「筋肉の種類」「筋肉の役割」「骨格筋の収縮と弛緩」「速筋と遅筋(筋肉痛と年齢差、瞬発力と持久力)」「インナーマッスルとアウターマッスルの違い」 「筋肉と姿勢変化や運動パフォーマンスとの関係」など、人体で唯一自分の思い通りにサイズやパフォーマンスレベルを調整できる組織である筋肉(骨格筋)の仕組みや構造に関する基礎知識ををわかりやすく解説しています。
【筋肉(骨格筋)】人体で唯一!自分の思い通りにデザインできる組織
【筋肉(骨格筋)】は、人体で唯一!自分の思い通りにサイズやパフォーマンスレベルを調整できる組織です。
そんな【筋肉(骨格筋)】にも様々な種類があり、その性質や効果的な鍛え方が異なります。
目的のパフォーマンスを出したり、理想通りのボディラインにボティメイクする時に、「どの筋肉をどういう方法で鍛えるべきか」を考えるための前提知識として知っておきたい「筋肉」の基礎知識(解剖学と生理学)についてまとめました。
- そもそも「筋肉」とは?
- 【筋肉(骨格筋)】の役割は?
- 【筋肉(骨格筋)】にはどんな種類があるの?
- 【筋肉(骨格筋)】が収縮すると運動や姿勢などどんな変化が起こる?
- 【筋肉(骨格筋)】の起始停止って何?
【筋肉(骨格筋)】の「種類」「役割」「解剖学構造(起始停止、作用、神経支配)」「収縮と弛緩」「速筋と遅筋」「インナーとアウター」 「姿勢変化」「運動パフォーマンス」「ボディメイク」違いや仕組みを解説しています。
人体には3種類の「筋肉」がある
私たちの身体の構成要素になっている筋肉は3種類あります。
筋肉の種類 | 役割 | 意識的なコントロール |
---|---|---|
骨格筋 | 主に骨に付着して姿勢保持や意識的な運動などを行う | 可能(随意筋) |
平滑筋 | 内臓を構成する | 不可能(不随意筋) |
心筋 | 心臓を構成する | 不可能(不随意筋) |
骨格筋
筋肉として一番認識しやすいのが、主に骨に付着して姿勢や運動をコントロールする「骨格筋」です。
「骨格筋」は自分の意思でコントロールできる「随意筋」で、人体にある筋肉のうち、私たちが普段意識的な運動や活動に使ったり、鍛えたりしようとしている筋肉は、すべて意識的にコントロールできる「骨格筋」になります。
このサイトで主に解説している筋肉は、自分の思い通りにサイズやパフォーマンスレベルを調整できる組織である「骨格筋」です。
平滑筋
内臓を構成する筋肉は「平滑筋」に分類されます。
生命維持装置である内臓の構成要素である「平滑筋」は自分の意思で操作できる筋肉ではないため、「不随意筋」と呼ばれます。
心筋
内臓の中でも、血液循環の要となる心臓を構成する筋肉は「心筋」に分類されます。
生命維持装置である心臓の構成要素である「心筋」は自分の意思で操作できる筋肉ではないため、「不随意筋」と呼ばれます。
【筋肉(骨格筋)】5つの役割!
