人体で一番可動範囲や角度が大きい「肩関節複合体」を支えて動かす筋肉群【肩関節(肩甲帯)の筋肉】の名称、分類、解剖学(起始停止・作用・神経支配)を一覧にまとめました。
【肩関節(肩甲帯)の筋肉】とは?構造と役割分類
【肩関節(肩甲帯)の筋肉】とは、肩関節で上肢運動を起こす「上腕骨」と「体幹軸(主に肩甲骨を介して)」を繋ぐ構造で、上腕骨や肩甲骨を体幹に安定させ、肩関節(主に肩甲上腕関節)の運動を起こしたり調整する働きがある筋肉群です。
【肩関節(肩甲帯)の筋肉】は身体の前面および後面から包み込むように重なりあっていますが、前面の筋肉は胸筋群に、背面の筋肉は背筋群(外来筋または内在筋)にも含まれます。
分類 | 筋肉 |
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前面 | 大胸筋 小胸筋 鎖骨下筋 前鋸筋 |
背面外来 | 僧帽筋 広背筋 肩甲挙筋 大菱形筋 小菱形筋 |
背面内在 | 三角筋 大円筋 ローテーターカフ(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋) |
特に、「肩甲骨(体幹)」と「上腕骨」を繋いで「上腕骨」を胸郭(体幹)に安定させることに特化した腱板構造を作る4つの筋肉を総称した「ローテーターカフ(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)」は、肩甲帯の機能構造を理解する上でとても重要です。
①【肩関節(肩甲帯)】前面の筋肉:胸筋群
【肩関節(肩甲帯)】前面にある筋肉群は、主に腕神経叢に支配されていている胸郭前面にある筋肉群なので、上肢を前面から肩関節複合体(鎖骨・胸郭・肩甲骨)に安定させながら上肢運動を起こす役割に加え、呼吸にも大きく関与する胸部筋【胸郭筋肉と胸筋(呼吸筋および呼吸補助筋)】にも分類されます。
筋肉名 | 特徴 |
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大胸筋(Pectoralis Major) | 胸郭前面表層にある大きく強力な筋肉 |
小胸筋(Pectoralis Minor) | 大胸筋の深層で肩甲骨から肋骨に吊り下がるサスペンダーのような形の筋肉 |
鎖骨下筋(Subclavius) | 鎖骨下にある小さな筋肉 |
前鋸筋(Serratus Anterior) | 肩甲骨と胸筋の下層(深層)の胸壁側面にある扇状の筋肉 |
【胸郭筋肉と胸筋】とは「胸板やバストの土台を作り上肢運動に作用する胸筋」「胸郭(肋骨)運動作用して呼吸を補助する筋肉(前面および背面)」「胸部と腹部の境にあるメインの呼吸筋であり全ての筋肉のコアとなる横隔膜」を含みます。
各筋肉の詳細は、【胸郭(呼吸)筋肉と胸筋】のページでもまとめています。
②【肩関節(肩甲帯)】後面の筋肉(外来筋)
【肩関節(肩甲帯)】後面にある筋肉群は背筋群(胸郭後面にある筋肉群)にも分類されますが、その中でも外来筋に分類される表層にある大きな筋肉は、上肢を背面から肩関節複合体(鎖骨・胸郭・肩甲骨)に安定させながら上肢運動を起こす役割に加え、呼吸(特に努力呼吸)にも関与します。
筋肉名 | 特徴 |
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僧帽筋(Trapezius) | 菱形状で背中のシルエット上部を作る筋肉 |
広背筋(Latissimus Dorsi) | 背中のシルエット下部(くびれや逆三角形)を作る筋肉 |
肩甲挙筋(Levator Scapulae) | 上部頸椎から肩甲骨上角に向かって走行する細長い筋肉 |
大菱形筋と小菱形筋(Rhomboid Muscles) | 肩甲骨内側縁と背骨をつなぐ筋肉 |
【背筋】は、背中、ウエスト、肩のバックラインを構成すると共に、背骨を含む姿勢や運動に関与する筋肉と上肢(肩甲骨)や肋骨(呼吸)運動に作用する筋肉を含みます。
