「身体が硬い人」と「身体が柔らかい人」の身体にはどんな違いがあるのか、「柔軟性」の定義に基づく正しいストレッチのやり方がわかるように、イラスト図解を用いて解剖学と運動学の観点からわかりやすく解説します。
【柔軟性】とは?「身体が柔らかい」ってどういうこと?
「柔らかい身体」を目指してストレッチやヨガに励む人はたくさんいますが、そもそも「身体の柔らかさ(柔軟性)」とは何か理解して自分に適した効果的なエクササイズができている人はあまりいません。
「柔軟性」を解剖学や生理学の観点から正しく理解することで、自分の身体の柔軟性を、必要に応じて、正しく、かつ効果的に高める方法がわかるようになります。
柔軟性の定義
【柔軟性(Flexibility / Mobility)】は、Gummerson によると「パートナーまたはその他器具を使って瞬間的な努力で到達する関節または連続する複数の関節の絶対的な可動域」と定義されています。
【柔軟性(Flexibility)】とは、「身体全体の柔らかさ」を定義するものではなく、「特定の関節の一時的な動きに注目していること」と「関節の特定の動作ごとに異なる」ことが重要なポイントで、特定の関節の特定の運動方向に「柔軟性」があっても、他の関節では「柔軟性」がないこともあります。
例えば、「股関節」には複数の運動方向があり、「股関節前後開脚の柔軟性」と「股関節左右開脚の柔軟性」は同時に定義することもできません。
つまり、「身体が硬い(柔軟性がない / 低い)」とか「身体が柔らかい(柔軟性がある / 高い)」という表現は不適切で、【柔軟性】を表現する時は、常に特定の関節と特定の運動方向を定義する必要があるので、【柔軟性】とは【ある関節の作用(動きの方向)ごとに異なるそれぞれの最大可動域】と表現した方がわかりやすいかもしれません。
関節ごと、また関節の作用ごとに関与する筋肉や関節周辺組織構造が変わるという筋肉骨格系の解剖学および運動学の基礎を理解してれば当たり前と思える事実なので、関節構造や筋肉の作用についても合わせて整理しましょう。
【柔軟性】種類
【柔軟性】とは「各関節の動作ごとに最大努力で達成しうる最大可動域のこと」と定義できますが、最大可動域に達するまでの過程で、【柔軟性】を3種類に分類できます。
大きな分類としては、動きを伴う「動的(dynamic)柔軟性」と動きを伴わなずに姿勢を維持する「静的(static)柔軟性」の2種類があり、「静的(static)柔軟性」は筋肉の使い方(ポジション保持方法)により更に2つに分類できます。
種類 | 説明 |
---|---|
動的柔軟性 Dynamic Flexibility (Kinetic Flexibility) |
運動時に動かせる関節最大可動域 |
静的受動柔軟性 Static-Passive Flexibility (Passive Flexibility) |
自分の体重や床などの補助を使ってポジションを維持できる最大可動域 |
静的能動柔軟性 Static-Active Flexibility (Active Flexibility) |
特定の筋肉が収縮して拮抗筋がストレッチされた姿勢を補助なしで維持できる最大可動域 |
動的柔軟性
【動的柔軟性(Dynamic Flexibility またはKinetic Flexibility)】は、いわゆる運動をするときに動かすことができる最大の関節可動域のことです。
最大関節可動域が小さい(動的柔軟性が低い)ほど動きが小さくなり、最大関節可動域が大きい(動的柔軟性が高い)ほどより大きく身体が動かせます。
静的受動柔軟性
【静的受動柔軟性(Static-Passive FlexibilityまたはPassive Flexibility)】は、自分の体重や床などの補助を活用して維持できる最大可動域のことです。
「動的柔軟性」の範囲で変化させた可動域を補助を使って一定時間保持できる能力なので、一般的に「柔軟性(身体の柔らかさ)」の指標に使われています。
静的能動柔軟性