【筋肉(骨格筋)】というとスポーツ選手やボディビルダーのような隆々と鍛え上げられた身体を連想し、普通の人の健康や生活パフォーマンスにはあまり関係ないと考えがちですが、私たちが普段姿勢を維持し、呼吸をして、血液を循環させ、生命を維持できるのも【筋肉(骨格筋)】が正常に作用しているからです。
【筋肉(骨格筋)】を大きくまとめると5つの役割があります。
- 姿勢(シルエットや運動軸)を作る
- 熱を作る(体温を上げる)
- 循環を作る(体内物質の貯蔵や運搬)
- 外部の衝撃から内臓や骨格を守る
- 運動を起こす
姿勢(シルエットや運動軸)を作る
【筋肉(骨格筋)】は人体の柱である骨格(骨や関節)を覆うように存在し、私たちの「見た目(シルエット)」や「姿勢」を決める要素です。
骨と骨によって作られる骨格や関節周りに筋肉が付着していること、そしてその筋肉群が収縮(作用)することによって、臓器を収める空間を維持しながら、歩行など様々な日常生活動作を行う基本姿勢(運動軸)を構成できます。
また、「まっすぐに伸びた背中」「逆三角形を作る肩の膨らみ」「キュッと上がったお尻」「引き締まったふくらはぎ」「厚い胸板」など「魅力的な姿勢やボディラインのシルエット」を決めるもの「骨格筋」ですし、「猫背」や「出っちり」など貧弱な身体や姿勢になるの、「腰痛」「肩こり」「眼精疲労」などの悩みを引き起こすのも「骨格筋」のアンバランスや機能低下が原因です。
熱を作る(体温を上げる)
【筋肉(骨格筋)】は人体最大の産熱機能(熱を生み出す力)で、【筋肉(骨格筋)】が収縮(活動)すると熱が発生します。
運動をすると体が温かくなるのも【筋肉(骨格筋)】による熱生産機能によるものですし、寒い時には無意識下の「ストレス反応」により自然と身体を震わせて(骨格筋を収縮させて)熱を生み出そうしています。
意識的な運動をしていない時(寝ている時など)でも、筋肉は姿勢や身体機能を維持するために活動(収縮)しているので、私たちは常に一定の体温を維持できています。
一般的に筋肉量の少ない女性に「冷え性」が多いことや、身体を鍛えている人ほど体温が高い傾向があるのは、【筋肉(骨格筋)】の熱生産機能が大きく影響しています。
循環を作る(体内物質の貯蔵や運搬)
【筋肉(骨格筋)】というとお店で買う「お肉」ような固い塊のようなイメージしがちですが、筋肉の構成要素の約60〜70%は水分(血液の集まり)で、全身の血液の循環を正常に行うには筋肉の作用(収縮)が不可欠です。
全身に数百ある筋肉はすべて血管の周りを覆うように筋繊維が存在していて、全身の血流を促通するポンプのような筋肉運動によって血液を通して酸素や栄養を運び、老廃物を戻すなどの働きが行われます。
筋トレや運動をすると筋肉が太く強くなっていきますが、この時いきなり筋繊維が発達するわけではありません。
筋肉を収縮させる運動には酸素供給が不可欠な為、酸素の供給器官である血管(毛細血管)がまず伸びますが、血管だけではとても弱いのでそのまわりを補強するように筋繊維が発達します。
つまり、筋肉は血管を全身に張り巡らせ、血液循環を維持するために発達する(した)組織であるとも言えます。
外部の衝撃から内臓や骨格を守る
人体は骨格で囲まれた枠組みの中に、生命維持を司る「脳」「心臓」「脊髄」「内臓」「神経」「血液」「体液」などを収納しています。
その骨格を繋いで外壁を作るように全身を囲んでいるのが【筋肉(骨格筋)】で、外部からの衝撃から骨格や内臓を保護するためにも重要な役割を果たしています。
運動を起こす
人間の軸となる骨格維持しつつ可動関節を動かし、歩行などの運動や姿勢変化を起こすことができる器官は人体で「骨格筋」のみです。
スポーツや筋トレなどのわかりやすく関節を動かす「運動」は筋肉の作用として一番イメージしやすいですが、普段意識することのない「ご飯を食べる」「パソコンのキーボードを打つ」「笑う」「うなずく」「会話する」などの日常の動きもすべて筋肉によって起こる運動で、脳から神経を通じて運動の指令が筋肉に伝えられ、筋肉が動く(収縮する)ことによって運動や動作が可能となります。
【筋肉(骨格筋)種類】「インナーマッスル」と「アウターマッスル」違いとは?