【肩関節(肩甲帯)】後面の筋肉群は、脊髄副神経(CN XI)と頸神経叢支配の「僧帽筋」以外は全て腕神経叢支配です。
各筋肉の詳細は、【背筋(背中と背骨の筋肉)】のページでもまとめています。
③【肩関節(肩甲帯)】後面の筋肉(内在筋)
【肩関節(肩甲帯)】後面にある筋肉群は背筋群にも分類されますが、背筋群の中で背部内在筋に分類される筋肉群には、「三角筋」「大円筋」「ローテーターカフ(回旋腱板)4筋」が含まれ、これらの筋肉群が肩関節の解剖学構造を理解する上でキーになります。
筋肉名 | 特徴 |
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三角筋 | 三角形の形をして肩パッドのように肩関節を覆って肩の丸みを作る筋肉 |
大円筋 | 逆三角形バックライン(脇の隆起)を作るように肩甲骨下面から上腕骨に向かって走行する「広背筋」の補助的な筋肉 |
ローテーターカフ (棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋) | 4筋で肩甲上腕関節を前後上下からしっかりと包み込むような構造 |
【三角筋(Deltoid)】
【三角筋】は、名前の通り、三角形の肩パッドのように肩関節を覆って肩の丸みを作る厚い筋肉で、腕の外転筋(腕を横に開く)として特に強力に作用します。
【三角筋】は肩を上から覆うように広範囲の起始部から上腕骨に収束して停止するため、全体として三角形の形状になりますが、解剖学的には3つの繊維に分類されて、それぞれに役割(作用)分担があります。
【三角筋】前部繊維は胸との境目、【三角筋】中部繊維は肩幅、【三角筋】後部繊維は逆三角形の角を作っていて、見た目(ボディメイク)にも大きく影響する筋肉で、肩関節の動きにも広範囲に作用します。
【大円筋(Teres Major)】
【大円筋】は、逆三角形バックライン(脇の隆起)を作るように肩甲骨下面から上腕骨に向かって走行している厚い筋肉です。
【大円筋】の主な作用は肩甲上腕関節関伸展と内旋で「広背筋」とほぼ同じですが、起始部が違うため作用する姿勢や条件が異なり、お互いに補完しあうような関係です。
また、【大円筋】はローテーターカフと共に肩甲上腕関節関の安定にも作用していますが、肩甲上腕関節関節包には付着していないためローテーターカフには含まれません。
【ローテーターカフ(Rotator Cuff )】 棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋
【ローテーターカフ(回旋筋腱板)】を構成する4つの筋肉:「棘上筋」「棘下筋」「小円筋」「肩甲下筋」は、いずれも肩甲骨から上腕骨頭へ走行し、4筋で肩甲上腕関節を前後上下からしっかりと包み込むような構造になっています。
【ローテーターカフ(回旋筋腱板)】上部では骨同士が密接しているため、筋肉と腱の構造を保護するように滑液包でも覆われています。
「肩関節」は肩甲骨の関節窩と上腕骨骨頭を中心に合計4つの関節構成されている複合体ですが、骨的な動きの制限がほとんどありません。
その分ダイナミックで広範囲な動きに対応できる反面、脱臼や損傷などが起こりやすい不安定な関節でもあります。
そのため、「肩関節」は様々な筋肉や靭帯で補強されることで広範囲で多彩な運動ができるようになっていますが、【ローテーターカフ(Rotator Cuff)】は、動きの範囲が最も大きい肩甲上腕関節の安定と可動性と両立させる重要な機能構造です。
【ローテーターカフ(回旋筋腱板)】が「肩関節」の上腕骨頭を筒のように囲んで肩甲骨関節窩に引きつけるように作用するため、肩関節の解剖学的構造のデメリット(不安定性)を補完し、メリット(可動性)を最大限生かす(骨頭を求心位へ誘導して骨頭の安定した支点での運動を制御)役割をしています。