咀嚼嚥下や発声など口腔と喉を介した運動に作用する側頭部・顎・舌・喉(頸胸部深層)筋肉の解剖学構造(起始・停止・作用・神経支配)や効果的なトレーニング方法を一覧にまとめました。
咀嚼嚥下と発声に作用する筋肉群
咀嚼嚥下や発声など口腔と喉を介した運動に作用する側頭部・顎・舌・喉(頸胸部深層)の筋肉は、大きく以下の3種類に分類できます。
分類 | 筋肉名 | 主な作用 |
---|---|---|
咀嚼筋群 | 側頭筋 咬筋 内側翼突筋 外側翼突筋 | 「下顎骨」を動かして口の開閉や咀嚼をする |
舌骨上筋群 | 顎二腹筋 顎舌骨筋 オトガイ舌骨筋 茎突舌骨筋 | 「舌骨」を「下顎骨」と「頭蓋底」に接続して「口腔底」を構成 「舌骨」の動きや位置を調整する |
舌骨下筋群 | 胸骨舌骨筋 肩甲舌骨筋 胸骨甲状筋 甲状舌骨筋 | 「喉頭」「胸骨」「肩甲骨」と接続 「舌骨」と「喉頭の甲状軟骨」の動きや位置を調整する |
【咀嚼筋群】種類と作用まとめ
【咀嚼筋群】に主に作用する筋肉には、側頭窩にある「側頭筋」、頬にある「咬筋」、側頭下窩にある「内側翼突筋」と「外側翼突筋」が含まれます。
筋肉名 | ふりがな | 英語名 | 主な作用 |
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側頭筋 | そくとうきん | Temporalis | 挙上 リトラクション |
咬筋 | こうきん | Masseter | 挙上 プロトラクション |
内側翼突筋 | ないそくよくとつきん | Medial Pterygoid | 挙上 プロトラクション 回転 |
外側翼突筋 | がいそくよくとつきん | Lateral Pterygoid | 下制 プロトラクション 回転 |
【咀嚼筋群】は「三叉神経支配」で、「顎関節」において「下顎」を多様な方向へ動かし、食べ物を咀嚼する時に活躍します。
運動方向 | 英語 | 補足 |
---|---|---|
プロトラクション(前方突出) | Protraction | 下顎を前方に突き出す |
リトラクション(後方突出) | Retraction | 下顎を後方に引く |
挙上 | Elevation | 下顎を引き上げて口を閉じる |
下制 | Depression | 下顎を引き下げて口を開ける |
回転 | Rotation | 下顎を左右に動かす |
主に「顎関節」に作用する【咀嚼筋群】は、固い物を食べる時で20~30kg、歯ぎしりでは100kg程度と非常に大きな力を出すことができます。
そのため、【咀嚼筋群】が歪みや凝りなどで正常に作用しなくなると、咀嚼に影響が出てくるのはもちろん、隣接している顔・首・頭の筋肉にも影響を及ぼして、顔の歪みや頭痛、首コリや眼精疲労などの原因にもなります。
【咀嚼筋群】はストレスや奥歯の噛み締め、食事のクセなどにより左右差も生じやすい筋肉でもあるため、「顔の左右差が気になる」「口が真っ直ぐ開かない」「口が開きにくい/閉じにくい」「顎がガクガクする」などの自覚症状がある場合は【咀嚼筋群】の解剖学構造を意識したセルフメンテナンスをすると、顎のトラブルが解消するだけでなく、フェイスラインが左右対象に整い、たるみ改善、リフトアップ、口角が上がるなどの美顔・小顔も期待できます。
【咬筋】
【咬筋】は大きな筋腹で顎関節関節包を補強しながら、「下顎の挙上とプロトラクション」に作用する筋肉です。
顎から頬骨についている筋肉のため、【咬筋】がこるとガクガク顎になるだけでなく、フェイスラインや表情の歪み等にもつながり、顔の左右非対称、エラ張り、たるみなどの原因にもなります。
【咬筋】は左右差が生じやすい筋肉なので、左右のバランスを整える意識を持って、顔・頭・首を含め全身の凝りをほぐしてバランスを整えましょう。