筋肉トレーニングのやり方を説明する時などに「インナーマッスル」と「アウターマッスル」に分類して説明されることがよくありますが、実は「インナーマッスル」と「アウターマッスル」には解剖学や生理学上の明確な定義はありません。
世間一般の「トレーニングメソッド」の説明によく使われる「インナーマッスル」と「アウターマッスル」の区別は、解剖学や生理学上の区分とは異なるトレーナー独自の理論になっている場合がほとんどですが、【筋肉(骨格筋)種類】を特徴から2種類に分類し、トレーニングのやり方を説明する時の共通用語として定着しています。
分類 | アウターマッスル | インナーマッスル |
---|---|---|
解剖学による区分 | 解剖学的には「外来筋」に区分されるものが多い | 解剖学的には「内在筋」に区分されるものが多い |
構造の特徴 | 身体の表層(皮膚に近い部分)にある比較的大きな筋肉 | アウターマッスルより深層(骨により近い部分)に付着する筋肉群で比較的小さい |
役割の特徴 | シルエット(見た目)に大きく影響し、ダイナミックな動き(運動)を起こす筋肉なのでわかりやすい | 主は姿勢を安定させたり呼吸を制御するなどより静的安定に重要な役割を担う筋肉 |
意識しやすさ | 見た目や体感(動き)でわかりやすいため意識しやすい | 見た目や体感(動き)で認識しにくいので意識が難しい |
表層にあり比較的大きな「アウターマッスル」は、動きがわかりやすく負荷もかけやすいので強化しやすい筋肉であるのに対し、姿勢保持や静的安定に主に作用する「インナーマッスル」はわかりやすい「動き」でトレーニングするのが難しいため、トレーニングやエクサイズをするときは、どうしても「アウターマッスル」に意識が向いてしまい、身体が太く大きくなるだけで姿勢やスタイル改善につながらない、など努力に結果が伴わないことも起きてしまいます。
そこで、目に見えるようなダイナミックな運動を起こしたり、外から簡単に触診できる骨格筋を「アウターマッスル(外側の筋肉)」と呼ぶのに対し、身体の深層部にあり直接的に触診したり大きなわかりやすい運動を起こすわけではないけれど姿勢、軸、バランスの維持に重要な役割を持つ骨格筋を「インナーマッスル(内側の筋肉)」と区別することで、運動をする目的やターゲットを明確にしようとする狙いがあり、その意味では「アウターマッスル」と「インナーマッスル」区別はとても有効です。
ただ、自分の身体の構造を理解して適切なメンテナンスやトレーニングをするために、骨格筋を「インナーマッスル」と「アウターマッスル」に分類すること自体にはあまり意味はなく、筋肉ごとの解剖学構造や役割、周辺の筋肉との連携や機能ユニット構造の理解の方が重要です。
身体全体における各筋肉の役割やつながり(連動)を理解することで、「スタイルを良くしたい」「お腹を凹ませたい」「猫背を治したい」「体力をつけたい」「逆三角形ボディにメイクしたい」など目的に応じてやるべきトレーニングやメソッドが明確になります。
【筋肉(骨格筋)】作用(収縮と弛緩)の原則!
【筋肉(骨格筋)】が働く(作用する)ことで、姿勢保持や日常活動、運動、スポーツなどにおける多用な動き(姿勢変化)ができますが、そもそも【筋肉(骨格筋)】が働く(作用する)とは一体どういうことなのでしょうか?
効果的な筋トレやボディメイク、姿勢改善を行うためには【筋肉(骨格筋)】の働き(作用)の仕組みの正しい理解も不可欠です。
【筋肉(骨格筋)】はチームで働く
まず抑えておきたい原則は、【筋肉(骨格筋)はチームで働く】ということです。
【筋肉(骨格筋)】は人体の筋肉全体の40%を占めていますが、約400個の【筋肉(骨格筋)】が頭から足先までリレーをするかのように張り巡らされています。
私たちが姿勢を維持したり運動を起こす時には、単独の筋肉だけが作用するのではなく、ほぼ全身の筋肉の強弱、緩急、動静、働休、協力、拮抗...など複雑で絶妙なバランスによる共同作業が行われています。
例えば、人間の基本動作の一つである「歩行:歩く動作」は足や脚だけが動けばできる動作ではありません。
一歩前に進むための動作を起こす筋肉の数はメインなものだけでも約200個ほどあり、加えて姿勢を保持するための体幹の運動、バランスを取るための上肢の運動など、ほぼ全身の筋肉を連携させて使っています。