【静的能動柔軟性(Static-Active FlexibilityまたはActive Flexibility)】とは、特定の筋肉(群)および相互作用する筋肉(群)を収縮させ、同時に拮抗筋(群)をストレッチした状態で、なんらの補助を使わずに姿勢を維持できる最大可動域のことです。
【静的能動柔軟性】は、「静的受動柔軟性」要素に加えて、補助なし(つまり空間で)姿勢を維持する筋力も必要になりますが、スポーツパフォーマンスなど実際の運動要素を高めるには、【静的能動柔軟性】を高める必要があります。
【柔軟性】を決める要素
【柔軟性】の定義と種類がわかったところで、【柔軟性】を決める要素を内部要素(関節要素)と外部要素(関節外要素)に分けて細かく見ていきましょう。
内部要素
【柔軟性】とは「関節の運動方向ごとの最大可動域」なので、解剖学的には、「関節(骨結合)構造」「関節の動きに関連する筋肉や結合組織」そして、「それらを囲む脂肪などの皮下組織や皮膚」などが影響します。
種類 | 説明 |
---|---|
関節構造 | 関節の種類(内部抵抗や骨構造など) |
筋肉(骨格筋) | 筋肉(骨格筋)の量や弾性 |
周辺組織 | 腱、靭帯、結合組織、筋膜、脂肪組織、皮膚の弾力性 |
脳神経機能神 | 骨格筋(運動方向)を制御する機能 |
体温 | 1〜2度上昇すると柔軟性が向上 |
関節を構成する骨は骨折や骨変形がない限りは変わりませんので、【柔軟性】が変化させる最大の要素は、関節運動に作用する「筋肉」および関節の内部抵抗を減らす「結合組織」の状態です。
「関節可動域」に影響する結合組織はたくさんありますが、M. Alterによると特に「関節包」「靭帯」「筋膜」の影響がほとんどです。
要素 | 割合 |
---|---|
関節包と靭帯 | 47% |
筋膜 | 41% |
腱 | 10% |
皮膚 | 2% |
「関節包」「靭帯」「腱」は関節を安定させるための構造なので過剰に伸張させてしまうと関節の安定性が壊れてしまいますので、「柔軟性」を高めるために「筋肉」と共に注目すべき結合組織は「筋膜」になります。
ストレッチなどで関節を可動域を意識したときに感じる抵抗は、「筋肉」が伸張されると同時の起こる周辺の結合組織(主に筋膜)の状態によりますが、「筋膜」は「筋肉(骨格筋)」よりも伸張を感じる受容器が多いので、ほとんどの抵抗は「筋膜」といっても過言ではありません。
加齢による変化や、関節の誤用、無用、過用などで結合組織は適切に使われないと(使わなすぎも過剰な負荷もNG)、結合組織の化学変化で抵抗が増え、より「身体が硬い」と感じるようになりますし、実際に最大可動域(柔軟性)も低下します。
【柔軟性】を向上させるには、結合組織(筋膜)も含めた関節構造を理解した上で、正しい運動方向と負荷で、ストレッチなどのトレーニングを行う必要があります。
外部要素
【柔軟性】は、年齢や性別、怪我の既往や生活習慣などの外部要因よっても変化する可能性はあります。
要素 | 説明 |
---|---|
気温や室温 | 温度が高いほど柔軟性が向上する |
日内変動 | 朝起きたばかりは柔軟性が低い 午後2:30pm-4pmごろが最も柔軟性が高くなる |
怪我や損傷の既往 | 損傷した関節や筋肉などの柔軟性は低下 |
年齢 | 成人よりも子供の方が柔軟性が高い |
性別 | 一般的に男性よりも女性の方が柔軟性が高い |
運動能力や努力 | 柔軟性はトレーニングで変化する |
衣類 設備環境 |
筋肉や関節の動きを制限する要素になる |
様々な内部および外部要因による制限が多いほど、柔軟性改善までにかかる時間や労力は増えますが、正しい方法でトレーニングを行えば、年齢や性別を問わず誰でも柔軟性を向上や改善ができます。
【柔軟性】を高めるストレッチを行う時は、正しい解剖学知識に合わせて、リラックスできて動きやすい衣類や環境を用意するなどの基本的な注意事項は誰にでも共通です。
【柔軟性】を高めるトレーニング
目的や現在の自分の状態に合わせて、安全かつ効果的に【柔軟性】を高めるための、最適なストレッチ選びや行う順番などを正しく判断できるように、まずは関節の解剖学や運動学を学びましょう。
【柔軟性】を高めるためのストレッチの種類や方法、効果を高めるための筋トレとの組み合わせや順番などは以下の記事でまとめています。