コアマッスルのコア!【横隔膜】解剖学(起始停止・作用・神経支配)をイラスト図解を用いてわかりやすく解説しています。
【横隔膜】とは?どこにあるどんな筋肉?
【横隔膜(おうかくまく)】は、腹腔と胸腔を横断して隔てるような膜状の構造の筋肉(胸腔底面かつ腹腔上面)で、焼肉の部位でいうと「ハラミ」に当たります。
英語でも「隔膜」や「隔壁」という意味を持つ【Diaphragm】という名前がついていますが、胸郭(胸腔)の底辺部分を構成する要素なので、「Thoracic Diaphragm」と呼ばれることもあります。
読み方(ふりがな) | 英語 | |
---|---|---|
横隔膜 | おうかくまく | (Thoracic) Diaphragm |
【横隔膜】の主な作用は肺が空気を取り込めるように胸郭を広げることで、「呼吸(吸気)の主動作筋」であり、安静時呼吸のほとんどは【横隔膜】の作用です。
【横隔膜】は、コア構造である機能ユニット【インナーユニット】上面を構成する、まさにコア中のコアと言える筋肉なので、【横隔膜】を効果的に鍛えれば、声量アップ、姿勢改善、呼吸を深める、肩こり改善、疲れにくい身体作りなど様々な効果が期待できます。
【横隔膜】起始停止
【横隔膜】は胸郭を構成する前後左右の3つ骨(胸骨・肋骨・腰椎)から起始する筋腱構造(シート上の筋肉)が中心に集まるように走行して、「横隔膜腱中心」で停止します。
部位 | 脚 | 起始 | 停止 |
---|---|---|---|
胸骨部 | N/A | 剣状突起後面および腹直筋鞘の後葉 | 腱中心 |
肋骨部 | N/A | 第7~12肋骨および肋軟骨内面(肋骨弓) | 腱中心 |
腰椎部 | 内側脚 | L1 - L3/4 椎体(および椎間板)・前縦靭帯 | 腱中心 |
腰椎部 | 外側脚 | 内側および外側弓状靭帯(腰肋弓) | 腱中心 |
【横隔膜】起始は3つ骨(胸骨・肋骨・腰椎)にあり、前方は「胸骨剣状突起」と「肋骨縁」、外側は「第11~12肋骨」、後方は「腰椎」からそれぞれ中心に向かって走行します。
後方の腰椎付着部は【右脚と左脚】と呼ばれる腱帯となり、それぞれの内側脚は第1から第3腰椎椎体前面、外側脚は内側および外側弓状靭帯(腰肋弓)に停止します。
【横隔膜】中心部には血管と食道の通り道である3つの孔(大動脈裂孔・食道裂孔・大静脈裂孔)あり、【横隔膜】の上には「両側の肺」と「縦隔」、右下には「肝臓」、左側下には「胃」が接しています。
【横隔膜】解剖学構造と位置
【横隔膜】は、他の骨格筋のように左右対になった構造ではなく、上に凸のドーム状に「胸郭下面(腹腔上面)」を構成していることが大きな特徴です。
【横隔膜】には2つの面があり、上面で「胸郭」下面を構成すると同時に、下面で「腹腔(インナーユニット)」の上面を構成しますので、【横隔膜】上面は心臓と肺の漿膜(心膜と胸膜)およびと縦隔接していて、【横隔膜】下面では、右下に「肝臓」、左下で「胃」や「脾臓」と直接接しています。
器官 | 神経 | |
---|---|---|
大静脈裂孔 | 下大静脈 | 右横隔神経の枝 |
食道裂孔 | 食道 | 迷走神経幹 |
大動脈裂孔 | 下行大動脈、奇静脈、胸管 |
【横隔膜】上面には左右2つの凸構造がありますが、「腎臓」がある右側の方が左側より少し高めになっていて、2つの凸構造の間の「心膜」の作用によるわずかな凹みがあります。
更に、【横隔膜】は胸腔から腹腔を通過する器官の通り道を提供していて、「大静脈裂孔」「食道裂孔」「大動脈裂孔」と呼ばれる3つの開口部があり、心臓と直接つながる血管(「下行大動脈」と「下大静脈」)や「食道」「迷走神経」などが通過します。
【横隔膜】働き(作用)
【横隔膜】の主な役割は、肺が空気を取り込めるように胸郭を広げて呼吸(吸気)運動を行うことで、安静時呼吸はほとんど【横隔膜】の作用だけで行われます。
人間は食事をしなくても2~3週間は生きられ、水を飲まなくても4~5日は生存できると言われていますが、呼吸が止まれば5分程度で死に至ります。
私たちは毎日安静にしていても23,000回ほど呼吸を繰り返していますが、安静時呼吸の70~80%が【横隔膜】の作用によるものです。
横隔膜作用 | 胸腔内変化 | 肺 | 呼吸 |
---|---|---|---|
収縮(平らになる) | 胸郭底が下がり胸郭が広がる(胸腔内が陰圧になる) | 肺が拡張する | 吸息 |
弛緩 | 胸郭容積が減少(肺内圧が上昇) | 空気が肺から流出 | 呼息 |