筋肉は単独ではなく全身がワンチームとなって働いている(作用している)という意識はとても重要で、リハビリでも、アスリートのパフォーマンス向上でも、ダイエットやボディメイクでも、この意識を持つだけで効果に大きな違いが出ます。
【筋肉(骨格筋)】「収縮」と「弛緩」定義と違い
先ほど全身の筋肉はチームで働いていると説明しました。
ある動作が生じるということは、その運動を起こす機能を持っている筋肉が収縮し、その反対の機能を持っている筋肉が弛緩することが基本原則になります。
例えば、肘を曲げて「力こぶ」を出したい時は、肘関節を「曲げる」働きのある【筋肉(骨格筋)】である「上腕二頭筋」が収縮し、その反対に肘関節を「伸ばす」拮抗作用がある【筋肉(骨格筋)】である「上腕三頭筋」が弛緩します。
分類 | 収縮 | 弛緩 |
---|---|---|
状態 | 働いている | 休んでいる |
筋肉 | 張力が生じている | 張力が生じていない |
生理学用語では「収縮」は「筋肉に張力が発生すること」を収縮といい、筋肉に力を入れた状態つまり筋肉が働いている状態のことを指します。
「収縮」と反対に、筋肉が働いていない(張力は発生していない)状態を「弛緩(または伸展)」と呼びます。
筋長は関係ない?!【筋肉(骨格筋)】収縮と筋肉の長さの関係
【筋肉(骨格筋)】の収縮の仕方は3種類あり、筋長が短くなる場合もあれば、長くなったり、変わらない場合もあります。
つまり、筋肉が働いている(収縮:張力が生じている)のか休んでいる(弛緩:張力が生じていない)のかと、筋肉の長さ(筋長)の変化はそれぞれ別に考える必要があります。
分類 | 筋長の変化 | 起始と停止の距離 | 例:上腕二頭筋 |
---|---|---|---|
求心性収縮 | 収縮している筋肉の長さが短くなる状態 | 近づく | ダンベルを持ち上げるために肘を曲げる時 |
遠心性収縮 | 収縮している筋肉の長さが長くなる状態 | 離れる | ダンベルを持ち上げたが重さに耐えられず肘が伸展してしまう時 |
同尺性収縮 | 収縮している筋肉の長さが一定で変わらない状態 | 変わらない | ダンベルを持ち上げ、重さに耐えながら保持している時 (重力、体重、外力などに対抗しながら収縮する) |
「収縮」は一般的に「縮む、縮んで短くなる」という意味なので「収縮」= 「筋肉の長さ(筋長)が短くなる」、「伸展」も文字通りだと「筋肉の長さが伸びる」という意味になるので「弛緩」= 「筋肉の長さ(筋長)が長くなる」と勘違いしがちです。
生理学的に「筋肉の伸展」というのは「弛緩」と同義で、「収縮」と同じように筋長とは直接関係がありませんので注意しましょう。
例えば、右腕の力を抜いてだらりと下げた状態から右腕は脱力したまま左手で右手を持ち上げて右腕の肘を曲げたとき、右腕の「上腕二頭筋」は、力を入れていないので「弛緩(伸展)」したままですが、筋肉の長さは短くなっています。
また、力こぶを作ったときに収縮しているのは「上腕二頭筋」で、「上腕三頭筋」は伸展(弛緩)していますが、この状態で「上腕三頭筋」にも力を入れると「上腕三頭筋」も収縮(同尺性収縮)しますが、筋肉の長さが短くなるわけではありません。
【筋肉(骨格筋)】「起始停止」と「作用(働き)」の関係
【筋肉(骨格筋)】の作用(働き)は、【筋肉(骨格筋)】の起始停止を理解することでも明確になります。
【筋肉(骨格筋)】の解剖学構造を説明する時に起始と停止がそれぞれ指定されていますが、実際の運動を考える時に、どちらが起始か停止かはどうでもよく、重要なのは2つの起点があり、「どちらが固定されていて筋長がどう変化させることでどんな運動が生じるのか」がイメージできることです。
分類 | 筋長の変化 | 起始と停止の距離 |
---|---|---|
求心性収縮 | 短くなる | 近づく |
遠心性収縮 | 長くなる | 離れる |
同尺性収縮 | 一定で変わらない状態 | 変わらない |
一番イメージしやすいのは起始と停止が近づく(筋長が短くなる)「求心性収縮」だと思うので、まずは起始と停止が近づいたらどんな運動になるかイメージし、イメージができたら起始と停止のどちらか一方を固定した場合の求心性収縮で動く関節をイメージしましょう。