【咬筋】解剖学構造を理解して効果的にセルフメンテナンスすると、お顔が左右対称に整い、エラ張りやたるみ改善、リフトアップ、口角が上がるなどの美顔・小顔も期待できます。
【側頭筋】
【側頭筋】は、頭の横(側頭部)を耳の上から目のすぐ横まで側頭部を広く覆う扇型の筋肉で、「下顎骨」まで走行しているため「下顎骨」を後ろへひっぱりながら引き上げる方向への力が作用します。
【側頭筋】は人体の中でもかなり強い力を発揮する筋肉のひとつですが、その力強さは、私たちが奥歯で硬い物を噛み砕いたり、また強い歯ぎしりで噛み締めで歯が欠けることがあることからもわかると思います。
人との表情を介したコミュニケーションが減り、ストレスが多い現代では、そもそも「表情筋」や「頭の筋肉」が凝り固まりがちですが、中でも無意識の噛み締めや歯ぎしりで酷使される【側頭筋】は特に凝りやすく、慢性頭痛や擬似歯痛(歯に問題がないのに歯が痛いと感じる)などの原因になることがよくあります。
【側頭筋】をケアすることで、ほうれい線や顔の歪みなど顔の悩みも解消しやすくなります。
【外側翼突筋】
【外側翼突筋】は「咀嚼筋」のひとつとして「蝶形骨」から「顎関節」に向かって走行し、「下顎」の動きを制御することで「咀嚼運動」に貢献しています。
【外側翼突筋】は両側同時に収縮すると、「下顎の下制御とプロトラクション」に、片側収縮すると「下顎の回転」に作用し、他の「咀嚼筋」との相乗作用で食事の時などに活躍します。
【内側翼突筋】
【内側翼突筋】は「下顎骨内側」から「下顎」を内側から強く引く軸を作るような走行で、他の「咀嚼筋」群と相乗的に作用して咀嚼運動を円滑にする様々な下顎の動きに作用します。
【内側翼突筋】の片側のみが収縮すると「下顎骨」をわずかに内側に回転させる作用が生じ、【内側翼突筋】が両側同時に収縮すると下顎挙上に作用します。
同側の「外側翼突筋」と同時に作用すると、収縮した側の下顎が前内側にゆれてプロトラクションに作用し、【内側翼突筋】と「外側翼突筋」が交互に収縮すると下顎が左右に動きます。
【舌骨上筋群】種類と作用まとめ
【舌骨上筋群】には「舌骨上」にある以下の4筋が含まれ、「舌骨」を「下顎骨」と「頭蓋底」に接続して「口腔底」を構成します。
筋肉名 | ふりがな | 英語名 | 主な作用 |
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顎二腹筋 | がくにふくきん | Digastric | 下顎下制 舌骨挙上 |
顎舌骨筋 | がくぜっこつきん | Mylohyoid | 下顎下制 舌骨と口腔底挙上 |
オトガイ舌骨筋 | おとがいぜっこつきん | Geniohyoid | 舌骨を挙上して前方へ引く 下顎下制 |
茎突舌骨筋 | けいとつぜっこつきん | Stylohyoid | 舌骨の挙上して後方へ引く |
【舌骨上筋群】は主に嚥下や発声の際の「口腔底」と「舌骨」の動き調整に作用するため、【舌骨上筋群】機能が低下すると嚥下時のムセや声の出にくさ(声量や発声の問題)などの原因になります。
【オトガイ舌骨筋】
【オトガイ舌骨筋】は、「オトガイ(下顎の先端)」と「舌骨」をつなぐ走行で、発声や嚥下中の「口腔底」と「舌骨」の動き調整に作用しています。
【オトガイ舌骨筋】が収縮することで「喉頭」と「咽頭」が前上方に移動するため、「嚥下(咽頭が広がり食物を送り込める状態)」や声帯を動かす発声に関与します。
また、「舌骨」が固定されている場合には「下顎」を下制して内側に引っ張る動作が生じ、咀嚼時の開口をサポートします。
【顎舌骨筋】
【顎舌骨筋】は「下顎骨」と「舌骨」の間を走行して「口腔底」を形成し、他の【舌骨上筋】と相乗的に働いて「舌骨」および「口腔底」の挙上と「下顎骨」下制に作用します。
「下顎骨」が固定されている時は、「口腔底」と「舌骨」を挙上することで「舌」を「硬口蓋」に押し付けて食べた物を「咽頭」に送り、「嚥下」をサポートします。