【横隔膜】が収縮するとドーム状の横隔膜が平になり、胸郭が拡張して胸郭が広がると肺内圧が低下しますので、肺が拡張して「吸息」が発生します。
反対に、【横隔膜】が弛緩すると胸郭容積が減少するので、肺内圧が上昇して空気が肺から流出することで「呼息」が生じます。
【横隔膜】が収縮して胸腔を広げることで息を吸う働き(吸息)が生じますが、【横隔膜】の柔軟性や機能が低下すると、呼吸に補助的に作用している胸郭や肩周りの骨格筋に負担がかかり、呼吸機能や発声(声量)はもちろんや姿勢を含めた全身機能に影響します。
呼吸補助筋(胸郭を広げて呼吸をサポートする筋肉)は、首や肩甲帯に作用する筋肉でもあるので、【横隔膜】の機能低下が肩こりや首こりの原因になることもあります。
また、【横隔膜】は胸腔を調整して呼吸に関与すると同時に、「腹筋群」と共に腹腔内圧を調整する作用もあり、嘔吐、排便、排尿、出産などの際にも働きますし、インナーユニット(腹腔)上部を構成する筋肉として、運動時や姿勢を保持するため機能ユニットとしても重要な役割があります。
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【横隔膜】神経支配
【横隔膜】は「横隔神経(C3-C5)」支配で、【横隔膜】腹側面から【横隔膜】を通過してから支配しています。
腱中心部分の感覚(痛みと固有受容)も「横隔神経」支配ですが、末梢部分は6番目から11番目の「肋間神経」支配です。
【横隔膜】触診
【横隔膜】は「胸腔」と「腹腔」の間を水平に走行している筋肉で、通常は上に凸になっていますが、息を吸う時に「胸郭」を広げるので平になるようなイメージで収縮します。
「肋骨」の下からえぐるように手を入れて呼吸をすると【横隔膜】収縮が確認できますが、内臓を囲むように深層内部にあるため、周辺臓器や神経血管構造に十分配慮して行いましょう。
【横隔膜】ストレッチとトレーニング
【横隔膜】を効果的に鍛える方法として一番有効なのは、【横隔膜】の作用を意識した呼吸です。
吸息 | 吐息 |
---|---|
横隔膜を下げる(収縮させる) | 横隔膜を上げる(弛緩させる) |
空気を肺に入れる | ゆっくり息を吐き出す |
【横隔膜】の解剖学的構造を意識して呼吸を繰り返しますが、「ゆっくり長く」を意識して息の出し入れをするとより効果的です。
【横隔膜】をしっかり使えた深い呼吸はリラックス効果が高く、全身の緊張が解け、コアマッスル全体を連動して使うので循環が良くなり、体がポカポカと温かくなるのを実感できるはずです。
「呼吸が浅くなりがち」「パソコン作業などで肩こりがひどい人」なども、【横隔膜】の働きを意識した呼吸をする時間をとるだけで、脳も身体もリフレッシュできます。
【横隔膜】は赤ちゃんが生まれて初めて筋トレする筋肉
誰でも人生初の筋トレは「横隔膜」から始まりました。
お母さんのお腹の中から出てきた瞬間から赤ちゃんはある方法で【横隔膜】トレーニングを実践して、【横隔膜】を鍛えてます。
【横隔膜】を鍛えることで、徐々に連動する他の筋肉の筋トレができるようになり、様々な姿勢や動作ができるようになっていきます。
【横隔膜】とインナーユニット(腹腔)
【インナーユニット】とは、腹腔(骨格で囲まれていない体幹部分)を上下左右から囲むように覆う機能構造単位(機能ユニット)のことで、「横隔膜」「腹横筋」「多裂筋」「骨盤底筋群」の4筋で構成されます。
筋および筋グループ | |
---|---|
上面 | 横隔膜 |
側面 | 腹横筋(内腹斜筋後部線維も含む場合あり) |
後面 | 多裂筋(最長筋と腸肋筋の腰部も含む場合あり) |
下面 | 骨盤底筋群 |
【インナーユニット】は、腹部にある大切な臓器(消化器や生殖器など)が正常に働ける空間を作る壁となるだけでなく、可動性を保ちながら体幹(コア)を安定させて、身体に負担の少ない正しい姿勢(背骨の正しいアライメント)を維持する役割があります。
腹腔をぐるりと腹巻やコルセットのように囲む構造の「腹横筋」は背中の筋肉(背筋群)を取り巻く結合組織(胸腰筋膜)に接続し、「腹横筋」が収縮することで体重を支える腰椎が安定します。
【インナーユニット】を構成する筋肉群の詳細構造(起始停止・作用・神経支配など)は、筋肉解剖学のページで詳細を解説しているので確認してみてください。
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