「同尺性収縮」や「遠心性収縮」の作用をイメージするには、他の筋肉を含めた全身筋肉の作用(拮抗、共同、筋膜のつながりなど)の理解も必要となりますので、イメージが難しいと感じる場合は一度置いておきましょう。
「速筋」と「遅筋」の違い:「持久力」「瞬発力」「筋肉痛」のメカニズム
久しぶりに運動をした時やダイエットやボディメイク目的で新しい筋トレやトレーニングメニューを導入した時、翌日すぐに「筋肉痛」を実感する場合と3日後くらいに「筋肉痛」になる場合があり、翌日に「筋肉痛」が来るのは若い証拠で、「筋肉痛」を感じるまでに2〜3日かかるのは歳をとった証拠と言われます。
実は、「筋肉痛」が起こるまでに要する日数と年齢は直接的に関係なく、使った「筋肉痛」の種類や使い方によりその差が生じているだけです。
また、同じ陸上選手でも、「瞬発力」が重要な短距離走選手と「持久力」が重要なマラソンの選手では【筋肉(骨格筋)】で形成されるシルエット(見た目)が全然違いますが、これも必要なパフォーマンス(「瞬発力」or「持久力」)を高めて良い結果を出すために鍛えるべき【筋肉(骨格筋)】の種類が異なるからです。
【筋肉(骨格筋)】はその作用や目的によってもいくつかの種類に分類できますので、その違いを意識していることで、スポーツのパフォーマンス改善はもちろん、筋肉痛になりにくいトレーニング方法や疲れにくい姿勢の作り方も見えてきます。
「筋肉痛」のメカニズム
まず、「筋肉痛」が起こるメカニズムから整理しましょう。
筋トレやスポーツなどで、普段の【筋肉(骨格筋)】の働き以上の負荷がかかった場合や、お休みしていた【筋肉(骨格筋)】に久しぶりに刺激が入った場合、【筋肉(骨格筋)】の周りの組織である筋膜の細胞が破壊されて痛みを感じる物質が出て、その物質が脳に伝えられることで「筋肉痛」を感じます。
初めて行う運動時に「筋肉痛」が起きやすく、慣れてくるとその時と同じ運動を行っていても「筋肉痛」が起きにくくなる理由は、【筋肉(骨格筋)】が耐えられる負荷が徐々に増えていくからです。
つまり、普段運動を行わない人は、普段から運動を行っている人よりも「筋肉痛」は起きやすいといえます。
「筋肉痛」の年齢による時間差は神経伝達速度の差?
では、歳をとると「筋肉痛」を感じるまでに時間がかかるとよく言われますが、その原因はどこにあるのでしょうか?
まず、筋肉で痛みの物質が発生してから脳に届くまでの時差、つまり神経の伝達速度が年齢を重ねると遅くなるからという説が考えられます。
ただ、神経の情報伝達速度の遅延が、数日間と人間が自覚出るほどの長さになるようでは、人間としての活動がそもそも行えないので、「筋肉痛」が遅れる理由を神経伝達速度だけで説明するのは無理があります。
つまり、同じ筋力を持っていて、同じ運動(筋肉の使い方)をする限り、「筋肉痛」が起こる時間に年齢による差はほぼないと言えます。
得意分野が違う2種類の筋繊維:「速筋」と「遅筋」
神経伝達速度の観点で、「筋肉痛」の遅延と年齢に関係がないとしても、実際に年齢を重ねるほど「筋肉痛」が起きるのが遅くなるという体験談をよく聞きますが、その背景には何があるのでしょうか?
【筋肉】を構成する筋繊維には「速筋」と「遅筋」という2種類があり、全ての筋肉に「速筋」と「遅筋」が異なる割合で含まれています。
「筋肉痛」は、速く激しい運動で特に活発に作用する「速筋」を主に使った場合にはすぐに起こり、ゆっくりした長時間の運動で活発になる「遅筋」を使った場合には2〜3日後に起こるというメカニズムがあります。
分類 | 速筋 | 遅筋 |
---|---|---|
得意な動き | 速く激しい運動 | ゆっくりした長時間の運動 |
筋肉痛 | すぐに生じる | 2〜3日後に起こる |
【筋肉】を構成している筋繊維は「遅筋繊維(Type 1)」と「速筋繊維(Type 2)」で、以下の通り3種類にさらに細かく分類できます。
種類 | 収縮速度 | 疲労速度 | 活動開始順 |
---|---|---|---|
遅筋繊維 Type 1/Slow-twitch fibers | 遅い | 非常に遅い | 1 |
速筋繊維 Type 2/Fast-twitch fibers | |||
Type 2A | 速い | 中等度 | 2 |