「舌骨」が固定されている時は「顎二腹筋」「オトガイ舌骨筋」と共に抵抗に対する「下顎骨」引き下げに作用し、食べ物で接着されている上下の歯の間を開けて咀嚼運動をサポートします。
【顎二腹筋】
【顎二腹筋】は名前の通り二腹の筋肉で、「舌骨」につながる腱を挟んで前腹と後腹に分かれています。
【顎二腹筋】は、「舌骨」が固定されている時は「下顎骨下制」に、下顎が固定されている時は「舌骨」挙上に作用し、咀嚼や嚥下を補助しています。
ちなみに、口を開けたままだと嚥下がしにくいのは【顎二腹筋】が大きく影響しています。
【茎突舌骨筋】
【茎突舌骨筋】は、「側頭骨茎状突起」から起始して「舌骨体」に停止する薄くて小さい筋肉です。
【茎突舌骨筋】の作用により舌が後方に移動すると、食物塊を軟口蓋に向かって押し戻すことができるので、嚥下時によく働きます。
更に、「口腔底」を緊張させることで吸気中に「咽頭」を開けたままにしておく役割もあります。
【舌骨下筋群】種類と作用まとめ
【舌骨下筋群】とは、発声、嚥下、咀嚼中に「舌骨」と「喉頭」の「甲状軟骨」の動きや位置を調整してる筋肉群のことで、名前の通り「舌骨」より下位にあります。
【舌骨下筋群】は、表層(「胸骨舌骨筋」「肩甲舌骨筋」)と深層(「胸骨甲状筋」「甲状舌骨筋」)に分類でき、
分類 | 筋肉名 | ふりがな | 英語名 | 主な作用 |
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表層 | 胸骨舌骨筋 | きょうこつぜっこつきん | Sternohyoid | 舌骨下制(気道再開) |
表層 | 肩甲舌骨筋 | けんこうぜっこつきん | Omohyoid | 舌骨下制(気道再開) 頸動脈鞘を緊張 |
深層 | 胸骨甲状筋 | きょうこつこうじょうきん | Sternothyroid | 舌骨下制(気道再開) |
深層 | 甲状舌骨筋 | こうじょうぜっこつきん | Thyrohyoid | 舌骨下制(気道再開) 咽頭挙上 |
【胸骨舌骨筋】
【胸骨舌骨筋】は、「舌骨」を「鎖骨」と「胸骨」に接続する細いストラップのような構造で、嚥下後に「舌骨」と「喉頭」を下方に引くことによって呼吸できる状態に戻す働きがあります。
「舌骨上筋」の舌骨挙上作用により咽頭を隆起させることで、嚥下中に気道を閉じて誤嚥を防ぎながら食塊を確実に「咽頭」に送りこむことができますが、その後に【胸骨舌骨筋】が働いて咽頭の入り口を再開することで、気道を介した呼吸が再開できます。
【肩甲舌骨筋】
【肩甲舌骨筋】は、二つの筋腹を中間腱を介して結合して「肩甲骨」から「舌骨」まで走行している筋肉です。
【肩甲舌骨筋】は「舌骨下筋」と共に作用して、嚥下のために「舌骨上筋群」の作用で挙上した舌骨と咽頭を引き下げて呼吸を再開させます。
【肩甲舌骨筋】は、隣接している「頸動脈鞘」を緊張させる作用もあります。
【胸骨甲状筋】
【胸骨甲状筋】は、「舌骨下筋」の中でも比較的短く幅広い筋腹を構成しながら「胸郭前上部(胸骨と第1肋骨)」と「甲状軟骨」をつないでいます。
【胸骨甲状筋】の主な作用は、他の「舌骨下筋」同様、嚥下時に挙上した「舌骨」と「咽頭」を引き下げて呼吸ができる通常位置に戻すことです。
また、【胸骨甲状筋】は、「甲状腺」など頸部の神経血管および腺など重要な多数の器官と隣接してそれらの機能にも影響を与えます。
【甲状舌骨筋】
【甲状舌骨筋】は同じく「舌骨下筋群深層」に分類される「胸骨甲状筋」の上部にある四角形の小さい筋肉で、「胸骨甲状筋」の頭蓋拡張部とみなされることもありますが、「胸骨甲状筋」とは神経支配と一部作用が異なります。
【甲状舌骨筋】は他の「舌骨下筋」と相乗的に作用して嚥下後の「舌骨」引き下げに働く他、「舌骨上筋」とも働いて高音を出す時の咽頭挙上にも作用します。