内転】は【肩甲骨プロトラクション 】、【肩甲骨外転】は【肩甲骨リトラクション 】に含まれる運動要素のひとつとなります。

プロトラクション⇄リトラクション

【肩甲骨プロトラクション】は、「肩鎖関節」と「胸鎖関節」の水平面における回旋運動の結果、「胸郭」と並進して「肩甲骨」が「脊柱」から離れる動きです。

【肩甲骨リトラクション】はプロトラクションのリバースアクションで、いずれも「肩甲骨」単独運動(外転/内転)ではなく、背骨(胸椎)の動きも伴う「肩鎖関節」と「胸鎖関節」の結果であることが非常に重要なポイントです。

運動方向特徴作用する筋肉
プロトラクション「肩甲骨」が「胸郭」に沿って「背骨」から離れる小胸筋
前鋸筋
リトラクションプロトラクションのリバースアクション菱形筋
僧帽筋

仮に「肩甲骨」が単独で背骨から離れる運動をする場合、「肩甲骨」の内側縁のみが「胸郭」に接して「関節窩」は横向きのまま外側に移動することになりますが、実際の運動、つまり【肩甲骨プロトラクション】では肩甲骨前面全体が胸郭に接したまま背骨から離れるように移動し、最終可動域では「関節窩」は前方を向きます。

「肩関節複合体」としての機能を包括的に見ると、「胸鎖関節」プロトラクションに追従するように【肩甲骨プロトラクション】が起こり、「肩鎖関節」の「内旋/外旋」と「胸鎖関節」の「プロトラクション /リトラクション」を伴うことで、「肩甲骨(肩甲胸郭関節)」は「肋骨」形状に沿った並進運動になっていて、「胸鎖関節」プロトラクションにより前方のリーチ範囲が拡大します。

【肩甲骨プロトラクション】は、身体の前で腕を組む時、手を伸ばしたりパンチする時、うずくまったり何かに抱きつく時などに生じる動きとしてとても重要ですが、 スマホやパソコンを使っている時になりやすい姿勢(巻き肩)で生じやすい運動方向でもあるので、意識しながら姿勢を整える(リトラクションする)ことで、猫背・首こり・肩こりなどを予防できます。

【肩甲骨リトラクション】はプロトラクションのリバースアクションで、左右の「肩甲骨」を背骨に近づける方向への運動なので、物を自分の方へ引き寄せる時や手を後ろで組む時などに重要な動きです。

上方回旋⇄下方回旋

【肩甲骨上方回旋】と【肩甲骨下方回旋】とは、「上腕骨」を挙上または下制する時に重要な動きで、【肩甲骨上方回旋】および【肩甲骨下方回旋】運動には、「胸鎖関節」の「挙上/下制」と「後傾/前傾」、「肩鎖関節」の「上方回旋/下方回旋」の複合運動によって生じます。

「肩関節複合体」の運動において「上腕骨」挙上角度に合わせて「肩甲骨」の動きが一定の法則を持って連動することを「肩甲上腕リズム」といいますが、【肩甲骨上方回旋】と【肩甲骨下方回旋】は「肩甲上腕リズム」を理解する上でも重要な「肩甲骨」の動きです。

「上腕骨骨頭」と「肩甲骨関節窩」が作る「関節窩上腕関節」は、「肩関節複合体」で主体となる動きをする関節ですが、「上腕骨」挙上角度に合わせて「肩甲骨上方回旋」または「下方回旋」することで関節面が最適化され、「上腕骨」の挙上角度や「肩関節複合体」の安定性を高めています。

運動方向特徴作用する筋肉
肩甲骨上方回旋前額面で関節窩が上を向く前鋸筋
僧帽筋上部繊維
肩甲骨下方回旋前額面で関節窩が下を向く菱形筋
僧帽筋下部繊維

【肩甲骨上方回旋】は「肩甲骨関節窩」が上を向く方向に「胸郭」上を動くこと(下角が外側に移動しつつ肩峰が上方傾斜)です。

「上腕骨」挙上時に、最大約60°程度と広い可動域を持っている【肩甲骨上方回旋】加わることで、「関節窩」に「上腕骨骨頭」を安定させながら「肩関節複合体」において「上腕骨」の挙上角度(可動域)を増やして頭上(肩関節180°挙上位)での上肢活動が可能になります。

【肩甲骨下方回旋】は、【肩甲骨上方回旋】のリバースアクションとして挙上した腕を下ろす時に生じる「肩甲骨」の動き(下角が内側に移動しつつ肩峰が下方傾斜)で、「肩甲骨」下端部を「胸郭」からわずかに持ち上げることもできるため、後ろポケットに手を入れるような動作が可能になります。

前傾⇄後傾

【肩甲骨前傾】と【肩甲骨後傾】は、「矢上面」で「関節窩」が前後に傾く動きです。

運動方向特徴
肩甲骨前傾矢上面で関節窩が前に傾く
肩甲骨後傾矢上面で関節窩が後ろに傾く

「胸鎖関節」は「前方回転/後方回転」を伴う「肩鎖関節」の動きによって生じるので、「肩甲骨」の動きとして目視するのは難しいですが、「肩関節複合体(肩甲帯)」運動において、「肩甲骨」を「胸郭」上に接続したままにするために重要な役割をしている運動です。

「肩鎖関節」での制御が乱れると過度な【肩甲骨前傾】が生じて「肩甲骨下角」が目立つようになり、神経損傷が疑われます。

また、極端な不良姿勢でも異常な【肩甲骨前傾】が生じる場合があります。

内旋⇄外旋

【肩甲骨内旋】と【肩甲骨外旋】は、「胸鎖関節」の「プロトラクションおよびリトラクション」の際に「肩鎖関節」が伴わず、湾曲した「胸郭」に沿って「肩甲骨」が動く運動で、臨床診断において重要な動きです。

運動方向特徴
肩甲骨内旋「肩鎖関節」が伴わない「胸鎖関節」プロトラクションに連動する肩甲骨の動き
(肩甲骨の内側縁が胸郭から浮く)
肩甲骨外旋肩甲骨内旋のリバースアクション

【肩甲骨内旋】では「肩甲骨」内側縁が「胸郭」から浮くので、過度な【肩甲骨内旋】は【翼状肩甲】とも呼ばれ、神経障害や前鋸筋麻痺などが疑われます。

【肩甲骨外旋】は【肩甲骨内旋】のリバースアクションです。

【肩関節複合体(肩甲帯)】筋肉(骨格筋)

【肩関節複合体(肩甲帯)】運動方向は、姿勢(背骨や胸郭)の動きと連動するため、運動を起こす際には広範囲の筋肉が作用します。

肩の痛みやこり、肩こりや腕の上がりにくさの原因は、姿勢に対する「肩甲骨」の動きを評価することで、問題の原因となる筋肉を特定して、効果的なコンディショニングができます。

【肩関節複合体(肩甲帯)】の解剖学構造を理解することで、「肩甲骨はがし」や「肩甲骨マッサージ」を自分でも効果的に行えるようになります。

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