Type 2B | 速い | 非常に速い | 3 |
筋繊維を収縮させるためのカルシウムの流れを作るエネルギーは、ブドウ糖(血糖)をエネルギーに変換する筋肉細胞組織であるミトコンドリアから供給されます。
遅筋繊維が疲れにくいのは、速筋繊維よりも多くのミトコンドリアを含んでいてより多くのエネルギーを産出できることと、速筋繊維よりも直径が小さいため周りにより多くの毛細血管が走行できることにより、酸素供給と老廃物除去がスムースに行えるからです。
生きている限り休むことが許されない心臓の筋肉(心筋)は遅筋繊維が非常に多く含まれますし、【骨格筋】の中でも姿勢保持が主な作用である「インナーマッスル(内在筋)」の方が、主に大きな関節運動を起こす役割の「アウターマッスル」よりも遅筋繊維の割合が多くなる傾向があります。
【筋肉】が収縮し始めるとき最初に作動するのは「Type 1」で、必要に応じて「Type 2A」→「Type 2B」の順に続きます。
「遅筋」は収縮速度は遅くて爆発力はないものの、まず最初に収縮をはじめて長時間使っても疲労しにくい筋肉なので、姿勢を保持するヨガや有酸素運動など持久力が必要な運動に適した筋肉です。
一方、「速筋」は収縮速度が早くて体積が大きいため、短時間で大きな力を発揮を発揮するダッシュやジャンプなどの瞬発力やパワーが必要となる無酸素運動に適した筋肉です。
ただ、「Type 2B」は、「Type 1」と続いて「Type 2A」が動員されたあとでしか活動を始めないため、「Type 2B」までトレーニングするには、十分な時間をかけて適切な負荷をかけ続ける必要があります。
「筋肉痛」の時間差を生むのは「筋肉の種類と使い方」
ここまでわかると、「筋肉痛」の年齢差の原因が明確に説明できます。
高齢になるほど「筋肉痛」痛を感じるまでの時間が長くなると感じる人が多いのは、「行っている運動の質が若い時と年齢を重ねた時では大きく変わる」からです。
年齢を重ねると負荷の大きい運動はほぼやらなくなりますし、若い人と一緒に同じ運動をしているつもりでも使う筋肉や使い方がゆっくりとしている場合がほとんどだと思います。
つまり、年齢を重ねて筋肉痛を感じるのが遅くなったのではなく、「年齢を重ねて筋力が低下し、すぐに筋肉痛になるような速筋を使った運動が行えくなった(つまり、慢性的な筋力低下や運動不足)」がほとんどのケースで正解になると思います。
そもそも、「筋肉痛」になるだけの負荷を筋肉に与えなければ「筋肉痛」にはなりませんので、逆に言えば過負荷にならずに運動できているとも言えます。
【筋肉(骨格筋)】は、年齢を重ねても姿勢と運動パフォーマンスを維持して健康で元気に生きるための要となります。
低い負荷でも、無理に「筋肉痛」を起こすような運動をしなくても、正しく【筋肉(骨格筋)】解剖学を意識すれば効果的に鍛えることができますので、このサイトを参考に自分にあったプログラムで筋トレを楽しみましょう。
年齢と筋力低下
私たちの身体の筋肉は、ごく普通に日常生活を営んでいたとしても20歳をピークに年々1%ずつ減っていくと言われていますので、加齢に伴う筋力低下の対策は、若いうちから意識しておく必要があります。
20代の平均的な筋肉量は男性で約40%、女性で約35%ですが、70代になると男性で約26%、女性で約23%とピーク時の2/3程度になっているというデータがあります。
20歳までは成長期ですし、運動量も多いので、筋肉が増えやすいというのもありますが、多くは年齢を重ねるほど、体育の時間や部活動など、定期的かつ意識的な運動機会が減り、【筋肉(骨格筋)】をバランス良く適切な負荷で使わなくなる生活習慣が原因で筋力はどんどん低下していきます。
宇宙飛行士は宇宙から地球に帰還したとき筋力が衰えてしまうので、地球に戻ったあとは筋トレなどのリハビリが必要ということを聞いたことがあると思いますが、重力によるストレスを受けない状態、つまり寝た状態や宇宙などの無重力状態や水中で浮力がかかり重力の影響が相殺されている状態で、筋肉にほとんど負荷がかかりませんので1日に約0.5%の筋肉が失われていくと言われています。
病気やケガで寝込むと、症状での体力消耗に加えて筋力が減少することによって身体を支える力が大きく減少してしまいます。
「高齢者が骨折後に寝たきりになってしまった」という話はよく聞くと思いますが、もともと筋力の少ない高齢者が一定期間寝たきり状態になることによって筋力が急速に低下したため、骨折部位が治癒したとしても、その後身体を支えるだけの筋力を鍛えることが困難になってしまった為です。
最近ではリハビリテーション医学やスポーツ医学の分野が発達し、病気やケガで安静や入院を余儀なくされても安静は極力局部に限定し早期から離床を促す方向に大きく変わってきていますし、宇宙飛行士にも出発前の十分な筋力訓練と飛行中も宇宙空間でランニングマシンやエアロバイクなどを用いて筋肉に負荷をかけることをプログラムで決められています。
筋肉は正しく使い続けなければ衰える一方というのは避けられない事実なので、筋力を維持するためには正しい知識とトレーニングが必要となることを知っておくことが非常に重要です。
若くても老けて見える人は姿勢を保つ筋肉が弱いことが原因なので、特に重力に対抗して姿勢を維持するという意識を持つだけでもかなり見た目は変わります。
特に、人体の筋肉の7割以上がおへそから下の筋肉であり、心臓から送られた血液を心臓に戻す最大のポンプも筋肉なので、下半身を中心に全身をバランスよく使う「歩く」という動作は筋力を鍛える為にとても有効で、この際にも姿勢と自分が使っている筋肉を意識することがとても重要です。
「骨(骨格)」と「筋肉(骨格筋)」は常にセット!
200以上の骨とそのまわりを囲む400以上の【筋肉(骨格筋)】が互いに協力し合って作用することで、私たちの姿勢や見た目(ボディライン)が決まり、様々な活動や運動が可能になります。
例えば、「肩こり」と聞くと「筋肉のコリ」だから「凝っている筋肉をほぐせばいいだろう」とマッサージなどに行っても、一時的な効果しか期待できないのは人体構造を理解した根本的な解決方法ではないからです。
骨と骨がつながって関節が作られて骨格が形成され、そのなかに人体の生命活動を司る内臓が収まっていますが、内臓を囲む骨格を外部の衝撃から守ったり様々な動線やライフラインをつなぐ役割をするのが骨に付着している骨格筋という筋肉なので、「骨」と「筋肉」は常にセットで考える必要がありますし、ひとつの動作を行うだけでも常に全身の筋肉や骨格になんらかの影響を及ぼしていることも忘れてはいけません。
骨格(骨と骨との連結)が歪むとその形に引っ張られた筋肉は無理な姿勢を強いられ「肩こり」「腰痛」などの症状が生じますし、偏った筋肉の使い方をしていると筋肉のバランスが崩れるので骨格が歪み始めて不良姿勢が生じ、「肩こり」「腰痛」などの症状に繋がります。
「筋肉ユニット」や「筋膜のつながり」も意識
どんな運動においても、ひとつの【筋肉(骨格筋)】が「単独」で作用することはなく、一定の規則を持った連携や連動をしていますし、役割ごとに大きな機能単位(ユニット)として作用することもあります。
例えば、上半身を後ろに反らすいわゆる「伸び」の運動では背中の筋肉を緩めると同時に反対側のお腹の筋肉は身体が後ろにひっくり返らないように収縮しますし、背骨周りの小さい筋肉はもちろん、関係ないように思える首の筋肉や手足の筋肉や顔の筋肉も作用しています。
現代は高度に文化が発達して、これまでの人類の歴史にはなかった「長時間机でパソコンを使って仕事をしている」「満員電車でつり革につかまり必死に立っている」「いつもスマホ画面を見る為に下を向いている」などのような不自然な姿勢を長時間強いられることが多くあります。
これらの不自然な同じ姿勢を長時間そのまま続けると、本来は柔軟性とバランスに富んだ筋肉同士の相互作用が働く機会を失い、一定の方向で筋肉が固定されて動かない状態なので、筋肉の偏った張力により骨格も引っ張られ骨格も歪んだ状態になりやすく、放置すると骨格まで曲がって固定してしまうということも起こり得ます。
「筋膜」の構造や仕組み、筋膜による筋肉のつながりがわかれば、何故「筋膜」が私たちの姿勢や活動に影響するのか、どんな方法で「筋膜リリース」すればいいのかが自分で考えられるようになります。
呼吸や姿勢維持は、普段意識していませんが、これも筋肉運動によるコントロールされていますので、 姿勢保持や呼吸のために作用する複数の筋肉で構成される機能ユニットに学ぶことで、普段の意識も大きく変わります。